温泉回だと思ったか
そんなこんなで村まで下りてきたはいいんだけど、6人は既にグロッキーだった。
修行再開とか言ったら絶望で倒れるんじゃないかってくらいにはボロボロ、流石のうずめさんもこの状態では無理だと判断して休息をとることになった。
まず私とうずめさんで村に宿はないかを確認、まぁ隠れ里みたいなものだから当然そんなものはないけれど、うずめさんのように修行に来る人達が使う小屋があるという事でそこに宿泊することに。
なんとうずめさん、過去にここに来た人たちと協力して家を建ててしまったらしい。
小屋と聞いていたけれど普通の一軒家、ただ壁とか天井がところどころ穴あきになっている。
村の人曰く、山から下りてくる虫や獣対策してない家なんて小屋以外に呼びようがないとのこと。
でも温泉ひいてあるのよねこの家……。
というわけで男女でわかれてお風呂に入ることに。
先に男性陣、私達よりも泥とかで汚れてたから先に入れと投げ込んできた、うずめさんが。
「ここの温泉はあの山から湧いてるんだよ、美容にもいいし怪我とか病気にもすっごい効くんだ」
「へぇ、名湯ってやつですか。温泉ってことは元は火山とかですか?」
「んにゃ、水晶の産地だった」
「……それって普通はげ山じゃないですか? なんでこんなに生い茂って、世界各地のどちゃくそ厳しい気候詰め合わせセットみたいになってるんです? 温泉はあれですか? パンドラの箱の最後の希望ですか?」
「源泉の温度が300度超えるから多分希望とは別の何かだと思うよ」
……物理法則、どこにいったのかしら。
せめて自然の摂理と常識は守ってほしい。
「ちなみにですが、その温泉妙な効果とかあります?」
「どんな怪我、病気、その他不調があろうとも一回浸かれば完全回復。本人が望むなら肥満や低身長、ハゲに至るまで治る奇跡の温泉。ただし定期的に浸からないと情緒が不安定になって幻覚や幻聴の症状が出るくらいかな、慣れたら問題なくなるけど」
「あきらかにヤバイお薬の副作用とかなんですが……」
「温泉の成分は普通なんだけど、なぜか身体が温泉を求めるらしいのよ。地元の人は源泉で身を清めてるらしいし」
「伊皿木家も大概と思ってましたが、この辺の人も頭おかしいですね」
「うん、せっちんが言ったらいけない言葉ナンバーワンだね」
うーん、いつから日本は人外魔境になったのかしら。
第三次世界大戦の時防衛に努めてほぼ引きこもってたけど、その際に方々から逃げてきた妖怪とかが街から離れた場所に住んでいて環境を変化させた、なんて都市伝説はあるんだけどね。
そんなフォークロアはさておき、実際のところこの辺りは環境がおかしい。
おかしいんだけど、村の外までは拡大していないことから公安には報告書提出だけでいいでしょ。
検査とか諸々するから手伝ってなんて言われたら面倒すぎて……あ、縁ちゃんに任せればいいか。
案内役にうずめさんを同行させて、護衛役が縁ちゃん、クリスちゃんはVOTの中でゲームに没頭……久しぶりに祥子さんと二人きりチャンス到来かこれ……!
いい……ちょっとその方面で動いてみようかしら。
葉山部長の説得はそうね、将来公安に入る縁ちゃんの研修も兼ねたお仕事という扱いかしら。
うずめさんに関しては私よりも詳しいという理由で十分よね、実際詳しいし。
クリスちゃんは無害、戦闘以外では空気の読める子。
という事は祥子さんとデートに行ってもいいし、お家で二人でゆったりしてもいい……あれ? 最高では?
そのためにまずするべきことを考えると、この特別特訓を早々に終わらせる必要がある。
多少なりともスパルタになるかもしれないけど、文字通りの意味でスパルタやってもらうことになるかもしれないけど……よし決まった。
「うずめさん、ここの温泉はどんな傷もすぐに治るんですよね」
「うん? まぁ外に持ち出すと1日も持たずに普通のお湯、というか水になっちゃうけど」
「火傷もですか?」
「うん、一生跡が残るようなのもきれいさっぱり」
「あの6人、源泉に投げ込みません?」
「やめようねせっちんやめようねマジで」
止められてしまった……過去これほど慌てたうずめさんを見たことがあるだろうか、いやないというレベルで止められてしまった。
「あのね、せっちん。普通の人は、300度の液体にぶち込まれたら死にます。回復すると言っても限度があるのです」
「わたし300度くらいなら平気ですけど」
「せっちんはそろそろ人間辞めてる自覚もとうね」
「いや、辞めかけましたけど、人間辞めるのやめたじゃないですか」
「それができる時点でせっちんは人外みたいなものです」
そこからコンコンと諭されてしまった。
うん、とりあえず6人を源泉に投げ込むプランは無しとなった。
でも私は後で行ってこよう、原液がどんなもんか気になるわ。
刹那さん「正直な話するなら1度海底火山に飲まれました」
縁ちゃん「草」
うずめさん「なんで生きてるのかなこの子」




