修行は始まらない
「腕が! 俺のうでがぁ!」
「誰か……水をくれ……」
「いやだ! 俺はこんなとこで!」
「はは……そうか、俺はまだ夢の中なんだ……」
「お空……奇麗……」
「ここは人の住む土地じゃない……」
山籠もり初日、というか開始十分でこのざまです。
現実逃避2人、精神的衰弱2人、物理的ダメージによるリタイア寸前2人……なんともまぁ散々な結果ね。
とりあえず警察官組は精神的に参ってる感じで、自衛隊組は物理的なダメージ、スパイ組は現実逃避始めてる。
「はいはい騒がない、化けオン運営開発ポーション(仮)を貰ってるからその程度の怪我はすぐ治る」
うずめさんがてきぱきと治療を施していく。
1人はちょっとウサギにかじられて腕が捥げかけてたけれどポーション(仮)のおかげで無事繋がって動くようになった。
飲んでヨシ、かけてヨシの優れもの、ただし味は雑草。
なぜ運営にこれほどの回復力がある物体をポーションなどというのか、という質問を投げかけたら。
「これからもっと高品質なもの作るからですよ。エリクサーとかハイポーションはそういうのに取っておくべきでしょ」
と真顔で言われた。
でもハイポーションとやらの実験場、どう見ても市販の栄養ドリンク混ぜて煮詰めてただけにしか見えないんだよなぁ……。
もう1人の方はうっかり熱砂地帯に入ってしまって脱水で死にかけてた、のでこれまた運営特製補給液。
過去類を見ないレベルで吸収しやすい飲み物らしい。
ただ問題があるとすれば……。
「ごはぁ!」
「こら吐くな! 飲み干しなさい!」
その味が人を選ぶという事くらい、センブリシュールストレミング茶漬けとよく似た味で美味しいんだけど匂いがきつくてね。
慣れると癖になるから私は愛飲している。
しかしまぁ、砂漠顔負けの熱砂地帯にアマゾン顔負けの温熱地帯、エベレストすらも凌駕する極寒地帯にと今更ながらこの山は色々狂ってるわね。
「うずめさん、とりあえず最初は滝行にしておきます?」
「滝行するにしてもせっちんの使った場所は危ないからなぁ……滝行レベル1ってところかな」
「ちなみに私がやってた場所のレベルは?」
「インフィニティ」
無限……測定不能という扱いでいいのかしらね。
まぁレベル1なら酷い事にはならないでしょう。
「そう思っていた時期が私にもありました、というのはこういう時に使うんでしょうね」
「なにが?」
「いえ、死屍累々だなぁと」
滝行レベル1をこなした6人組、地面に横たわる彼らを見てしみじみと思ってしまった。
滝といっても探せば街中にありそうな、2mくらいの高さしかない場所で水浴びをしていた彼ら。
滝行中に魚や虫に襲われ、ナイフや徒手空拳で応戦するも歯が立たず翻弄され、更には魚と虫が共同で戦術を用いた動きで翻弄し始めたことで泣きが入ったので私達が助けに入った。
その間ちょっとかじられたのかぐったりしてたけどポーション(仮)飲ませて大人しくなるまで待ったら……まぁいろんな意味で大人しくなった。
今にも死にそうなくらいぐったりしてる。
うーむ、レベル1でこれかぁ。
ここまでくると寄生虫とかも一般人でもどうにかできるレベルなんだけどな。
これより下となると……麓の村での修行しかないか。
致し方なしね。
刹那さん当然のように雑草の味を知っている、なんなら雑草の種類を味だけで判別できる。




