遺書
皆さんは自衛隊、警察官、スパイから何を連想するかしら。
私は特殊部隊という話も含めてエリートという言葉を想像していた。
なぜかスパイの時はリンゴと加湿器とバーナーが出てきたけど知らない。
まぁとりあえずエリートでピシッとしてて、なんかお金持ってそうみたいなイメージがどこかであると思う。
腕っぷしの強さとかそういうのも含めてのエリートね。
だけど実際出てきたのはというと……。
「うっす、自衛隊の深山哲治っす。階級は陸曹長、おなしゃす」
「同じく自衛隊の桜庭志貴。空曹長」
自衛隊二人の雰囲気が最初からすごいことになってる。
深山さんはガチガチの体つきなんだけどすっごいフレンドリーというか、やたら距離詰めてくる。
はっきりいって嫌いなタイプ、辰兄さんと同じ部類の気配がする。
もう一人の桜庭さんは……なんだろ、敵愾心というか侮られてる感覚がするのよね。
露骨に表に出してこないだけで、プライドが高く協調性がないタイプ?
「本庁より参りました、常盤扇です。どうぞよろしくお願いします」
「同じく本庁から参りました、進藤誠です。よろしくお願いします」
警察官のお二人さんは表面上はとりつくろえている。
ビシッと敬礼して、まぁ腹の底さえ知らなければ問題はなさそう。
うん、進藤さんが私とうずめさんの胸ばかり見ている事からまったくとりつくろえていないという事実が露呈しているんだけどね。
常盤さんは虚無、感情をよもうとしてもひたすら虚無。
無関心の極みという感じ。
そして最後にスパイ二人組だけど……。
「刹姉、連れてきた」
「あれ、縁ちゃん?」
「葉山さんが逃げた二人を捕まえてここに連れて行けって」
「あー、そういうこと。怪我させてない? ちゃんと生きてる? 心に傷を負わせてない? ちゃんと神様にお祈りさせてからトイレの片隅でガタガタ震えて命乞いする時間は与えた?」
「万事、問題なし」
「そう、いいこいいこ。じゃあこれ飴ちゃんあげる。二人はこっちで預かるから祥子さんによろしくね」
「ん、刹姉も頑張って。この二人存外手ごわかった」
そう言い残して簀巻きになっている二人を見下ろす。
名前もわからないけど、正直覚えるつもりないからいいや。
そのまま車に詰め込んで、うずめさんの運転で出発。
さて、と……。
「ではまず皆さんには遺書を書いてもらいます」
ペンと筆を用意して簡単に語り掛ける。
まぁあの山に行くならそのくらいの覚悟と準備は必要だからね。
「質問です」
「はい、どうぞ」
まず手を挙げたのは自衛代の空軍所属桜庭さん。
表情がいまいち読みにくいけれど、不機嫌そうな感じがする。
ただ単に顔つきがってだけならごめんなさいしないといけないけどね。
「これから向かうのは国外ですか?」
「いいえ、国内です。ただいざという時のために遺書は必要ですから」
「でしたら不要です。そのような場で死ぬつもりはありませんし、万が一も起こらないでしょう」
周囲を見渡すと全員どこかしら油断している。
簀巻きになってるスパイ二人組もくつろぎ始めて、簀巻きのままどっから取り出したのか煙草吸い始めてる。
裸足になってるから足であれこれしたのかしら……そんなに器用なら抜けだせばいいのに。
「はっきり言わせていただきます。あなた方女性二人が修行に使ったという山、という話は聞いています。女性二人が生き残れる場であれば自分は問題なく生活できるでしょう」
「この二人を簀巻きにしたのは私の妹です」
桜庭さんの言葉を無視して適当に話を始める。
床でダラダラしている二人を見下ろしながら、その縄をほどいていく。
「それがどうしました。スパイ程度ならば捕獲は容易いかと」
「ククッ」
「フッ」
スパイ二人組が思わずと言った様子で吹き出す、私も同じ意見だけどそれはさておき……。
「ちょっと失礼」
片割れのスパイ、その懐に手を突っ込んでお目当ての物を引っ張り出す。
じゃじゃーん、拳銃とナイフを手に入れた。
「はい、皆さん持ってるであろうこれら。これから行く山では玩具にもなりません。少なくとも……」
眉間に拳銃を突き付けて引き金を引く。
激しい破裂音、頭に衝撃、眼前では慌てた様子の6人の姿。
「まぁこの程度で死ぬ人なら簡単に死にますね」
「ば、ばかな……」
「あ、空砲とか玩具じゃないですよ。ほら実弾」
眉間にあたって落ちた弾丸を投げ渡す。
まだちょっと熱いけど。
「あちっ!」
「あー、やっぱりまだ熱いですよね」
「いや、そんなやかん触ったみたいないい方されましても……」
「ともかく、本当に死ぬ可能性があるので私よりやわなら遺書を書いておくこと。このナイフは切れ味よさそうだけど、森に棲んでる獣の牙の方がもっと鋭いですよ。誇張抜きで」
「……生態系どうなっているんですか?」
「バグってます。信じたくないならそれでもいいけど、大山鳴動して鼠一匹という言葉がある通り、あの山を近代兵器で鳴動させても鼠が一匹とれるかどうかですよ。普通の獣はぴんぴんしてるでしょうし木々も燃えることなく残るでしょう」
「あ、俺書いておきますね」
はい、一人陥落。
「我々も……」
警察官組もペンをとった。
「俺はやめとくわ、仕事柄あまり書面とか残したくないから」
「右に同じ、筆跡くらいならいつでも変えられるしな」
スパイ組はパスと、まぁそれも悪い判断じゃない。
桜庭さんに対して忠告したのはこれから行く場所を舐めていたから。
書かないなら書かないで問題はないのよね。
「はい、どうぞ」
最後にペンを桜庭さんに渡して完了。
いやはや、なかなかの問題児たちみたいね。
6人組はこの先生き残れるのか。
なお逃げようとしたスパイたちは慧眼、誤算があるとすれば国家のリーサルウェポンが強すぎたこと。




