戦争or虐殺
そんなわけで始まりました地獄大戦。
誰が合図するでもなく、各々の持ち場に着いた瞬間に戦闘が開始した。
まず北の方からものすごい爆発音と共に人の気配がごっそり消えた。
テンショーさんの魔法、本来RFBだとかなり効果が絞られるはずなんだけどな……。
というのもリアルで魔法が使える人間なんて滅多にいない。
私も会ったことある魔法使いとか3人くらいしかいないもの。
まぁ即死魔法とかいう訳の分からないこと言ってきた人はいたけど、目の前で急に死んだから自殺魔法でも使ったのかしらってのはもっといたんだけど……。
例えば私達伊皿木家みたいな霊感の強い家系ならRFBの状態で簡単な魔法を使うことはできる。
ある種のPK、サイコキネシスの応用みたいなものだからね。
それでも私にできるのは土で椅子を作ったり、ちょっとした攻撃に使えるかな程度のもので燃費もよくない。
ぶっちゃけダメージ覚悟で狐火使ったり、殴った方が威力ある。
けどテンショーさんはその辺の素質がずば抜けているのか、彼女の魔法は威力が半端じゃない。
普通の人がRFB抜きで使用できる魔法の最下級、それを彼女が使うと最上級魔法と同等の威力が出る。
そこにおいて彼女は抜かりなく、決め台詞を言ってくる。
「今のは業火爆炎魔法だと思ったか、ただの火球だ」
とね、私も言ってみたい台詞だけど……魔法の扱いとかわからないから無理です。
覚えるのも面倒なのでそんな暇あったらご飯食べてビーム撃ちます。
そして次に人の気配がごっそり消えたのは東部、司馬さんが何も考えずぶん殴ったんだと思う、空間を。
あの人はなんか戦闘が大好きなんだけど、一番得意なのは壊す事。
ゲームだからできる事なんでしょうけど、空間を殴ってぶち壊したんじゃないかしら。
その衝撃で近くにいた人はまとめて吹き飛ばされた。
曰く、死ねるならば運がいい、最悪の場合死ぬ瞬間を永遠に味わいながらその身が引き伸ばされていくのを味わい続けるとかなんとか。
考えただけでも恐ろしい……。
でもまぁ、これなら東も北も心配はいらないわね。
てなわけで、私は目の前の戦闘に集中……するまでもなく終わっているのよね。
「逃げろ!」
「退避だ退避!」
「衛生兵!」
「俺の足がぁ!」
地獄絵図、地獄で実現、これ如何に。
刹那、魂の句。
……いや、まぁ冗談すっ飛ばしたけど本当にただの地獄絵図なのよね。
始まりはちょっとした好奇心と悪戯心からだった。
私の種族は吸血鬼、正しくは吸血姫だけどその能力の一端には血を操ることもできるという文言があったりする。
いわゆるフレーバーテキストなんだけどね、これを利用してみた。
まず明鏡止水で地獄と一体化、世界を己が血肉と考え、そして地面に傷をつけたところ私のアバターもダメージを受けたという判定が出た。
とはいえ、世界そのものを自分と一体化させている今その端っこが傷ついたとしてもダメージは微々たるもの。
HPバーがあるゲームだったら1ドットも減ってないでしょうし、HPの数値が見えるなら1減るか減らないかでしょう。
そんなダメージを受けた私とは裏腹に、大地からは血というか水というか、そんな感じの物が染み出して荒野を沼地に変えてしまった。
なるほど、これならば天変地異を起こすこともできる能力だと言っていたのにも納得できる。
そんなことを思いながら、突然足元が沼地に変わったことに気づいた悪魔達が驚きながらも陣形を組み、飛べるものは空へと舞い上がったのを確認してからエネルギーに変換した。
ビームとか自爆の要領ね。
しゃがんで、耳をふさいで、頭を抱えた状態で壁に隠れてたからどんなふうになったかはわからないけど盛大な爆発音と、背を向けててもわかるほどの閃光がほとばしった。
「壊滅の定義は軍隊の3割って聞いたけど……」
「領主様はあほだけどお強いですね……なんでこんな化け物敵に回そうと思ったのか、当時の私の後頭部ひっぱたきたいです」
文字通り、まともに動けそうな敵が一人もいない戦場を見下ろしながら呟いた私に応えるものがいた。
糞とかゴミとかの文言すら消え失せて顔を真っ青にしているマリアンヌ、いやまぁ本性が漏れ出しているけど。
「なんでこんな最前線に?」
「いざとなったら領主様の首差し出して許してもらおうと思ってました」
「正直な子は好きなのでデコピンで許します」
バチコーンとデコピンをかましたらマリアンヌが壁にめり込んで頭を押さえてのたうち回っていたけど気にしない。
生きてるならそれでよし!
んー、残敵掃討というのも面倒ね。
となれば……もう一度明鏡止水からの大地を引き裂く。
今度は流血のためじゃなくて筋肉をちょっと動かして隙間を作る感覚で。
それによって引き起こされた地割れは新しい堀となって今も逃げ惑う悪魔達を飲み込んでいく。
まだ無事だった航空部隊に対してはその地割れの奥底から湧きだす血、もとい水みたいななにかを使ってビームを打ち続ける。
見よ、光の壁が立ち上る!
ちなみにこの光の壁、当然と言えば当然だけどビームを照射し続けているので展開している間は私はどんどんお腹が減っていく。
ゲームシステムでもリアルでもね。
今夜はすき焼きにしようかしら……。
テンショーさん「私はあと30回変身を残しています」
司馬さん「全力の3%で相手をしてやろう」
暴食さん「手加減はしてあげる」
とかげ「俺の出番どこー」
バロール「僕も出番ないけど情報得られてホクホクです」




