危険物発見
「あとは公安からのお仕事を済ませたら完了かしらね、クリスちゃんは?」
「私も見たい物見たしやりたいことやれました。刹那さんのお仕事ならお手伝いしますよ」
「それはありがたいわね。クリスちゃんって確かミスカトニック大学付属高校の医学部進学コースよね」
「えぇ、忌々しい事にあのカルマも医学部で、私の研究分野を速攻で履修完了させて帰っていきましたよ……」
おっと地雷踏んだ。
「ミスカトニック大学ってどんなところなの? 私結構いろんなところ取材してるけど、あの学校は毎回取材断られるのよ」
「うーん、普通の大学ですよ? 私達高校生は本校に顔を出す機会も少ないですけど、医学部進学コースは実地研修とかもあるのでたまに行くくらいですね。あぁ、でも図書室とかに番犬放し飼いにしてるのはちょっと怖いかも」
「へぇ、番犬。このご時世に?」
昨今は動物の扱いにうるさいし、なにより機械と違って制御がきかない。
だから何か事件が起こると面倒なことになるのよね。
それに飼育や調教の手間も考えると機械製の防衛設備を用意した方が将来的には安価にすむ、というのが共通認識。
「生き物の方が便利なこともあるんですって。特に人外に対しては」
「人外ねぇ……幽霊とか妖怪はさんざん見てきたけど、他にどんなのがいるのかしら」
「うーん、例えば神様みたいな?」
「神様ねぇ、眉唾物ね」
「はははっ、そうですね。でも日本だと力のある存在は神様になれるんですよね。もしかしたら神様になってる妖怪なんかもいるかもしれませんよ?」
「妖怪が神様にねぇ……土着信仰だとそういうのは結構あるかもしれないわね」
たしか天狗とかもそういう部類になったっけ。
源義経こと牛若丸も天狗に育てられたという話もあり、敬われる存在でもある。
たしか日本神話にも天狗の神様はいた……誰かの旦那さんとして登場だった気がするけどね。
あとは何かと「天狗の仕業」なんて言いまくるお爺ちゃん、これは妖怪としておそれられている姿とみるべきかしら。
まぁどちらにせよ天狗に会ったことはないからわからないけどね。
「まぁ妖怪は話通じないの多いから神様だってどんなもんかわからないけどね」
「案外普通の人間みたいに話せるかもしれませんよ」
「だったら面白いわね。さて、ここからは医学的見地からクリスちゃんの意見も参考にさせてもらいたいから今日は頼むわね」
「わかりました。といってもまだ専門的な話になるとまだまだですよ」
「それでもいいのよ、有名大学付属高校の医者志望の意見ってだけでね」
医療分野のコーナーに来て色々確認。
貰える資料は貰うし、写真OKなら撮影する。
クリスちゃんの意見も聞きながらあれこれやってるけど、普段の取材より何倍も楽ね。
医療は専門外だし、そもそも既存の医療が私に合わないから本当に何を話しているかわからないことも多いのよね。
神経麻痺のリハビリに関するあれこれというのはかろうじて分かったけれど、そこから神経の接続がどうのとか、場合によっては人工筋肉と埋め込み型パワーアーマーによる補助とか、腕を切除して電気信号をキャッチすることで武器の展開が可能な腕とか。
どうにもわからない分野だわ。
「ねぇクリスちゃん、これってなに?」
ふと気になったものを指さしてみる。
そこにあったのはなんかよくわからない機械、手足に装着するようなものじゃないし、頭部に乗せるような物体でもない。
なんて言うか……ぱっと見は火炎放射器みたいな?
「これは……医療器具じゃないですよね」
「えぇ、変な研究者の一団が持ち込んだ物でして……どうにもVOTの防犯性を向上させるものだとか」
展示をしていた人が教えてくれた人たちの様子、それに私は心当たりがあった。
うん、化けオンの運営さんたち。
と、いう事はろくでもない物確定ね。
「あーもしもし祥子さん? 大至急国際展示場に危険物処理班呼んでください。はい、化けオン運営が、はい、よろしくお願いします」
速攻電話、そして即座に物品確認。
見れば見るほど火炎放射器、長いノズルに大きなタンク、実家では庭の草むしり代わりに使ってたっけ。
あと夏場なんかは蜂が巣を作るから駆除の時には特製の燃料ぶち込んで盛大に燃やしたりもしてたはず。
うん、懐かしいな……じゃなくてだ、とりあえず今はこれをどうにかするのが先決ね。
「これはこちらで預かります。問い合わせはこの名刺に書いてある場所まで」
「え、あ、はぁ……」
「預かると言ってももうすぐ回収班が来るので、それまで触れたりしないようにお願いします。それだけでいいので」
「よくわかりませんが……わかりました、その妙なものはお任せしていいんですね?」
「はい、というかマジな危険物の可能性が高いので……」
「あ、避難しますねー」
躊躇なく持ち場離れて逃げる当り生存本能強いわね、長生きするタイプだわ。
さて……私はこいつを見張っているとしますか。
推定危険物という事で避難勧告は出してます。
なお医療部門は専門家しか足を運ばないのでほとんど人はいなかった模様。
一部出展側がお休みの時間を得ただけ、化けオン運営は糞。
次回、「黒幕」お楽しみに。




