リアルイベント
そんなこんなで翌朝5時、クリスちゃんと一緒に家を出た私は国際展示場を目指していた。
「こんなに早く出る必要あった?」
「今回はVGOが新発表しますから!」
「VGOって……あぁ、この前生放送してもらったロボットのゲーム」
「ロボットじゃないですギアです! そしてしてもらったじゃなくて騙されてやってたんです!」
「どうどうクリスちゃん。公共の場ではお静かに」
うーん、テンション振り切れてるクリスちゃんは面倒なのよね。
ちなみに護衛として雇われてるうずめさんは「せっちんが行くならあたしいらんでしょ。今日は休日ってことで護衛ヨロー」といって二度寝決め込んでる。
あの人は自由人だから……祥子さんはまだ朝食食べながらのんきにいってらっしゃーいとお見送りしてくれた。
縁ちゃんは寝てる、これでもかというくらいぐっすりと。
てなわけで、私の運転で国際展示場を目指すことになったわけだけど……。
「それで刹那さん、今回のお目当ては?」
「化けオンの運営さんがなんかやるらしいからね、その監視とジャーナリストらしく取材。メール見たら10件くらい取材の依頼来てて驚いたわ。あとはVOTとRFBを利用した医療の発表の確認かしら」
「私はやはりなんといってもVGOですね! 今回はカルマが出席するとのことなので!」
「……誰だっけ? 聞き覚えはあるんだけど」
「VGO各部門ランキング一位! ついた二つ名は絶対王者! 汎用性のどこにでもあるギアで、一般的なステータスで、狙撃に遊撃パーティ戦集団戦個人戦全てにおいて全世界一位の化け物です!」
ほほー、クリスちゃんがそこまで言うとは……。
そういえば以前何かの取材でそんな人と会ったわね。
VR系のトッププロだと司馬さん一強だけど、VRではないゲームのトップはそのカルマさんか司馬さんかって二択になってた。
うん、あの司馬さんに並ぶというだけでも相当な腕前だというのはわかる。
「そのカルマさんが何をしに?」
「VGOの新拡張パックのお披露目で、運営側がクリアできるものならやってみろってクエスト用意してたんですよ。今のところクリアできたプレイヤーは0人、といってもランカーは誰も挑戦してないんですけどね。それを実機で、観衆の面前でカルマにやってもらおうという企画だそうです」
「意地の悪い事を……」
最強のプレイヤーがどこまでできるか、理不尽ながらに攻略ルートの用意されたゲームを遊ばせる。
割と嫌いなやりかたね。
私パズルとか仕掛けあっても普通にぶっ壊して通るタイプだから戦略要求してくるのは本当に無理。
「というかトップがクリアできなかったらプレイヤーのモチベーション下がるんじゃないの?」
「VGOは修羅の国ですから。化けオンよりもギスギスしてますよ。共同依頼受けたら最後に報酬独り占めしようと背中撃つのは挨拶みたいなものですから」
なにそれこわい。
「カルマみたいな有名ランカーは常に狙われ続けてますけど、不動の一位ですからね。アンチスレを実力で黙らせた男という二つ名は伊達ではありません!」
「クリスちゃんはその人のファンなの?」
「いえ、カルマがぶざまに負けるところを見て大爆笑してやりたいんです」
……クリスちゃんらしいわねぇ。
でもまぁ、実際不動の一位でネットのアンチを実力で黙らせるというのは水面下で相当な恨みをため込んでるでしょうね。
ランキング系のゲームでよくあるのは上位陣を妬むこと、それを悪いとは言わないし、そういった競い合いこそが運営の目的だから。
けれど行き過ぎたら……まぁね。
「ちなみにネットリテラシーはガバガバな男で特定されてます」
「一番ダメなパターンじゃない……」
「えーと、東大の1年生で現役入学後進級と同時にアメリカのミスカトニック大学に留学、1年の予定を3か月でクリアして帰国、留学中にチェスのグランドマスターと先手後手入れ替えで10連勝、人柄も当たり障りなく美形であることも相まって女性人気ナンバーワンの人物。なおプロゲーマーになるとしても就職して安定収入を得たうえでと公言、主に男性陣から呪いに近いレベルの恨みを投げつけられてます」
「うん、こわい」
完璧超人すぎて怖い。
……いや、祥子さんの男性バージョンとして考えたら無しじゃないけどさ。
というか縁ちゃんの先輩なのね、今度取材する機会があったら姉としてもご挨拶しておこうかしら。
祥子さんの経緯も似たり寄ったりだけど、あの人に関しては人間として欠点らしい欠点がちょいちょいあるから愛嬌があるのよね。
そのカルマって人はそんな欠点がないくせに、わざわざ『業』を意味するカルマを名乗ってる辺りこわい。
「あ、そこの駐車場に止めてあとは歩くわよ」
「はーい」
さて、いざ国際展示場!
マサチューセッツ州って言いにくいですよね。
投稿遅れましたごめんなさい!




