悪魔流手のひらドリル
マリアンヌによる襲撃先ピックアップを待っている間私は街を散策することにした。
暇だったからね、あとマリアンヌに街でも見てこいって言われた。
仕事の邪魔だからって摘まみだされちゃった。
実際私にできる事ってないけどさぁ、扱いが酷いわよね。
まったく……扱いといえばこの街の人、領主の扱いが悪いわね。
さっきからどこからともなく石が飛んできたり、魔法が飛んできたり、ナイフ飛んできたりと結構物騒。
たまに殴りかかってくる人もいる。
やり返すほどじゃないから全部避けてるけど……もしかして街の北部吹っ飛ばした恨みかしら。
悪いことしたとは思っているけど……レオンの使用人が逃げた方向がそっちだったのも悪いと思うんだけど……という内容を祥子さんに端末経由でログインしながら確認したら10割私が悪いといわれた。
うん、どうにか言い逃れできないかなと思ってたけどやっぱり私のせいよね……うーん、土下座が基本姿勢なのはともかくとしてどう謝罪するべきかしら。
マスコミ時代の思い出からするとやらかした政治家というのは会見を開くのが鉄板なのよね。
マリアンヌに謝罪会見の場を設けてもらいましょうか。
その場合どこで会見を開くかが問題なのよね、領主邸無くなっちゃったし。
「うーむ……」
「死ねやおらぁ!」
「うーむっ」
おっと、悩んでたところに切りかかられたから手加減忘れてぶん投げてしまった。
メニュー開くとリザルトにNPC悪魔の殺害ログが残ってる……やらかしたわ。
「ごめんなさいね、悪気とか無いのよ。襲われたから対処したらこうなっちゃった」
なんとなしに、様子を眺めていた人たちに視線を向ける。
極力申し訳なさそうな表情を作り、そして困ったような表情へシフトしたところで頭を下げる。
「ふ、ふざけんな! 俺の家族をかえせ!」
「あたしの弟はまだ5歳だったのよ!」
「俺の家が……ローンがまだ残ってるのに……」
悪魔にもローンってあるのね……いやそれはいいんだけれど、こうして被害者の声を直に聞くというのはなかなかきついわね。
加害者である以上、あまり強気に出るのもはばかられる。
正当防衛だったとして、被害を拡大させてしまったのは私であり、結果過剰防衛を通り越した「やりすぎ」という状態。
うん、どう見ても私が悪いわね。
「じゃあ私が死んだら、あなたたちは許してくれるかしら」
その言葉に全員の声がぴたりと止む。
お? なんか妙な感じだな。
「死が望みじゃないなら、何か望みがあるのかしら。見逃してくれるというなら私はこれから秘書のマリアンヌが選んだ土地を攻めて領土拡大、民衆の生活向上、ついでに略奪したお金とお酒で毎日宴会できるくらいの領土経営を目指しているんだけど」
「新領主さま万歳!」
「あんたについてくぜ!」
「弟がいるとか嘘つきましたあなたに尽くします!」
「家のローンも吹っ飛ばしてくれるなら大歓迎だ!」
「家族は……俺が幸せに生きる事を望んでくれるかもな……」
おぉう、なんという手のひらドリル。
いやまぁ悪魔の倫理観なんてこんなもんなんでしょうけどね。
たぶんゲリさんと検証班とナマモノの悪いところだけを抽出したような、そんな種族なんじゃないかしら。
ナマモノ成分が多すぎるのはともかくとして、この様子なら謝罪会見も必要なさそうね。
とりあえず領主としてお金稼いで街を豊かにしていけば勝手についてきてくれるでしょう。
いやー、自爆しないで済んでよかったわ。
もし受け入れられず、どうしても死ねなんて言ってくる人いたらね……ほら、リスポンするし、そのままここに戻っても面倒ごとになりそうだから自爆でこの辺りも一緒に吹っ飛ばそうと思ってた。
その場合地獄の悪魔王がどうなるか知らないけど……多分生きてるでしょ。
悔しいけどアイゼンも生きてるんじゃないかしら、リアルの私が耐えられる威力ならあいつも生きてそう。
んー、嫌がらせにあいつの領土ブラッドキャノンで吹っ飛ばしてもいいかもしれないわね。
被害多数で領地失って泣きついてきた時にお金を拾わせたい、そんな欲求がどこからか湧いてくる……なにかしら、最近妙な欲求が増えた気がする。
んー、やっぱり蟲食べたのが良くなかったのかな。
ま、いざとなったらまたお腹の中ほじくりまわせばいいか。
「あ、領主さま。リンゴ食います?」
「さっき作ったシチューいかがですか?」
「ゴミ箱からパン拾ってきました!」
「ありがたくいただくわ」
うむうむ、なんか人心掌握できたみたい。
やはり暴力、暴力は全てを解決する……違うな、私こんなキャラじゃなかった気がする。
もっと理知的で合理的な人物だったはずなのに……どうにも調子が出ないわね。
今日は早めにログアウトして精密検査でも受けてこようかしら。
……あ、このパンブルーチーズみたいで美味しい。
歯ごたえもあるからなかなか……。
『カビを取り込みました。種族を追加しますか』
『リンゴを取り込みました。種族を追加しますか』
『シチューを取り込みました。種族を追加しますか』
全部いいえ、食べるたびにログが出てくるの鬱陶しいわね……えーと、設定でこの辺りのログ設定をいじって、よしっ。
とりあえず自分より格上の相手以外は保留状態にしつつ、24時間経過で自動キャンセルにしておこう。
というかシチューの種族って何?
使われたお肉とか野菜?
「あ、そうだ。領主邸建て直しに貢献してくれた人はマリアンヌ経由でちゃんとした証拠用意してくれたらお給金弾むわよ」
金ならいくらでもある、ふははは……いやいややっぱりなんかおかしいな私。
んー、まだ外の時間は昼だし公安行って検査してもらおう。
「ちょっとマリアンヌに伝言お願い、3日後に戻ってくるからピックアップ頑張ってねって」
「かしこまりでさぁ領主さま!」
よしよし、サクッと検査受けてきますか。
ついでに永久姉にも確認してもらおう、この前は大丈夫って言われたけど時間たって変化してるかもしれないし。
刹那さんの手がドリルになったりはしませんよ、まだ。




