悪魔の街
領主邸崩壊、地獄の街……レオン、あいつの名前がついているのが気に食わないけれどその街の北方半壊の被害。
いやぁ……悪魔同士の戦いって苛烈ね。
ちょっとした内乱でこのざまか。
そんなこんなで今私は新しく手ごまとして迎え入れたメイドのマリアンヌと一緒に事務手続きをあれこれとこなしている。
まず街の領主として君臨したと宣言、その後にレオン死亡の顛末と、私が本当に大公になったのかという検査。
まぁ検査といってもなんか大公はそういう魔力波長とやらがあるとかで、水晶玉に手を乗っけたら終わりだった。
もっと体のどこかに紋章でも出るのかなーと思ってたら無いと聞いてがっかり。
ただ悪魔として威厳を見せるために紋章を彫る人はいるらしくて、そういうお仕事が地獄では結構繁盛しているとか。
タトゥーねぇ……昔旅先で誘拐されて勝手に彫られたことあったけど、3日で消えちゃったのよね。
ほら、私って新陳代謝がいいからそういうのも普通に消えちゃうのよ。
おかげでこのボディ、一切の傷もシミもない。
自慢の身体だけど、強いて言うなら恋人ができないことが不満というか、私を受け入れてくれる殿方がいないというか、もうこの際女性でもいいから伴侶になってほしいなという気持ちがある。
公安にしてもなんか知らないけど私のこと遠巻きにする人ばかりで、ちょっと憂鬱だったり……話がそれたわ。
えーと、とりあえずゲーム内ならタトゥーとか入れられるはず。
しかもタトゥーによっては特別な能力を得られたりするとかなんとか。
ようするにゲリさんみたいな、基本的に防具を装備できないデメリット持ちのための救済措置ね。
防御力上昇とかそういうのを紋章として刻める代わりに、その部位に防具を装備できなくなるとかなんとか。
曰く、肌の露出部位から空気中の魔力を吸収して紋章の効果を発動させている……だっけ。
むろん防具をつけて、それが破損した時に発動するという形で使うこともできるけれど、純粋な能力で見たら防具着た方が強かったりする。
……そのはずなんだけど、私の防具、穢れた英雄シリーズと破壊王シリーズ、どちらも型落ちというべきなのかしら。
地獄での戦闘においてだいぶ力不足なのよね。
領主邸で襲ってきた雑魚悪魔相手でも防具の一部が破損しているくらいには。
これは新しくパンドラを空けたところでどうなるって話でもないし、新たな防具を求めて地獄を旅するのもありかしら……。
「というわけでマリアンヌ、なんか装備更新できそうなところある?」
「お嬢様、さっさと書類片付けてから寝言ほざいてください」
「ぴえん」
はい、この通りこちらの傀儡になっているけどマリアンヌは私の洗脳下というわけじゃないの。
えーと、敵対心とかそういうのは依然残ったまま、そこに服従心と尊敬心を植え付けた感じ。
だから言う事は聞いてくれるし、会話もできるし、お茶会だってできる。
けど敵は通す、対応は塩、お茶会は毒入りとまぁ……。
ちなみに今の書類仕事はこの街の改名手続き。
レオンのままでは据わりが悪いから私流に名前を変えてしまおうと思ったのだ。
そのために化けオンの中から私の電子書籍データバンクにアクセスして、古いTRPGのダイス命名表を使って街の名前を決めようとした。
ダイス命名表とは、いくつかの単語に数値を振り、ダイスの出目でそれらを組み合わせて名称を決めるものなんだけど通称大惨事命名表。
ランダムで決まる名前だからね、酷い物になることが多いのよ。
ちなみに今回は大阪で非合法なお仕事をする人になるゲームから持ってきた。
結果「東洋はだかのくそったれゴスロリイン・ザ・ダーク」という案になった。
うん、まぁ、こうなるのよ。
マリアンヌがものすごい表情でこっちを睨んできたけど、口笛拭いてごまかしておいたわ。
なおこのレオンの街、地獄の西方に位置する暴食領の最も西に位置しているらしい。
役所の人も唖然とした表情だったから西洋のに変えておいた。
つまり街の名前は「西洋はだかのくそったれゴスロリイン・ザ・ダーク」となったのだ。
「これでよしっと」
最後の書類に長ったらしい名前を書き終えて、私がサインを終えると書類は光りながら消えていった。
暴食の悪魔王が正式にこれを認めたという事になる。
なお、光の感覚的に一瞬困惑の色が見えたのは気のせいである。
うん、気のせい気のせい。
「さて、マリアンヌ。さっきの質問だけど」
「他の大公の領土を奪えばいいんじゃないっすかね。奪えや殺せやで」
うーむ、ゲーム的にはありなんでしょうね。
貴公の首は吊るされるのがお似合いだってやつ、クリスちゃんがたまーに遊んでるゲームだとそんな感じの外交よくやってたし。
私も政に関しては独裁と暴力以外知らない。
そういうのは永久姉の領分だったしね。
うん、一人で近隣の学校全部掌握した女に勝てる気がしないから手出ししなかった。
なお縁ちゃんも同様に、都内の学校を掌握してた。
今は日本最高峰の大学に在籍しつつ、既に大学院入り決めて、そして公安でアルバイトしつつ将来の就職先も決定している……なんだあのリアルチートな妹。
可愛いからいいけど!
「じゃあマリアンヌ、攻め落とすのにちょうどよくて、周囲からの反感が少なく、お宝ゲットできそうな相手をピックアップ」
「かしこまりました糞領主様」
……なんか、今回に限ってくじ運悪かったかもしれないわね。
妙なの引き当てちゃった。
はい、縁ちゃん東大生です、なんだこのリアルチート。
命名表は悪名高きサタスペからでした、マジでダイス振った結果これだよ……ダイスの女神様わかってるぜ。




