お出迎え♡
ひとまず領主邸とやらに足を運んでみたはいいんだけど……。
「随分と、手荒い歓迎ね」
ドアをくぐった直後に完全武装の悪魔たちに囲まれた。
ケリーのように人間の姿をしているのもいれば、アイゼンみたいに動物の頭をしたもの、中には童話に出てきそうな化け物っぽい悪魔もいる。
まぁその全員が仕立てのいい仕事着を着ているんだけど、男性は執事服で女性はメイド服。
ちょっと時代錯誤すぎやしませんかねこれ……。
「レオン様の席を奪った者であれば、この程度の歓迎は受けていただけるでしょう」
使用人の一人がニコニコとした表情で答えてくれた。
なるほど、歓迎会……だったらやることは単純よね。
「死にたくなければ、引きなさい」
殺気を放つ、明鏡止水の境地と共に体内の気に殺意を込める事で周囲に発した。
一般人なら気当たりだけで死ぬレベルの、挨拶レベルのもの。
「へぇ」
けれど今ので武器をとり落とした者はおろか、戦意を喪失した者もいない。
そしてこの世界と合一化した事でわかったこともある。
ここにいる悪魔は暴食の系譜に属さない、あるいはアイゼン同様暴食以外の系譜にも属している悪魔だ。
つまるところ……。
「歓迎会とはありがたい、ちょうどむしゃくしゃしていたし……お腹が減っていたのよ!」
震脚、本来は型の一つであるこれは娯楽作品を通していつしか地面を振動させる攻撃技とみなされるようになって久しい。
けれど明鏡止水と気の力があれば、その再現は可能だ。
大地を揺るがす踏み込み、気による強化範囲の拡大を明鏡止水で行うことで床の踏み抜き防止も兼ねた攻撃。
強化したのは床のみであり、壁はそのくくりではない。
結果、瞬間的に大地震にも匹敵する威力の振動が領主邸を襲う。
「なんてことを……! 誉あるこの館を破壊しようとは!」
「誉なんてのはね! 浜で死ぬって相場が決まっているのよ!」
飛びかかってきた悪魔達を素手で切り裂き、そして食いちぎり、血を、肉を、骨を飲み込んでいく。
……正直あまり美味しくない。
それなら少しアプローチを変えてみましょうか。
長らく使っていなかった技だけどね……。
「死者呪転!」
ネクロマンサー、今は傀儡使いのスキル。
死者を蘇らせて手ごまにするが、レベル制限などで少々使いどころが難しい。
しかも手ごまは弱体化するというおまけつき、プレイヤーにも使えないから対人イベントとかだと本当に死にスキルだったりする。
けど、この状況では使い道があるのよね。
「取り押さえなさい」
指を鳴らすと同時にアンデッド達が悪魔に襲い掛かる。
その動きは緩慢ながらに、確実に相手を捕まえるべく一人一人を追い詰めていく。
そしてアンデッドならではの戦法もある。
「なっ! 槍を!」
一匹のアンデッドを槍で突き刺したメイドさんが目を見開く。
操り人形にすぎない、既に死んでいるそれは自分の腹を貫く槍をがっちりと掴んで離さず、そしてその隙に他のアンデッドも飛びかかる。
別に殺すためではない。
「さて、一人」
捕まえたメイドさんに近づき、そして頭を掴む。
「傀儡呪転」
新たに会得したスキル、生者であろうとも意のままに操れる……といっても死者呪転以上に制限の厳しいスキルなんだけどね。
相手の意にそぐわない行動はさせられない、つまり自害とか殺人の命令はなかなかできない。
まぁ悪魔の倫理観なら殺人くらいはしてくれそうだけど、自害は難しいし仲間を攻撃させるのもどうかなといったところ。
案外利用し合っているだけだからやってくれるかもしれないけどね。
「残りは……いらないし時間もないか」
天井から瓦礫が降り注ぐ中、残った悪魔達は逃走を試みていた。
逃がしてもいいんだけど、このまま情報を持って帰られても面倒だから消し飛ばしておこう。
「っ! ふぅ……カッ!」
大きく息を吸い、口内を嚙み切る。
そして体液に反応して光として放出する、その応用で生み出し、さらに血液も使った特大のビーム。
名付けてブラッドキャノン!
その威力は語るまでもなく、倒壊していく領主邸はもちろん、その射線上にあった全てを蒸発させて地平のかなたまで続くかのような溶解跡を残した。
当然悪魔の使用人たちは操った1人以外全滅、ふっ……悪は去った。
さてさて、リザルトとドロップアイテムは……ん?
悪魔の腕とか心臓とかはわかるけど……なんか人間の腕、天使の翼、精霊の核、人狼の尾ってドロップ手に入れてる。
なんか知らないけど、誰か巻き込んだみたい。
ご愁傷様ね。
被害については次回……酷いよこの主人公。




