コイン表裏
「カフッ……!」
ドレインの反動、容量を超えたエネルギー吸収でダメージを受けたと気付いたのは血を吐いてからだった。
「表だ。無茶をしない方がいいぞ若人」
「いけしゃあしゃあと……」
恐らく吸い尽くそうとしたエネルギーが膨大すぎた、というだけの話じゃない。
多分アイゼンはわざと私に力を送り込んだ。
アイゼン本人が蓄えている分と、供給され続けている分。
いわば発電機とバッテリー両方からの過剰供給、それがダメージの答え。
個人的にはまだいけそうだったんだけど、王水飲んだ時ちょっと胃が荒れてまだ食べられるんだけど体が拒否反応起こした時に似てる。
本当に脆いアバターね、この程度でダウンとは……。
「そら、降ってきたぞ」
「は?」
こちらの考えなどどうでもいいといわんばかりにアイゼンは空を見上げる。
ふらふらとする身体をどうにか奮い立たせて、その場で踏ん張る私はそれどころではなく……。
「うわっ!」
硬質な金属音に思わず身をすくませてしまった。
まるで鉄骨同士をぶつけたような音、その正体を探るべく視線を向けるとコインが表向きに落ちていた。
「ふむ、まずは1勝といったところか。ほれ、次の手を打つがいい」
「この……」
余裕な表情がむかつく……!
なら……あの手段しかないわね。
過去、あらゆる土地を練り歩いて取材し続けた結果様々なゲームに精通し、そしてその流れで会得した秘儀を今こそ……。
三枚のコインを同時に指ではじき、上空に打ち上げる。
目視10m程度、風の影響も計算に入れたコイントス。
狂いはない。
「ふむ……これは面白い。全部表だ」
「なら私は、どちらでもないに賭けるわ」
肩をすくめて笑って見せるアイゼン、こいつ……わかってたのね?
本当にいやらしい性格をした男、いけすかない……!
「さて、君と俺の将来を決める重要なトスだ。結末を見届けようではないか」
音もたてずに宙を舞う三枚のコイン、それらを眺めるアイゼンの表情は面白い遊びを見つけたようないやらしい笑み。
私としてはちょっとした恐怖と、いざとなったらキャラクリからやり直す覚悟を決める。
こいつの嫁になるくらいならキャラデリくらいやってやるわ!
「運命の瞬間だ」
地面にコインが落ちる。
数回のバウンド、そして同時に転がり……そのまま止まった。
裏でも表でもない、縁で止まったそれは賭場ではトスのやり直しとなる超低確率のもの。
……いやぁ、一個でも外れたらどうなるかなと思っていたけれど全部成功してよかったわ。
合法非合法問わないカジノに、そこら辺の街でやってる小さなカードゲーム大会、時にはTRPGコンベンションに、ボードゲームのあれこれ、そして司馬さんとかと出会った最新ゲームの大会とか方々を渡り歩いた結果こういうコイントスで裏表縁と好きなところを出せる技術を会得した。
さいころだったら100面ダイスでも好きな数字出せるわよ。
一般的な6面ダイスなら百発百中で好きな目だせるし、同時に20個投げろと言われてもピンゾロ出せるわ。
おかげで日本の非合法賭博場は出禁になったけど。
あとアメリカも一部地域いけないわね、行ったら拳銃もったおじさんたちに囲まれることになる。
荒稼ぎしすぎたのよね……ご飯が美味しいからお金が欲しくてね。
いかさまは一通り覚えたし、いかさましなくても勝率8割超えるようになってからはラスベガスの街そのものに出禁になったわね……。
「私の勝ちね」
「そのようだ。くくくっ、やはり面白い女だな。いいだろう、今回は見逃してやる」
「随分と余裕ね」
「もとよりこのような茶番でどうこうしようとは思っていないさ。やるならば本気で挑んできた相手を屈服させた時、さぁ望みを言うがいい」
「望みねぇ……じゃあこの街を掌握しても?」
「いいだろう、俺の権限でこの街の全権は君の物だ。他の大公であろうと異論は認めぬ。暴食と強欲の大公序列一位のアイゼンが認めようではないか」
序列一位……悪魔の王様を除けば実質一位じゃない。
しかも二つの派閥でとなると……そりゃ一筋縄ではいかない相手のはずよね。
これは出だしから酷い歓迎を受けたものだわ……。
『ベルゼブブ暴食国領地、レオンを手中におさめました。これより街の全権が与えられ、それに伴い領主邸の居住権を取得しました。転移先に追加されます。なお領地戦争において敗北した場合領地、ならびに居住権が失われることがあります。その際は転移先から削除されます』
……領地戦争とかあるんだ、まじで内政やらないといけないの?
私本当にそういうの苦手なんだけど……。
でもまぁ、住んでいる住民は力を見せつければ何とかなるかしらね。
暴食の系譜悪魔は全部排除してもいいかもしれないわ。
食糧問題は多分私一人で圧迫することになるし。
うーん、他の系譜の悪魔でも引き込んでみましょうかしら。
従者は……適当なキメラでも作ってインベントリの肥やしになってたりりの魂でも突っ込んでおけばいいかもしれないわね。
あるいは傀儡子の能力で適当な鎧でも連れ歩けばいいか。
港に戻って大陸探索もしたいし、忙しいわね……。
ようやくフィリアさんを超える敵が……刹那さんとならどっこいレベルだと思いますが。




