船出
さてさて、悪役ロールプレイを忘れかけてたけれどとりあえずニヤリと笑っておく。
不敵な笑みは悪役の本髄!
小ばかにする鼻での笑いと、力を見せつけるための口元だけの笑い、そして心底楽しんでいるときの高笑いは悪役三種の笑い神器ともいえる。
あとはなんだろ……負けるときはできるだけ情けなく、かな?
大物感を出しながら負けていくと悪役という立場から少しずれる気がする、というのが私の持論。
悪役ならそれっぽく、情けない退場をしてほしいわね。
例えばそう、防火シャッターに挟まれて今までさんざん利用してきた主人公に助けを求めるけど見下されながらゆっくり潰れていくとかそういうの。
あ、でもしぶといのも好き。
未来から殺人マシーンがやってくる映画みたいに倒したと思ったら人工皮膚とかがドロドロになって、骨格剥き出しの状態でゆっくり追いかけてくる感じの。
でもやっぱり最後はあっけない一撃で倒れるのが好き。
……あれ? その理論だと私ケリーに酷い負け方することになりそうね。
うーむ、どうしたものかしら。
「やはり、私が行くべきですね。このような化け物を相手に時間を稼げるのは私だけです」
「ですが聖女様!」
「国のため、民衆のためならばこの身はいくらでも犠牲となりましょう」
うっわぁ……ケリーもケリーでなんかごっこ遊びが楽しくなってきてる。
でも普通逆よね……私が聖女のロールプレイするべきだと思うけど……まぁ無理なんだけどね。
清廉潔白で非の打ち所がない女性を演じなさいと言われても私の場合大体ぼろが出る。
一番苦手なタイプなのよね、そういういい子って。
クリスちゃんとかはあれではちゃめちゃだし、祥子さんは可愛いけどあれで尖った部分がある、うずめさんは……何も言うまい。
縁ちゃんとかはいい子に見えるけど大人しいだけで本質は伊皿木だし、永久姉は論外。
比率はともかく、みんな清濁併せのんできた人たちだから「穢れなんてありませーん」と言い切れる人は苦手通り越して嫌いかもしれない。
その穢れを他人に押し付けている事すら気付かない、頭お花畑ですよって言っているようなものだからね。
だから私は乙女ゲーとか苦手だったりする。
主人公がいい子過ぎて裏があるんじゃないだろうかと勘ぐってしまうから。
縁ちゃんが実はその手のゲームが好きなんだけど、金持ちの男を落として一生楽な暮らしさせてくれそうという理由で夢見てるからなんとも……。
そんな縁ちゃんの就職先が学生の間に決まってくれてよかった、お姉ちゃん一安心よ。
「さて、では魔の者悪魔フィリアよ、発つならば早い方がいいでしょう。けれど不審な動きを見せれば……」
「どうしてくれるのかしらね、それはそれで楽しみだけど目的からそれるのは好ましくないわ。いいでしょう、言うとおりにしてあげるわ」
『あの、本当に暴れないでくださいね? 普通にこの国滅びちゃうので』
『暴れないわよ。けどこの後外交とか大変だろうから頑張ってね、応援はしてないけど』
ケリーからのテレパシーに返事を返す。
本当ならこのまま聖都とかドワーフの国に行って説得してくるつもりだったんだけど、ケリーの裏切りで全部ぱーになっちゃったから。
まぁ私をいらないというなら頑張ってねとしか言えないわ。
あと大天使を取り込んだことで魔法使えるようになったけど、豊穣の能力は得られなかったから今後農作業が大変だと思うけどね。
ちらりと視界の端に映った農園を見ながら街を進んでギルフォード達の待つ黒帆船に乗り込んだ。
うん、割といい船ね。
サイズと砲門の数、それにマストの数を見るにジャッカスバーグかしら……でもマストが5本以上あるからリアルでは存在しないデザインね。
フリゲートの要素も取り込んでいるけど……なかなかに大掛かりな船、悪くないわ。
船室はさすがに雑魚寝仕様になってるけど、雨風がしのげればなんでもいい。
あとはそうね、貨物室が大きいのがいいわ。
そこかしこに血の跡が残っているのはちょっと気になるけど、一番ゆったりできそうな場所ではある。
「さて、もうごっこ遊びは終わりでいいとして……なんで裏切ったのかしらケリー」
「裏切るとは心外です。フィリア様は魔の者、故に国を治めるのは面倒かと思いまして」
「本音は?」
「ちょうどいい機会だったので国でものっとってみようかなと思いました」
「はい、正直で結構。それで、のっとってみた感じどう?」
「今までと変わりなくて退屈ですね。でもそれももうすぐ終わりでしょう?」
「そうね、精霊王に森の守りを解いてもらったから魔の者が押し寄せてくるはずよ。他の国も交流を持ちたがるはず。まぁ歴史的に見たらどういう扱い受けるかわからないけど……ケリーなら大丈夫でしょう」
「そうですね、何かしてきたら裏でサクッとしめますので」
わーこわい、そんな暗殺とか物騒な事をほのめかすなんて……。
やるなら何も言わずにこっそりやりなさいよ。
「そうね、餞別の代りに教えてあげるけどグンダはほぼ掌握してるから何かあったら私の名前出しなさい。穢れた英雄と伝えれば大体わかると思うから」
「これはこれはご丁寧に、何を企んでいらっしゃるので?」
「貨物室気に入ったから大陸に着くまで使わせてもらうわ。あとしばらく適当にのんびりしてるからちゃんと安全な航海よろしく」
「なるほど、保身ですか」
「えぇ、ちなみに私の身に危険が降りかかった際は……この船もろとも自爆するわ」
最近気が付いたんだけどね、運営さんから貰ったお薬飲んでたらビーム吐けるようになったじゃない。
あれって体液と反応して光という形でエネルギーを放出しているらしいけれど、そのエネルギーを収束してビームにしているわけ。
じゃあその方向性を変えて、全身でエネルギーを収縮、一気に解き放ったらどうなるかって思ったのよ。
例の量子端末で計算したところ一般的な成人男性がやったら車をひっくり返せるくらいの爆発が起こるとわかった。
そこに私のパーソナルデータ、VOTから抽出したものを入力したら今住んでいる場所で自爆したら中国の重慶に海岸ができるって計算が出たわ。
いやぁ……一個人がそんな威力の爆弾持ってるとか恐ろしい世の中ね。
この事実を上に教えたら誰でもビーム撃てる薬ことDBU薬の製法は地下深くに封印されることになった。
自爆テロが容易になるというのはそれだけで問題だからね。
お薬一錠で世界が大混乱よ。
「ちなみにその威力は……」
「大陸までの距離はわからないけど、世界地図を書き換える必要はあるんじゃないかしらね」
「肝に銘じて、あらゆる万難を排して無事な航海をお約束します」
うむ、これで私の旅は安全が保障された!
いやぁ……予定は狂ったけど、おおよそ目的通りね。
最終兵器まで出てきて私の胃とこの世界の地図がマッハ。




