身体測定
運営主導の身体測定は自衛隊駐屯地の施設を使わせてもらえることになった。
うん、まぁ設備としては申し分ないのよね……一般的に見たら。
「はい、では手始めに50m走から始めます。うちの祭がドーピングした状態で一緒に受けるので、三根さんも女性の平均をはかるという意味で一緒に参加してください」
というわけで運営の祭さん、一般人枠の祥子さん、そして人外枠という扱いで私が走ることになった。
枠組みに納得がいかないけど……。
「では」
パーンとスタートの合図とともにスターターを踏みしめた瞬間だった。
スターターは無残な音を立ててスクラップになり、地面は抉れて気が付いたらゴールラインをとっくに超えて壁にめり込んでたわ。
そして一瞬遅れてパァンという音と、強風。
祥子さん達はまだスタートラインにいたし、なんならせき込んでて走るどころじゃないみたい。
土埃がすごいし仕方ないわね。
「……測定結果、0.13秒」
おぉ、1秒の壁超えた。
縁ちゃんに一歩近づけたわね。
あの子は日頃からこのくらいしてのけるし、私みたいに壁にめり込んだり余計な破壊したりしないからまだまだ遠い存在だけど。
実技系の授業があるからと登校しなきゃいけない日があったりするとギリギリまで寝てて、そしてすさまじい速度で走って登校。
最初その方が疲れないかなと思ったけど、慣れるとそうでもないみたいね。
「え、えーと……別個でやりましょうか」
「お任せしますよ。次は何すればいいですか?」
「じゃあ100m……はいいか、垂直飛びで」
「はーい」
室内に移動して垂直飛び。
「ではいつでもどうぞ」
手に白い粉をつけてその場でジャンプ……目の前が真っ暗になったわ。
停電かしら。
「い、伊皿木さん? 大丈夫ですか?」
む、下から声がする。
つまり……天井にめり込んだのね、体育館並みの高さのある天井に。
自衛隊の人たちから運動用の服を借りれてよかったわ。
いつも通りスカートでやってたらパンツ見られてた、今日のはあまり可愛くないのよ。
祥子さん達に連れ出されたからその辺気を使う時間なかったからね。
「とりあえず測定不能……一応速度計用意していたので天井の破損具合と合わせて計算してみますね」
「はぁ、というかこれ意味あるんですか?」
「割と重要ですよ。人がどこまで限界超えられるかという実験にもなりますし、演算可能領域内であればCPUの負担も減りますから」
「なるほど、演算予測を超えていたから負荷がかかっていたんですね」
「そういうことです」
なるほどなるほど……ならこのままいろいろ手伝いましょうか。
前屈とかそういうのはまぁ普通にこなせた。
握力測定は計測器を握りつぶしてしまって測定不能、理論上1tまで計れる特注品だったらしいけど……ゴリラの握力測定でもするのかしら。
走り幅跳びとかはその危険性を考慮して中止となった、50m走の結果から推測するとかなんとか。
それ、RFBの意味あるのかしら……。
「じゃあ最後にですが、持久力を試すためにもシャトルランをしてもらいます」
「わかりました、せっちゃん、手加減はしないようにね」
「はーい」
というわけでシャトランスタート、音楽が流れている間に何mか先にあるラインを超える。
それを延々繰り返すんだけど、音楽は徐々に早くなっていくから体力の限界が来たらリタイア、つまり自主的に終える事ができるのよね。
まず最初の10往復、全員無事完了……と言いたいんだけど祥子さんがすでに息切れしてる。
なんなら汗をだらだらと流している状態、体力無いのね……。
そこから根性で残り10往復したところでギブアップして酸素缶のお世話になっている祥子さんを尻目に、祭さんと一緒にシャトラン。
といっても私は音楽が鳴り始めると同時に反対側にたどり着いて、あとは待ってるだけだから使う体力よりも待つ時間の方が多いのよね。
そのまましばらく続けること100往復ほどしたころ、プツリと糸が切れた人形のように祭さんが倒れ込んだ。
カンペで「そのまま続けて」と言われたので気にせず続けるけど、結局実験終了の合図が出るまで延々と走り続けた。
うん、大分体が慣れたのか物を壊さない、ソニックブームを発生させない、音の速さをぎりぎり超えないレベルで動けるようになってきたわ。
手加減って大切よね。
なんだこいつやっぱり人間じゃねえ。




