運営の興味をひいた女
強制ログアウト措置をくらってすぐに私は祥子さん達によって運営のもとへ連行された。
有無を言わせぬ迫力、そしててきぱきとドナドナされたわ。
「被告、せっちゃん。何か言い残すことは?」
「それ早くも死刑宣告ですよね……」
「あー、裁判長もとい三根さん。一応経緯とかこちらの情報を出しておいた方がいいのでは?」
運営さんがなんか気を使って手を挙げつつ声をあげてくれる。
うん、久しぶりの人里だからテンション上がってましたとか、久しぶりにゲームやって色々試したくなりましたって言ったら間違いなく怒られる。
だから私は余計なことは言わない。
「そうですね……では、一応説明お願いします」
「はい、今回はうちが使ってる量子コンピューターに膨大な負荷がかかったことでサーバーがダウンしました。その原因は特定済であり、そちらの伊皿木さんが操るフィリアというキャラクターのRFBによるものです」
「質問です。量子コンピューターを使ったサーバーが落ちるとかあるんですか?」
気になったので挙手してから質問、昨今のゲームでは量子コンピューターをサーバーにというのは珍しくないんだけど、それが落ちたというのは聞いたことがない。
化けオンは初期の段階だと運営さん達が勝手に改造したスパコンをいくつも繋いでたらしいけど国から補助金出るという事で量子コンピューターに買い替え、今まで使ってたのは別の研究に回したらしい。
具体的には地下に保管されてる巨大ロボットたちに。
「既製品とはいえ腐っても量子コンピューターですからね、並大抵の負荷では落ちません。ただ今回は特殊なケースだったんですよね」
「特殊とは」
「化け物になろうオンライン、通称化けオンはシミュレーターのような役割を持っていまして、NPCには個性があり、人々がログインしていないメンテナンス中も日常がある。いわばもう一つの世界なんですよ」
「ほうほう、壮大な話ですね」
「えぇ、まぁその結果容量の7割くらいを世界の演算に割いて残りの3割、正しく言うなら2割をNPCとプレイヤーのための演算領域にしていたんです。残りはたった1割に見えますが、正直これだけでも旧スパコンサーバーより容量余らせてありました」
「なるほど、じゃあその容量を食いつぶすほどの何かが起こったと……」
「他人事のように言わない」
スパコーンと祥子さんに後頭部をスリッパで叩かれた。
痛くはないんだけど、とっさに避けそうになるのを我慢するのって結構大変ね……。
ここで「残像だ」とか言ったら本気で殴られるわ。
「端的にお聞きします。フィリアとして、伊皿木さんは何をなさったのですか?」
「RFBを使っていたというのはご存知の通り、リアルでできる事をやろうとしました。と言っても覚えたばかりの物なんですけどね、こう……漫画とかで達人が気配を周囲に溶け込ませるとか、その応用で探知をするとかあるじゃないですか」
「ありますね。居合の間合いに入ったら目を閉じていても切れるとかそういうの」
「そうです、そんな感じ。あれをやったんですよ」
「……なるほど」
一言呟くと運営さんは黙ってしまった。
そして何やらメモ用紙にがりがりと謎の数式を書いていく。
数分、お茶を飲みながら待っているとガバリと顔をあげてこちらを見てきた。
「はい、仮説ですが謎は解けました」
「仮説なら解けてないですよね」
「まぁおおよそ理解できたというべきですかね」
「聞きましょう」
これ以上は話が進まないと思ったのか祥子さんが先を促す。
「おそらく、伊皿木さんが行ったのは世界と自分をつなぐような何かではないでしょうか。今我々も研究を進めている誰でも達人になれる薬、略称DTN薬のメカニズムに基づいて説明しますと、いわゆる達人の気配遮断や気配察知というのは世界との同一化なのです」
おぉ、仮説だけでもなんか明鏡止水の境地に触れてるの凄い。
でもそんな薬世間に出回ったらすごい混乱おきそうね……ストーカーが忍者並みのステルス性能してて、ストーカー被害者が背後に立つと怒る殺し屋並みの気配察知能力持って……あれ、案外なにも変化ないかも。
「この世界との同一化というのは自分の中に世界そのものをコピーするのではないか、というのが我々の説なのです。そこにいるのが当たり前であり、自分こそ世界であり、そして世界こそ自分である。ニーチェの思想に似ていますね」
「似てますか?」
祥子さん今の説明でわかるの?
「……伊皿木さんがよくわかっていないようなので説明しますと、我思う故に我ありとか、深淵を覗く時深淵もこちらを覗いているとか、そういう話です」
「わかったようなわからないような……」
「まぁそんなもんと理解してください。身体の中に世界をコピーすることで自分を世界に溶け込ませる、中にという言い方が嫌なら世界そのものを迷彩服のように纏うと思ってください」
「あ、なんかしっくりきました」
「世界の中に自分を溶け込ませるというのは自分自身を素粒子レベルまで分解して、周囲に拡散させるレーダーのようなもの、とはいえこれは比喩であり実際拡散させているとしたら意識とでも呼ぶべき何かでしょう」
「あー、まぁそんな感じかも」
使ってみた感じあまり範囲広げすぎたり、出力上げようとすると意識が途切れそうになるし。
「じゃあそれがサーバーにどのような負荷をかけたかと言いますと、7割使ってる世界演算、これがもう一つ増えたらどうなりますか?」
「容量オーバーしますね」
14割、サーバーの限界を40%も超えているわ。
「さらにもう一つ増えたらどうなりますか?」
「210%も容量を使う……サーバーが火を噴いてもおかしくないですね」
「はい、その危険性があったため緊急停止システムが作動したのです」
「なるほど……なるほど?」
「許容量以上の負荷がかかると自動メッセージと共に勝手に切断してくれるようになってるんですよ。それでなんですが……」
あ、なんか嫌な予感。
「伊皿木さんには新型量子コンピューターの制作を手伝ってもらうべく、人間の限界性能とやらをはからせてもらえませんか? 端的に言うならちょっとした身体測定です」
うわぁ……面倒くさい。
運営ですが、彼らは純粋な人間の集まりです。
ただし稀代の天才の集まりです、50人ほどの人数ですが世界征服できる50人。




