文明最高
「そういえば私の処遇ってどうなってるのかしら」
「あー、祥子さん言ってましたよ。暴走の時のことだいぶ噂になってるし、もうここまで来たら死亡報道は重傷者と名前を間違えて報道してしまったという事にするそうです。それで刹那さんは表向き入院中のリハビリ中、実際は謹慎処分だそうです」
まぁ……そうよね、自宅待機のお仕事ほっぽらかしにして街で大暴れ、その後山に修業に行っちゃったわけだからそれは仕方ないか。
「というのも建前で、しばらくは化けオン内の調査を進めてほしいそうです。色々あって今の化けオン、ちょっと不安定らしいんですよねぇ」
「不安定?」
「はい、RFBのせいで」
RFB? リアルのポテンシャルをそのままゲーム内にフィードバックするシステムで不具合なんて起こるのかしら……。
「考えても見てください。オリンピックを鼻唄交じりで金メダル総なめできるレベルの人たち、私や刹那さんや司馬さん、それに刹那さんの弟さんとかがいるんです。他にも実力者いっぱい。演算負荷がすごいことになってて最新鋭の量子コンピューター使っても計算が追い付かないとか」
「そんなことあるの? 所詮は生身の人間をスキャンしたデータじゃない」
「はい、筋力とかのデータだけなら問題ないんですよ。でも刹那さんみたいにビーム吐けたりとかそういうのまで演算しようとして量子コンピューターが追い付かないそうです」
あー、人間がどうやってビーム吐くのかってメカニズムとかアルゴリズムを解析するのに容量くわれてるのね。
人間の埒外な部分、それが量子コンピューターですらも頭を悩ませるほどの謎分野……それを開発する運営は頭おかしいわね。
「なので遠からず化けオン運営がコスト度外視で作る世界最強の量子コンピューターにメインサーバーを移すまでは不安定みたいで、その状態で得られる情報を集めてほしいとのことです」
「了解したわ。じゃあ私はログインしてくるからクリスちゃんはいつも通りにしててね。あ、ごみの分別はしっかりとすること」
「はーい」
昨日のこともあったので釘を刺してからVOTに寝っ転がる。
昨晩のベッドでも感じたけど、やっぱり岩の上で寝るより寝心地いいわね……。
やはり人類の英知は最高ね!
「っと」
一瞬の浮遊感と共に地面に足をつける。
なーんかふわふわして落ち着かないわね、この身体。
RFB使ってるからそこまで違和感があるのもおかしいのだけど、これも運営側の問題かしら。
『大天使を吸収しました、大天使の種族取得の際に悪魔を含む数点の種族が干渉しました。大天使の種族取得に失敗、堕天使を取得しました。聖属性に弱いデメリットレベルが5上昇します』
『大天使を喰らい取り込んだことで神の怒りを買いました。地母神マツリの呪いを受けました。動植物に嫌われやすくなります』
『暴食の悪魔大公級と堕天使が干渉しました。種族が融合します。暴食の堕天使大公級に変化します。聖属性NPCの好感度大幅減、邪悪属性NPCの好感度が上がりにくくなります』
『複数の魔法を取得しました、メニュー画面から確認してください』
おぉう、そういえば忘れてた。
というかデメリットレベルの上昇に、神様の呪い、NPCの好感度が減ったりと割と散々ね……うかつに種族を追加するのはよくないみたいね。
反抗とかされてたらもっと大きなペナルティもあったのかもしれないけど……まぁ結果オーライということでいいか。
というか地母神マツリ……運営のキャラデータ担当の人の名前じゃない。
ここの運営はそういう立場で化けオンに接してるのね……つまるところ、ゲームそのものが広大なシミュレーター。
運営が握っている人類改造のあれこれを実際に導入した過程とでもいうべきかしら、改造を済ませた化け物と、適応程度の改造を済ませた人間プレイヤー、そして全く改造の施されていない一般人NPCというところかしらね。
時代を現代にしなかったのは何か理由があるのか、それとも戯れか……とかかっこいいこと言いたいけど、これは多分ただの趣味。
シナリオ担当のタツヤさんって人が好き勝手に書いてるはずだからね。
思い返せばいろいろと面白い、例えば白銀の塔の様子。
あれは構造的に改造の施された一般人が、まったく改造されていない一般人によって研究材料にされている構図だった。
じゃあその研究者って誰だという話になると、まぁ運営が真っ先に上がるわよね。
事実今国が後ろ盾となり、必死に守って研究を進めさせている。
彼らが拠点としている自衛隊駐屯地は白銀の塔の前身となっていると言っても過言ではない、というかむしろ元のぼろビルが白銀の塔の本当の姿だったのかもしれないわ。
っと、そんなことより……。
「ケリー、いるかしら」
「なんでしょうか」
おぉう、忍者みたいに突然現れた。
似たようなことは私もできるけど、ここまで完璧に気配を消してとなると結構苦労するわよ。
「街の様子は?」
「可もなく不可もなく、ギルフォード一味も元通り漁師業務に戻っております」
「海賊行為は?」
「今は身をひそめるように伝えてありますので、控えているかと」
「畜産と農作は」
「土壌の健康状態に異常はありません」
「物価の高騰など」
「酒類が少々値上がりしていますが想定の範囲内です。また魚介類は多少値下がりしています。おそらくレオンがいなくなったことで供給量が増えたからでしょう」
「街の外に出ようとする人は」
「いません。不満を訴える声もなく、本日も街はいたって平穏です」
「パーフェクトよケリー」
「ありがたき幸せ」
さて、街の様子は落ち着いている。
なら……なにしようかしら。
とりあえず当面の問題である貿易関連をどうにかしないといけないわよね。
畜産で近親交配が進んでいるという事は、この街の人も同じ状況にあるという事。
それは遠からず破滅する未来が待っているわ。
だったら森に行って精霊王と話をしてみたり、というのが手っ取り早いかも。
うん、そうしましょう。
「ケリー、森に行ってくるわ」
「精霊女王を取り込むのですか?」
「いいえ、精霊王を説得してくるの」
「……万が一という事があるやもしれませぬ。ご存分にご注意を」
「えぇ、ありがとう」
うんうん、ケリーはいい子ね。
そうと決まれば……えーと、とりあえずお土産になりそうなもの持っていきましょう。
ちょちょいと街を周って肥料になりそうなものをいくつか購入。
そして森に突入……したはいいのだけど。
「ねぇあなた、精霊王はどこ?」
『……………………』
さっきからずっとこんな感じ、ずっと森の木々に無視されている。
どうやら本格的に嫌われて、話す事すらできなくなってしまったらしい。
意思疎通はできるんだけど、意図的に無視されてる。
何本か木をへし折ったけどダメだった、それくらい嫌われてしまったのね……。
動物も絶対に近寄ってこない。
なら、新技の時間かしら。
「ふぅ……」
呼吸を沈めて自然と一体化、神羅万象の理をこの身で全て受け止める。
明鏡止水の境地、うずめさんとの修行で得たこれをゲーム内でも使えるかという実験も兼ねた行為……だったんだけど。
「そっち、ね……?」
ふっ、と気配を感じた方向に足を向けた瞬間だった。
ピシピシと世界に亀裂が走り、同時に世界がゆがんでいく。
そして……。
『サーバーが負荷許容量を超えました。緊急ログアウト措置を取らせていただきます。ただいまより緊急メンテナンスを行います』
……また私、やらかした?
なんでオンライン成分すぐ死んでしまうん……?
というか説得(物理)が初手の刹那さん、流石にリアルでは説得(威圧)程度です。




