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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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修行

 まず最初の修行、ザババババと音を立てる滝、それを浴びる事で精神を清め煩悩を払う。

 のはいいんだけど、時々落ちてくる丸太とかが邪魔ね。

 集中しすぎて頭で受けちゃったときはこぶができたわ。

 その後の狩りはなかなかうまくいかなかった。

 なんというか、この山に住む動物はいずれもが危機察知能力に優れ、そして逃げ足が鋭い、ついでに戦闘力も馬鹿みたいに高い。


 素早いとか、小回りが利くとか、そういう次元じゃない。

 とにかく鋭い動きをする。

 針の穴を通すような極僅かな隙間、私のような人間ですら通ろうとは思わないような場所を巨躯の熊がするりと抜けていく。

 暖簾に腕押しとはこのこと、雰囲気的には柳に風というべきかもしれないけれど力押しでは一生追いつけない。

 障害物を無視してなぎ倒しながら追いかけたけど、あっさり逃げられる。


「はっはっはっ、せっちん。その程度であたしの教え子達を狩れると思わないことだね!」


「教え子って……」


「10年くらい前にここで修行してた時に逃げ方と戦い方を教えたのさ! おかげでこの山の生態系がとんでもない事になってね、ぶっちゃけ普通の人間に猟銃もたせた程度では獲物なんか狩れない! どころか軍隊送り込まれても返り討ちさ!」


 ……なんか、嘘くさい話だけどうずめさんが言うならという不思議な説得力がある。

 たしかにこの山の動物はどれもこれもがおかしな動きをする。

 例えばキックボクシングみたいな動きをするウサギ、プロボクサーより鋭いジャブを打ってくる熊、大型トラックよりも強い突進力の猪に、絶滅したはずなのになぜか生き残っているニホンオオカミ、しかも無茶苦茶連携取れてて強い、鹿は蹴り飛ばした小石が銃弾並みの威力持ってるし、猿は木の棒で槍術をしてみせる。

 そしてそのどれもが本気を出そうとした瞬間に逃げ出した、アスリートもびっくりのパルクールで、しかも場合によっては鹿がクラウチングスタートで逃げる。

 もうね、生態系がバグってる。

 人為的とかそういうレベルじゃないわ。

 霊峰って言ってたっけ、たしかに人外魔境ともいえる場所だわここ。


「うずめさんはそんな教え子が捕まって食べられるのを見ていられるんですか?」


 意訳、ごはんください。


「弱肉強食、食物連鎖!自然の摂理の中で人は生きる。ならばせっちんもその摂理に収まってみせなさい!」


 意訳、ダメです……か。

 ならとことんやってやろうじゃない。

 とりあえずこの修験者衣装は動きにくい。


「うずめさん、これ脱いでもいいですか?」


「女の子は恥じらいと慎みが大切よ」


「そういううずめさんは酔うと裸踊りしますよね」


「まぁあたしはいいのよ。それより……早くしないと今日はご飯食べられないわよ。あと1時間で次の修行だから」


 無言で走る。

 なんでもいい食べられるなら、そう思い周囲を見渡し気付く。

 この山、なんか息苦しい?

 妙に身体が重いというか、動きが鈍るというか、判断が遅れるというか、とにかくうまく動けない。

 うずめさんの言う通り力押しではどうにもならない……なら。


「すー、ふぅ」


 地面に腰を下ろして呼吸を深く……気配を溶け込ませて自然と一体になりこちらに気づいていない獲物を探す。

 ……いた、500m左側に鹿。

 このまま視線を向けては気付かれるだろう、それほどにここに住む動物は繊細だ。

 鏡でできた迷彩を纏っていると思え、下手に動けばばれてしまう。

 ならば自然に溶け込んだまま、首を亀の歩みのような速度で動かし……。


「カッ」


 狙いを定めてビームを吐く!

 ぶっつけ本番だけど一筋の閃光が鹿をとらえた!

 そう思った瞬間だった、鹿は即座に身をひるがえしビームを避けたかと思うと三角飛びで木と木を蹴りながら山の奥に逃げてしまった。

 ……ガッデム!


「惜しかったねぇ、でも最後に力押しに走ったのがだめだったわね。自然に溶け込む、神羅万象一体化の精度をもっと上げればそのうち捕まえられるでしょう。というわけでタイムアップ、次の修行に行くわよ」


「そ、そんな……」


「はーやーくー、そうしないといつまでたってもご飯食べられないわよ」


「ぐぬぬぬ……うずめさんを倒してここから逃げるというのも考えるべきかもしれないですね……」


 私の食事の邪魔を……というのはダメだ、食に対する感謝を忘れたままではいけない。

 けどご飯……はっ!


「うずめさんどいてください!」


 うずめさんを押しのけてばっと手を伸ばす。

 よし、掴んだ!


「ご飯だ!」


「おー、カブトムシ。じゃあそれ調理したら……あ、せっちん油断大敵」


「は? いたっ!」


 カブトムシの角が手のひらを貫いていた。

 そのまま天と地が入れ替わり、地面に背中を打ち付けたことで投げられたのだと理解する。

 誰に?

 言うまでもない、カブトムシにだ。


「……うずめさん、この山の生き物って外に出ませんよね」


「出ないようにしつけてあるから大丈夫だよーたぶん。鳥も基本的にここで育ったの以外は近寄らないし、この山出身はみんな外に出ないから、滅多に」


「よかったです。あんなのが外に出たら日本消滅しますから」


「日本だけで済むといいね」


 飛び去って行くカブトムシを目で追おうとして、超高速で木をへし折りながら飛んで行くのを見てつくづく実感した。

 ここ、おかしいわ。

 まともな場所じゃない、どこなのかしらね……。


「さぁさぁ、次の修行は突き出した針岩の上で逆立ちしながらの瞑想よ。早く行きましょ」


「……遺書、書く時間貰えませんか?」


「修行中に瞑想しながら書いてね」


 くっ、逃げる時間も休憩時間ももらえない……なんて理不尽なんだろう。

 なお針岩というのは比喩ではなく、突き出した数本が槍のようにそびえたち、その下には絵本に出てくる針山地獄のごとく大量のトゲが突き出していた。

 そこで片手、正しくは指一本で岩の上で倒立しながら瞑想……正直何度か空腹で意識飛びかけたわ。

 尖った岩の上で逆立ちちょっと指先に食い込んでいたいなぁくらいだったけど、目が回って幻覚が見えたりもした。

 もうね、早くも心が折れそうになったわ。

 その後もご飯にありつけず、一日絶食することになってしまった……ひもじいよぉ。

 なんで果物が噛みついてくるのよぉ……。


里の住民の日常

お爺さん「婆さんや、山のカナブンが窓を突き破ってきてのう。新しいガラスを用意せんといかん」

お婆さん「あらあら、3㎝じゃダメだったのね。今度は5㎝はめ込めるようにしないと」

子供A「カブトムシ捕まえたぜ!」

子供B「俺はクワガタだ! 勝負だ!」

子供A「うわぁ! 俺のカブトムシが一刀両断された!」

青年「今年は山が騒がしいな、装甲車も古くなってきたし新しく買い替えるか」

サラリーマン「会議中に失礼します、熊が下りてきたようなので狩りに行ってきます」(大剣担ぎ)

主婦「あらあら、スズメバチの巣。ナパーム式火炎放射器はどこにしまったかしら」

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― 新着の感想 ―
ほんとに物質界なのか……? 仙界とか高天原じゃなく……?
ここやべーわ(二週目で改めて
[一言] 里の住民も大概やべぇー
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