事後
家に帰ってから部屋を見ると酷い惨状だった。
具体的に言うとソファーがひっくり返って、床には穴が開いてる。
窓ガラスは割れてて、そして壁が焼け焦げていた。
「これは……」
「あ、せっちん帰ってきた」
「おかえりなさーい、随分暴れましたね」
「そんなに……?」
うずめさんとクリスちゃんの言葉に恐る恐る自分がやらかしたことを聞いてみることにした。
まぁ……酷いわね。
涙目で膝枕してもらってたら突然起き上がって、そして外に出ようとしたから止めたら暴走しだしたと。
クリスちゃんはドアを死守する姿勢で退避、うずめさんが頑張って私を止めようとしてたけどビーム吐いたり、ソファーぶん投げたりして一瞬の隙をついて窓から飛び出したらしい。
……ビーム吐いちゃったか、薬無くても吐けるようになっちゃったのね。
「それにしてもまさか刹那さんが人間やめるとは思いませんでしたよ」
「え、人間よ?」
「またまたぁ、ビーム吐く人を人間とは言いませんよ」
「人間よ?」
「でも」
「人間、よ?」
「……はい」
よし、クリスちゃんは納得してくれた。
うずめさんを見ると口笛吹きながらソファーを直してる。
……まぁいいでしょう。
「しかし、よくテレビとかは無事だったわね」
「うずめさんが死守してくれました。これが無くなったら生きていけない、暇で死ぬって」
「へぇ、即落ちで俗世に慣れたわね」
「ですねぇ、先日までジャンクフードは体に悪いとかスタイルが崩れるって言ってたのに今じゃコーラとポテチ食べながらフライドポテト作ってますもんね」
「ねー、まぁ毎日運動してるから太らないみたいだけど」
この家は防音設備がしっかりしているからうずめさんが派手にブレイクダンスしても問題ない、強いて言うなら私のブレイク暴走には耐えられなかったみたいだけど、それでも結構頑丈に作られている。
「あたしの話より、せっちんは何してたのよ。片づけしながら交代で食料の買出し行ったりしてたんだからね」
「え、本当ですか? ありがとうございます!」
やった、ご飯がある!
いやぁ、どれだけ暴れたかわからないけどお腹すいてたのよね。
「ご飯は片づけてから、そしてお話聞いてからね」
「じゃあ話します。と言っても覚えてる範疇でですけど」
そこから散らばった家具を片付けて、床や壁を掃除して、そして窓ガラスには新聞紙を張り付けてと作業をしながら説明をした。
まぁ、覚えてないところが多かったから何ともふんわりした説明になっちゃったけどね。
「むむむ……そこに至るまでの経緯ってわかる?」
「経緯ですか?」
「そうそう、暴走するようなことって人間だと……ごほん、普通の人間だと極限状態に追い込まれないと無いのよ」
極限状態……確かに戦場で取材中敵の襲撃を受けてパニック起こす人は結構いたわね。
一番悲惨だった光景はスナイパーに撃たれたガイドと一緒にいたカメラマンが相手の位置を把握しようとして立ち上がって次の瞬間には撃ち抜かれてた。
これもある種のパニックであり、そして生存本能が引き起こす暴走と言える。
他には虎とのガチバトルでなぜか銃を捨ててナイフ一本で突撃していった人、雪山で暑いと言い出して服を脱ぎだした人、誘拐されたストレスで死を選んだ人と結構いた。
まぁ全部その場に居合わせたんだけど、直に見るとかなり悲惨。
何かしらの感情に突き動かされた暴走行為というのは、リミッターを外すのと似ている気がする。
「うーん、お腹がすいてて食べ物が無くて……」
「その前段階、なにかやらかした? 例えば……せっちんの家柄関連で」
「家柄……あぁ、それなら」
鬼の血に関すること、闘争心に飲まれそうになった経験とそれを克服した経緯、運営の謎のお薬で見た光景と行動、ついでにさっき食べた石のことも話しておいた。
「あー、うん。そうね、まぁ……うん、せっちんだし大丈夫か」
「なにがですか?」
「まぁ仮に鬼という存在がいて、その混血が今の今まで残ってたとしましょう。そしてそれをせっちんが取り込んだ。そしたら肉体はパワーアップしたけど、精神がそれに追い付いていないとなると……」
「子供のおもちゃにミサイルの発射スイッチを持たせるようなものですね」
うずめさんの隣で大量のお芋を剥きながらクリスちゃんが答える。
なかなか失礼な例えね……私は怪しいスイッチは押すけど押したらいけないと言われるスイッチは滅多に押さないわよ。
そう、10回に3回くらいしか押さないわ。
「とりあえず精神修業しよっか、せっちん」
「修行って……今時はやりませんよ? そんな泥臭い事」
「まぁ流行らないね。VR道場、あれやってみたけど、なるほどよくできてるよ。でもあれはあくまでも身体に動きを教えてくれるだけで、精神修業にはならない。昔の道場って言うのはもっと、技とかよりも先に精神を鍛えていたんだ」
「それは知ってます。私も昨今絶滅危惧と言われている各地の道場で修行してたことありますから」
日本はもちろん各国を回っていろんな武術を会得していった。
今一番使っているのは八極拳だけど、一撃必殺系が多いから生身で使う時は手加減して普通に殴るくらいにしてる。
「うん、あたしの道場に来たこともあったね。あの時教えきれなかったことを教えてあげるよ」
「はぁ……あ、カメラOKですか?」
「商魂たくましいね。別にいいけど地味な絵面になるよ」
「地味……」
その言葉を最後にうずめさんは方々に電話をかけ始め、そして縁ちゃんと祥子さんが帰ってきてからご飯を一緒に食べて、そして翌朝には私は山奥に連行されていた。
ここ、どこ?
「やぁやぁせっちん。ここは修行のために用意してもらった霊峰の一つさ。まずは朝の滝行!」
「あの、朝御飯は……」
「滝行3時間やってからね。その後狩りをして、捕らえた獲物をちゃんと調理して食べる。これまた修行なり」
「3時間……」
青ざめている、自分でもすぐにわかるほどに私はぞっとした。
3時間も……そんなに長い時間……ご飯が食べられないなんて!
「せっちん、煩悩は捨て去りなさい」
「でも……ごはん……」
「逆に考えるがよいぞよせっちん。いつもはすぐに出てくる味気ないご飯よりも、3時間も我慢してから狩って調理して食べたご飯は何倍もおいしくなると」
……はっ、私としたことが!
そう、食に対する感謝、それを最近の私は忘れていたのかもしれない。
そういう意味では確かに精神修業は大切だ……。
うむ、性根を鍛えなおす必要があるわね。
「やります!」
「よろしい! じゃ、いこっか」
次回からおよそ2話、なろうでは不人気極まる修行回です。
ただまぁ……刹那さんの修行だからね、地味な絵にはなってないです。
うん、日本がちょっと人外魔境になっただけ。
ワタシワルクナイ。




