レオンの部屋
通されたレオンの部屋は割と豪勢だった。
天幕付きのベッドに、仕事机、本棚とワインセラーなどなど。
なんというか典型的な成金の部屋という感じ。
「この部屋は自由にお使いください」
「あら、寝泊りも自由?」
「無論です、レオンを喰った瞬間からあなたの部屋となりました」
なるほどなるほど、ある種のご褒美イベントでもあるのね。
街の統治をしてもいい、ここに居を構えていいよというシティイベント。
面倒ならNPCに丸投げしてもいいというのが救いかしら、私そういうのやりたくないし。
あ、でもいざという時のために住民を屈強な兵士になれるくらいに育てておくのもありかしらね。
そこだけは言いつけておきましょう。
「私の部屋になるならあのベッドは買い換えてちょうだい」
「最高級品ですが、何かお気に召さないことでもありましたか」
「おっさんが寝ていたベッドで寝たくない」
いやまぁ戦場とか取材先じゃそんなのはしょっちゅうだったけどね、すき好んでリラックスタイムにおっさんの使っていたベッドをそのままというのはどうにも……。
相手があのレオンともなればね、因縁は浅いけどなんか嫌なのよ。
「あと食器類もレオンが使ってたのは売るなり破棄するなりして新しい物を。どっちも安価なものでいいわ」
「かしこまりました」
「あとは街の管理は全面的に任せるというのはそのまま、私の名前は一切出さないようにね。そうね……調べたら悪魔レオンは穢れた英雄に討たれたという情報が出る程度にしておいて」
完全に隠蔽しようとするとどこかでぼろが出る。
だったらあらかじめこちらが用意していた答えに誘導してしまえばいい。
うむうむ、これでおおよその準備は終わったわ。
「ギルフォード達はいかがしましょう」
「もとより殺すつもりはないわ。今後トラブルを起こさない限り危害は加えないことを厳命します。それと後で黒帆船を見に行くと伝えておいてちょうだい」
「かしこまりました」
さて、私はこの部屋の資料やら本やらを確認していきましょうか。
まずは仕事机の引き出しを確認。
街の税金に関する書類や、その他の畜産農作の収穫量、漁業の収穫量などが記載されたものが多数。
それと街の人口が書かれているわね。
ざっくりと7千人、そこそこの人口だけど国というには小さい……ちょっと過去の情報を探してみる事にしたらすぐに見つかった。
最初、ここが森に守られていなかった頃の話。
そのころは漁業も盛んで周辺諸国の往来もかなりあったみたい。
けれど三国からカツアゲされたことで森を封鎖した、その際の人口は約4万人。
その中には森を抜けようとした人もいたし、病気で亡くなった人もいた。
最終的に反旗を翻そうとした人もいたけれど、既に国として余力がなくなっていたためその行動も無意味に終わってしまったという事らしい。
結果国ではなく街として支えられる限界人数が今の7千人という事なのかしらね。
ふーむ、なかなか難しい問題ね。
一応今の私なら三国のカツアゲをどうにかすることはできる。
けれど森の守りを解いて、人が流れ込んできたら私がゲームをやっていると気付く人がいるかもしれない。
さっきは穢れた英雄がやった、という情報を流す方に舵を切らせたけど私に結び付ける人がいるかもしれないからね。
それは追い追いやっていくとしましょう。
次に見るのは各種収穫量。
まずやはりというべきか、この街は食料の大半を魚に依存しているみたい。
けれど森の浅いところで果物をとってくる人もいたり、また多くはないけど農作を行っている土地もあるから栄養面は大丈夫。
家畜として牛を育てて農作に使いながら各家庭で山羊や鶏も育てているみたい。
山羊に関してはドワーフの国から仕入れたものの末裔みたいね。
情報を見るに年々家畜の病気が増えたり、寿命が短くなっていることから近親交配による弊害が出ている。
そこは早急にどうにかするべきかもしれない……。
レオンも同じことを考えていたのか、森の精霊王と接触をはかった形跡がちらほら残っている。
精霊女王を求めた理由はこれかしら……あれにとって人間も家畜だから、それがいなくなるのは困るでしょうしね。
とはいえギルフォードが大陸側からある程度新しい家畜を連れてきたりしてたみたいだけど、土地に合わなかったりここに着く前にストレスか何かで死んだりしていたみたい。
まぁ運搬技術が発展していないとそうなるわよね。
最後に一番の問題は物資、主に鉄が問題かしら。
船というのは言うまでもなくかなりの大食い、とにかく物資に素材にと費用が掛かる。
しかも海の上で破壊されて沈んでしまったら再利用もできないとなればなおさら。
結果としてこの国では鉄などの資源がかなり乏しい。
それこそ包丁一本が数万リルするくらいには困窮している。
どうにかする手立てがないわけじゃないけど……金属類は美味しくないから私も手持ちがほとんどないのよね。
せいぜいがPKを仕掛けてきた人や、白砦で倒したプレイヤーからのドロップアイテムくらい。
数字にして数百キロのそれでこの状況が改善されるとは思えないわ。
けどまぁ、調理器具の供給には間に合うかもしれないわね。
あとでケリーに鎧とか剣を渡しておこう。
「ん?」
資料を探していて一冊の本に指をかける。
それと同時に違和感、何かに引っかかっているような……とにかく本が取れない。
「ふんっ」
力いっぱいそれを引き抜こうとするとガコンという音と共に本棚がスライドする。
……古典的ね、でもこの先に何があるのか少し気になるわ。
せっかくだから冒険と行きましょうか。
ベッドの下にはおやつ(人骨など)が転がってます。
エロ本は転がってません。




