事後処理って大変だよね
さて、あっさりとレオンを倒してしまったはいいけど……これからどうしようかしらね。
「ねぇギルフォード、どうしよう」
「どうしようって……ノープランかよ」
「本当なら穏便に済ませるはずだったんだけど、興が乗っちゃったからついね」
「ついで悪魔を食い殺すとかおっそろしい女だな……とりあえず街の統治じゃねえか? レオンがいなくなったとなれば街は混乱する。それをいさめる必要があるぞ」
なるほど統治……面倒ね、クリスちゃんやうずめさん、それに祥子さんなら得意かもしれないけど私そういうの向いてないのよね。
シティアクションゲームだと大体虐殺ルートか、あるいは独裁者ルートからの処刑エンドになるから。
「うーん、ギルフォード代わりに統治お願いできない?」
「無茶言うな、ちんけな海賊にそんなことできるわきゃねえだろ。そもそも俺らは普段海の上、帰ってきたら暴動が起きてましたなんて洒落にならねえよ」
「それもそうか……まぁ教会で適当に話聞いてみましょうかしらね。あそこならレオンの手ごまくらいいるでしょ」
「そうしてみろ。俺は……とりあえずこの惨状をどうにかする」
そう言って地面を見つめるギルフォード。
私も視線を向けるとレオンの血肉がそこら辺に散らばってるし、血だまりもできている。
酒瓶とかもごろごろ転がってるから……まぁ控えめに言って飲食店の内装じゃないわね。
控えめでない言い方するなら人の居住区とは思えない様相。
「あー先に言っておくが、街のことどうにかしない限り俺達は海には出ないからな。今までの所業は褒められたものじゃねえのはわかっている。最悪の場合俺達はこの街、この国でお尋ね者になって吊られるかもしれんからな。それまでは身を隠してこっそりと生きるさ」
「それがいいわね。あ、でもそれなら船の保有権を私に相続するって内容で一筆したためてもらえるかしら」
「はぁ? なんのためにだよ」
「ギルフォード達が捕まって死んでも私は海を渡りたい、でも人手が欲しいからギルフォード達には生きていてほしい、けど犯罪者だから捕まったら縛り首、その場合船は接収されてこの国のものになっちゃう。そうなったら私が大陸に渡れないわ」
「……それで俺達を殺す可能性は?」
「ないわよ、遠洋で安全な航海ができる人間がどれほどいるの? 少なくともそれだけの度胸がある船乗りを探すよりも、ギルフォード達を助けて恩を売って大陸に渡してもらう方がよっぽど楽よ」
「そりゃまぁ……そうかもしれんが」
「だからギルフォードは契約書を書いておとなしく隠れててちょうだい」
「ちっ……頭がレオンからお前に変わっただけで悪魔が上にいることに変わりはねえのかよ」
「そこはあきらめなさい。悪いようにはしないし、いままでよりも稼がせてあげられるかもしれないわよ」
「へっ、期待せずに待ってるよ」
そう言って店の奥に引っ込んでいったギルフォードを見送って街に出る。
昨日は散々追いかけまわしてくれた監視の目が、今日に限っては一切ない事が不気味ね。
街の中を歩いていても不穏な様子や、妙なうわさ話を聞くこともなく、そしてなんの妨害も無しに教会にたどり着けたことが一番意外。
「お待ちしておりました。新たなる君主よ」
ドアを開けて開口一番、そんな言葉が浴びせかけられた。
教会の中には昨日のシスターさんを筆頭に神官服の女性たちや、暗殺者っぽい衣装の人、それに街の中で見かけた人が数人、あと門番さんが膝をついて待っていた。
「……状況を説明する必要はなさそうね」
「はい、レオンはあなたと戦い敗れた。ならば私達はあなたに従うのが道理でしょう」
「その口ぶり……」
もしかして、とは思っていた。
レオンが身近に聖属性を使える神官を置くとか、私と同じくらい聖属性に弱いと考えたら祈りの言葉が耳に届くだけでも危ない。
なら自分ほどではなくとも同じ聖属性を弱点とする人を近くに置くのが安全じゃないかと。
例えるなら炭鉱のカナリヤ。
聖属性全開で来る人がいたら真っ先にダメージを受けて、レオンに危険を知らせる存在がいるんじゃないかと仮説は立てていた。
いくつかある中で最悪の想定だったけど……今はそれが最良に変化したわね。
「新たに大公の位を得た暴食の悪魔フィリアが命じます。あなたたちはレオンの死を隠し、そして今まで通り街の統治をしなさい。そしてレオンの残した書類や財産はこちらで管理します。案内を」
「かしこまりました」
その場にいた全員が頭を下げて恭順の意を示す。
やっぱりね、ここにいるのは全員が悪魔。
爵位持ちがどれくらいいるかわからないけれど、それなりに強い人員が揃っているみたい。
「さて、案内の前にあなたの名前を聞こうかしら」
昨日のシスターさんに視線を向ける。
「ケリーと申します。男爵位の悪魔にして暴食の悪魔の系譜でございますれば」
「レオンを殺した私が憎くないの?」
「事の顛末は全てギルフォード一味と共にする者から聞いております。正式な勝負で負けたレオンは大公の座にふさわしくなかった。そして戦いの中で爵位を得て、更にはレオンの全てを喰らったあなたこそ我らが頭目にふさわしいかと」
「へぇ……実力社会ってやつかしら」
「暴食の系譜は他と比べると人間に近い社会性を持っています。故に力ある者の言葉に従い、それに不服を覚えるならば別の組織として行動する。互いに邪魔をしない限りは不可侵を貫くのが一般的ですから」
「これで人間に近いの……他はどうなのかしら」
「嫉妬の系譜は日々殺し合いを、傲慢も同様ですね。強欲は常に爵位持ちになろうと悪だくみを、怠惰は個人主義、憤怒は誰であろうと関係なく攻撃を仕掛け人間界では魔王と恐れられ、色欲は人間界に溶け込んでいます」
「……なんだろう、色欲が一番まともに見えるけど身内のせいでそうは思えない」
「なんと、色欲の系譜の方がご家族にいらっしゃるのですか」
「似たようなものよ……」
兄弟の数と性格になぞらえて七つの大罪なんて通り名つけられた中学生時代、酷い黒歴史だわ。
思えば暴食というあだ名もあの時生まれたのよね……忌々しい。
「そういえばレオンは精霊女王とセイレーンを食べたがっていたわ。理由は知っている?」
「精霊女王の持つマナ、魔力をその身に取り込めば王位すらも手に入ると考えたのでしょう。セイレーンに関しては不死の肉体を求めてのことかと」
「不死の肉体……」
「東洋の伝承で人魚の肉を喰らえば不老不死となるというものがあるそうです」
「知っているわ。八尾比丘尼伝説、有名な話ね」
「その伝承になぞらえてセイレーンを欲したのかと。近年レオンの依り代は限界を迎えつつありました。朽ちるのを待つ巨木、それがレオンの宿った肉体でした」
「あぁ、どうりでね」
「なにかありましたか?」
「奴を喰ったとき、枯れ木を食べたような感覚だったのよ。朽ちかけていたというならそうなんでしょう。それで、精霊女王を食べたとして王位とか得られるの?」
「不可能でしょう。王位の悪魔は七柱のみ、かれらの持つ魔力はこの世全ての精霊王を喰らっても足りないと思われます。ましてや精霊女王ごとき何千という数を喰らったとしても……」
なのに精霊女王を求めた……大公というのは王位を継げなかった人が貴族になった時の位だったわよね。
世間的には公爵と同じ扱いを受けるけど、時と場合においてはその上として見られるんだったかしら……。
そんな地位にいる存在が今以上の力を求めるとなると……うーん、あまり考えたくない話だけどあり得るんかしら。
「どうなさいました?」
「仮に、大公位の悪魔を全て喰い尽くしたとして王位に届きうるかしら」
「精霊王よりは可能性はあるかと。しかし遠く険しく難解、その先で叶うという保証は爪の先ほどもないかと」
「そこに他の要素、例えばそうね……悪魔だけじゃなく精霊に人間、そして天使も喰い尽くしたら?」
「そこまでしても悪魔の王位には指一本触れられるかどうかでしょう」
そんなに強大な相手なのね……。
英雄さんが契約を結んだ相手を倒すにはどうしたらいいかなとか考えたけど、これはなかなか骨の折れる話になってきたわ。
「つきました、ここがレオンの私室です」
話しながら歩いていたけど、結構長い道のりだったわね。
さて、レオンはどんなお宝を残してくれてるかしら。
できれば金銀財宝よりもレアな食材の情報の方がいいんだけどね……。
悪魔の世界は基本的に弱肉強食の下克上世界です。
上の者が認めたら爵位取得、相手の土俵で勝てばその爵位簒奪という。
なお系譜というのはあくまでも「産まれ」というだけで、例えばフィリアさんが色欲の悪魔公爵級と勝負して勝てば色欲の系譜公爵も掛け持ちできます。
ただし色欲の悪魔の出してくるルールは大体エッチな内容なので、そっち方面は潔癖な刹那さんは確実に負けるでしょう。




