レオン死す
魂の喰い合い、ゲーム的にはドレインを互いに使いより多くのMPを吸った方が勝ちというルール。
なのはいいんだけど、こっちが出した条件で私の有利に働くことになる。
そもそも私の持っているドレインは相手のHPとかも吸い取るからね、物理的にダメージになるのよ。
固定値を定期的に吸い上げるドレインの魔法、実のところこのレベルになっても吸える量は多くないからあまり使い道無いなぁとは思っていた。
けどここにきてその真価を発揮する。
「ぐっ……」
悪魔という種族はHPとMPが同一ゲージなのか、効きがいいのだ。
なんかすごく吸収率がいい、MPがガンガン回復していくのがわかる。
「あらあら、悪魔の大公が随分と苦しそうね」
「まさかこれほどとはな……しかしこれならどうだ」
左手で私の右手をそっと包むように握るレオン、ルールには反していない行為だけど正直おっさんに手を握られるのはいい気がしない……むっ、急にMPを吸われる量が増えた。
MPを消費すると脱力感に襲われるけど、一瞬膝に来たわ。
「へぇ……ドレインの吸収量コントロール、そんなことができるんだ」
「ふっ、できなければ一瞬で相手の魂を喰らいつくしてしまう。それでは勝負にならないからな」
「面白い、こうかしら?」
見様見真似で力を込めてみる。
「それでは私の手が潰れるだけだぞ」
「あ、違ったか」
むぅ……力むだけじゃダメ、こっちの精神力の問題なのかしら。
だとしたらコントロールできない範囲の問題よね……。
「そら、左手の魂は喰いつくした。その腕を頂こうか」
私の左腕にいっさいの力が入らなくなる、なるほどね……こういう感じで徐々に削られていくんだ。
切り落とされた腕、それがレオンに食われていくのを見ながら何となくゲームの本質を理解していく。
肉体そのものを使った陣取り合戦、あるいはチェスね。
たかが左腕一本失っただけ、けれどこれで私のやるべきことはわかった。
「ねぇレオン」
「降参の申し出かな? だとしたらそれは丁重にお断りしようじゃないか」
「いいえ、いい事を教えてあげる。人間というのは非常に弱い生き物なのよ」
「だろうな。そこのギルフォードとて人間の中では強者の部類、しかし私の甘言に乗り悪の道を進んでいる」
「だけどね……弱いから知恵を使い化け物を殺してきた。その一端を見せてあげる」
背中から蔦と翼を展開する。
破壊王シリーズの外套が破損状態となりインベントリに戻され、上半身はサラシのみの姿となりなかなかセクシーなことになっているがまぁいい。
展開した翼、そして蔦をレオンの手足、そして首筋に当てる。
「な、なにを」
「ドレインは触れている間のみ発動可能な魔法。今まではそうとしか思っていなかった。実際説明はそう書いてあるんだからしょうがないわよね」
化けオンの運営は性格が悪い。
そして、同時に人間の知恵と工夫に最大の敬意を持っている。
だからこそ、このゲームにおいて無駄なフレーバーテキストというものは存在しない。
ドレイン、悪魔の持つその能力は魂を喰らうというもの。
だがそれはあくまでも、悪魔のドレインに対するフレーバーテキストであり『ドレイン』という魔法に対するフレーバーテキストは違う。
『ドレイン:触れた相手の力を奪う能力、分類は魔法だがその肉体を用いるため学派では議論が絶えない』
肉体を用いる魔法、それが意味することは何か。
答えはさっきレオンが見せてくれた。
ドレインの吸収量を増やす方法、それは面積。
相手の肉体に触れている範囲が大きければ大きいほど、その効力は増していく。
「フィナーレと行きましょうか……ドレイン!」
「ぐおぉおおぉぉぉぉぉぉおぉ!」
やっぱりだ、さっきまでの吸収量とはけた違いの勢いでその力を喰っている。
けれど……問題はある。
吸収限界、妲己と初めてあった時、そして試練で戦った狐、アレに対してドレインを行ったときにダメージを受けたように今も私の手足、そして顔面のいたるところから血が噴き出している。
限界を超えた吸収量というのは肉体にも影響をもたらす……風船みたいにいずれ私ははじけ飛ぶことになるのかもしれない。
ならね、やることは決まってるでしょ。
「その腕と足、貰うわね」
右ひざをつき、そしてだらりと垂らした左腕。
既に魂が抜けきり使い物にならないのだろう。
ならばルールに基づき喰うのが定め、蔦でそれらを切り落として口に運び、そして蔦を胴体に巻き付ける。
「ま、待て! ここは引き分けでどうだ! 君の望みはかなえよう! 停戦と行こうではないか!」
「あら、それに応じる必要があって?」
「君とて限界だろう! このまま私を食い尽くせば君の肉体も魂も……なに⁉」
「私の肉体と魂が、どうかした?」
先ほどまで噴き出していた血液はきれいさっぱり消え、そして今なお続けているドレインはより強力なものに、だけど私の肉体には何の変調もない。
一種の賭けだったけど、負けたところでレオンが引き分けを持ち掛けるのはある程度分かっていたこと。
今までずっと優位にいたのに、窮地に陥ったらどうなるか……常勝無敗の強者の思考なんて読みやすい物よ。
勝てなくなれば逃げればいいのだからね。
ま、もう少し早いタイミングでもよかったかもしれないわね。
このアナウンスは。
『暴食の悪魔が進化条件を満たしました。暴食の悪魔男爵級に進化します』
『ネクロマンサーが進化条件を満たしました。傀儡使いに進化します』
『夢魔の進化条件を満たしました。ナイトメアに進化します』
『古の吸血姫の進化条件を満たしました。祖の吸血姫に進化します』
まぁぎりぎり、見えてはいたけど細い勝ち筋だったわね。
レオンの魂、そしてその魂が染みついた肉体の一部を取り込むことで種族的な進化が起こるのではないかという賭け。
それに私は勝った。
うれしい誤算で他の種族も進化したみたいだけど、まだまだここからね。
爵位を得た、名実共にというべきなのだけど……それでもまだまだ悪魔としては下っ端。
けれど、ここでレオンを喰い尽くしたらどうなるのかしらね。
「ねぇレオン。私はあなたを殺すメリットがある、けれど生かしておくメリットはない」
「そ……」
「そんな理不尽なとか言いたいのかしら。でもダメよ、敗者はおとなしくその命を差し出しなさい。それが、あなたが今までこの街で敷いてきたルールでしょ?」
レオンの口を蔦で縛り上げ、そしてパワーアップしたドレインにて喰い尽くす。
残ったのは脱力し、焦点の合わない目を泳がせる肉塊。
それが光の粒子になる前に喰い尽くす。
「ふふ、ごちそうさま……」
あー、久しぶりのログインなのにこんな大ごとになるとは思ってなかったわ!
『暴食の悪魔の爵位が上がります。暴食の悪魔大公級になりました、数多くの悪魔があなたの前にひれ伏すでしょう』
『暴食の系譜高位悪魔の特性を取得しました。食した相手の種族を得ることができるようになります』
っと、レオンを食べ尽くしたことで爵位も完全に奪い取ったという事かしら。
いいお土産くれたわね、悪くない敵だったわレオン。
特に特性は便利かもしれないわね。
でも……なんというか枯れ木みたいな味で美味しくなかったわ。
あれどこで食べたんだったかしら……どこかの国の貧しい村で御馳走としてふるまわれたんだっけ。
塩味がかすかにする枯れ木のスープ、味はまぁ言うまでもなくおいしくなかったけど真心こもってて優しく感じたあれと比べると月と鼈、お礼に食糧支援を国連に呼び掛けて動いてもらえてよかったわ。
そういえばレオンの魂、ドレイン以外の方法で食べたら味したのかしら。
まぁしたとしてもおいしくなかったんでしょうからどうでもいいけどね。
誰もが知ってた結末。




