敵情視察
うーん、正面突破の場合問題があるとしたら相手の根城が教会ってところなのよね。
私聖属性対策って邪悪結界しかないから、教会内で見つけられなければアウト。
しかも無関係のNPCと敵対するかもって考えるとおいそれとはね。
なら裏口という事で黒帆船に乗り込むというのもあるんだけど、その場合何かしらの方法でデバフ、ようするにこちらを弱体化させるような何かがあった場合食われるしかない。
相手は地獄の大公というくらいだから格上だと思うんだけど……やっぱり情報を集めるべきね。
まずは教会、の前にご飯のつもりで適当に買い食いしながら散歩してたらたどり着いてしまった。
いや、このタコ丸焼き美味しいわね。
いい噛み応えの奥にどっしりとした味わいがある。
鯛の串焼きもおいしい、塩がヒレにくっついているのとか本当にたまらないわ。
骨まで食べられちゃう。
「あの……教会内への飲食物持ち込みはご遠慮願いたいのですが……」
「あ、そうなんですね。すぐ食べます」
そのまま教会に入ろうとしたら純白衣のシスターさんに怒られた。
とりあえず抱えていた料理全部食べてしまう、この量なら5秒あれば十分だ。
……純白のシスター服って珍しいわね、でも似たようなものは見たことがある。
生贄に着せる白無垢、よく似ているわ。
「お待たせしました」
「いえ……それでどのようなご用件でしょう」
「せっかく港町に来たので魚介類を食べ歩いていたんですよ。そしたら立派な教会があったのでお布施でもしていこうと思いましてね」
「それはそれは」
「あぁ、お祈りの言葉とかあるなら遠慮してもらえるとありがたいです。私は魔の者、そして聖属性に酷く弱いので簡単に死んでしまいますから」
「そうなんですね」
シスターの目が少し揺れた、なるほどねぇ……。
「ふむ、いい教会ね。お布施はこのお盆でいいですか?」
「えぇ、そちらに」
チャリンチャリンといくらかのお金を入れる。
まぁはした金だから大したことはないわ。
「他の教会でも神像は置かれていますが、こちらのは少し趣向が違いますね」
「えぇ、海の守り神を模したものです。この国は見ての通り漁港ですが、遠洋で大物を狙う漁師もいます。そういう者は欠かさずここにお祈りに来るのですよ」
「へぇ、遠洋に出る人って多いんですか?」
「以前はかなりの人が一攫千金を求め遠洋に出ていたんですが、今ではギルフォードさんのブラックシープ号だけです」
「ん? 他の人は?」
「遠洋で命を落とすことは珍しくなく、またここより住みやすい場所を見つけたと帰還して準備を済ませて家族と共に出ていったり、さもなくば行方不明となったのです」
「へぇ、ギルフォードさんというのはそんな命知らずの中でも特に優れているんですね。危険な海で毎回安全に帰ってくるなんて、海の男ならではの秘訣があるのかしら」
「さぁ、けれど大きな損傷を受けて帰ってくることは少ないですね」
「そうですか、せっかくなのでギルフォードさんとお話ししてみたいですね。どこにいるかご存知ですか?」
「今は漁に出ていると思いますが、夜には港にある漁師の宴という酒場でくつろいでいると思いますよ」
漁師の宴ね、覚えたわ。
それにしてもいい名前ね、美味しいご飯が出てきそうだ。
「そこって海鮮料理とか出してます?」
「え? えぇ、まぁ漁師が各々とれた魚を市に流して余りはそこに持ち込むのが恒例となっていますから」
「そう、よそ者だけどお金払えばおこぼれにあずかれるかしら」
「皆さん気のいい人ですから大丈夫だと思いますよ。あぁ、でも女性の方はちょっと気を付けたほうがいいかもしれませんね。お尻を撫でられるくらいの覚悟はしておくべきでしょう」
「ははは、それなら平気ですね。せっかくなのでお土産も買っていくとします。さっき食べ歩きしているときに酒屋を見つけたのでね」
「それは喜ばれるでしょう。ギルフォードさん一行は皆さんお酒が大好きですから」
笑顔で返され、そして内心で疑惑を固めた私は作り笑顔のまま外に出た。
いやぁ……想像以上に腐ってたわ。
あのシスターさんも共犯ねきっと、視線の動きとか身体をわずかに揺らす動作は動揺と期待の表れ。
その兆候が強かったのは私が弱点を明かした時と、神像について聞いたとき、そして遠洋漁をしなくなった人たちの話を聞いたとき。
どんな理由があったにせよ、まぁ大体わかるわ。
さてさて……今回は援軍を望めない。
私が生きているというのは公には隠しておく情報だからね、そうなると国内の知人に連絡を取るのは不可能。
となると一人で全部やらなきゃいけないんだけど、その場合必要なのは準備なのよね……。
さて、とりあえずしばらく街をうろついてお酒を買っておきますか。
シスターの前であんなこと言った以上、そうしないと不自然だからね。
こっそりついてきている人や人混みからこっちを確認してる人に行動を見せつけておかないと。
なお刹那さんの尻を撫でようとする勇者はほとんどいない。
辰兄さんかユピテルさんくらいなもんですよ。




