暇を持て余した神々の遊び
とりあえずできる事はやった。
縁ちゃんを護衛につければ祥子さんの無事は確実、むしろ犯人に同情するレベルだわ。
とはいえまだ予断を許さない状況……こういう時は内側から引っ掻き回してもらいましょうか。
みんなが寝静まった夜、窓から空を見ながらフレンズたちにメールを一斉送信。
『助けて:最近いろんな国のスパイとかが日本の公安と、ゲーム運営と、その仲介役やってる私達にちょっかい出してきて面倒なの。そちらでできる事あったら手を貸してほしいわ。お礼は各々好きなものを要求してね』
はい、こんな感じの内容。
とーてつさんとか、フレイヤさんとか、ガウタマさん。
それに他の国にもいる知り合いたちは国内ではそれなりに有力らしいからね、いざという時に物を言うのは人脈なのよ。
「さてと……寝るとしますか、っておんや?」
ピコンピコンと次々メールがとんでくる。
そしてかかってくる電話。
「はい伊皿木です」
「おー刹那、饕餮だ」
「あ、とーてつさん。こんばんは、火鍋美味しかったそうですね。私も食べたかったなぁ」
「今度こっち来たら奢ってやるよ。それよりメール見たぞ、明日にはうちの若いの連れて抗議行ってくるからよ、1日だけ耐えてくれや」
「急がないでもいい、と言いたいところなんですが正直人命がかかっているのでお願いします。ただそうですね……私だけを狙うなら別にいいですよ。返り討ちです」
「はっはっ、流石刹那だ。俺が見込んだ女だけあるぜ! OK、お前だけは狙ってもいいとなればこっちも交渉がやりやすくなる。他の面子に関して安全は保障してやるぜ」
「はい、ありがとうございます!」
うんうん、とーてつさんはやっぱり話が分かる人だなぁ。
たまにかみ合わないときあるけど些細な問題よね。
「っと、キャッチが入りました。また今度ゆっくりお話ししましょう」
「おう、じゃあな」
っと、お次は誰かしら……あぁロシアで知り合ったゾリャーさん。
「もしもし刹那? 今ホルスといるんだけどどういう事?」
「どういうこととは……? 文字通り面倒事に巻き込まれてまして……」
「ちょいと変わってくれよゾリャー、ごめんねホルスだよ。こっちで調べた限り、うん、いくつかそっちにスパイ送り込んだ記録があるね。いくつかの国を経由してパスポートの偽装にと入念だ。なかなかどうして本気みたいだね」
「どうにかなりませんかね……」
「当事者のデータは消されてるけどこのくらいなら……っと、復元完了。そっちのPCにデータ送ったから要注意人物リストにでも加えておくといいよ。ごめんね、僕らにできる事はこのくらいしかなくてさ」
「いえいえ、国のPCにハッキングかけてばれないとか本当に凄いですよ」
「そりゃね、僕は太陽のごとく全てを照らす存在だから」
「このお礼はボルシチとウォッカどっちがいいですか?」
「うん、僕はボルシチ。ゾリャーはウォッカだって、今度こっちに来た時はゆっくり話そうか」
「はい。いろいろありがとうございます」
ふむ、あのお二人は元気そうね。
ゾリャーさんはオーロラみたいに透き通った髪が奇麗な人でとにかく優しい。
優しいんだけど、なんか蜃気楼みたいに掴みどころのない人だから今日みたいに慌ててるのは珍しいわね。
対してホルスさんは……なんだろ、テンショーさんと雰囲気が似てる。
もうちょっとオープンな感じではあるんだけど、根幹が同じというかなんというか……。
二人ともロシアに住んでいるからなかなか連絡する機会無いのよね。
そういえばテンショーさんやホルスさんと同じような気配持ってる人と言えば何人かいたわね。
全員朗らかで太陽みたいに温かいイメージだけど……。
おっと、新しい電話。
「もしもし」
「あー、ユピテルだ。久しぶり」
「お久しぶりですねユピテルさん」
ローマ辺りに住んでる友人ユピテルさん。
初対面で口説かれたのはいい思い出なんだけど、辰兄さんと雰囲気が似てたから思わずビンタしちゃったのよね。
でもそれが原因で逆に仲良くなったから人生どう進むかわからないものだわ。
「メールを見たよ。大変だったね、僕の胸で慰めてあげようか」
「遠慮します。もっとふかふかでふにふにで柔らかいお胸様に慰められているので」
祥子さんに勝てると思うなよ。
「それは残念、しかし今回の一件うちで調べた中でも結構な国が動いていたよ。何をどうしたらそうなるんだい?」
「あー、話せば長くなりますが……」
「ピロートークと思えばなんてことないさ」
「切っていいですか?」
「……すまない、続けてくれ」
事の顛末を説明、まぁ要所要所でフェイクは入れてある。
さすがに公安内部の話とかそういうのは出せないからね。
「なるほど、それであのメール……わかった、この辺りは任せてくれ。ギリシャにローマ、だいたいはなんとかしてみせよう」
「心強いです」
ユピテルさんはねぇ……女癖は悪いけれどこういう時は役に立つのよ。
有事の際は真っ先に駆けつけてくれるし、手伝いもしてくれる。
実際ローマやギリシャに行くたびに住居とか用意してくれるからね。
なおその住居に泊まると高確率で夜這い仕掛けてくるからベッドの下で寝てるけど。
「なぁに、この程度のことどうという事はないさ。どうしてもお礼がしたいというのであれば熱い一晩を共に……」
ぷつっと電話を切る。
よしよし、この調子でみんなが動いてくれたら案外すぐに混乱もおさまるかもしれないわね。
来月には近くで新しいお店がオープンするんだから、それまでには自由に歩けるようになっておかないと!
真っ先に動くのは仲のいい神様達人外。




