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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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家具集め

 お昼ご飯は外で食べる事にして先にうずめさんの家具を見繕うことになった。

 クリスちゃんもついて来ればよかったんだけど、今日は一日寝ていたいとのこと。

 どれだけ夜更かししてたのかしら……。


「おっほぉ! せっちんせっちん! 見てよいろんな家具がある!」


「そりゃありますよ……」


 うずめさんはねぇ……悪い人じゃないんだけど、こう世間ずれしているというか、どんなものにも新鮮な反応をする。

 よく言うなら感受性豊か、悪く言うなら世間知らずかしら。


「それで、うずめさんは欲しい家具とか無いんですか?」


「ないよー」


「……とりあえず一般的なものとして箪笥と机、カーペットにカーテン、それから化粧台にVOTとベッドですかね」


「えー、ベッドはいらないんじゃないかな。床で十分眠れるから!」


「却下です」


「ほら、あのVOTって言うのでも眠れるじゃない」


「VOTで寝るときつけ薬が噴霧されて自動的に起こされますよ。エコノミー症候群防止の機能はついてますが、中で眠って風邪ひいたって話が多いのでそんな機能が付きました」


「はえー、最近の機械は何かと便利ね。じゃあその機能を外したらいいんじゃないかしら」


「それやると警報鳴って警察が駆けつけるようになってます。以前それを利用した拉致事件があったので」


 VOTってある種強制睡眠状態に持っていく装置だからね。

 拉致した人を時間制限とログアウト機能、それと噴霧機能を取り外して休眠状態にして国外に運び出すって事件。

 まぁ最悪の事態は免れてぎりぎり日本の国際水域内で拿捕出来たからみんな無事だったけど。

 なんであの時私は同伴ジャーナリストとして推薦されたのか、そしてなぜ突入部隊にさせられたのかいまだにわからないわ。


「日々手口も進歩していく、いやぁ人間の悪知恵にはいつも驚かされるわ!」


「なに人外みたいなこと言ってるんですか……いいから選びますよ、ほら」


「はーい、といってもあたしは家具にこだわりないんだけどなぁ……」


 と、そんなことを言っていたうずめさんだが家具選びを始めたらとたんに真剣になった。

 その眼はまるで鑑識か鑑定か、品の良しあしを調べるかのように細かいところまでチェックしている。


「この桐箪笥……作りが甘いわね。というかこれ桐じゃなくて樫じゃない。これで100万とかぼったくりもいいところ」


「ちょっと……」


「こっちの化粧台もなにこれ、木製とか嘘じゃん。金属の芯が入っているし周りの木はおがくずを固めたもの? 50万の価値なんかないね」


「うずめさん……」


「このベッドだってそうよ。高級スプリング? 素材の厳選? 嘘っぱちもいいところ、ただのバネだし素材に至っては粗悪品ね。80万どころか8万だって買わないわよ」


「もうその辺で……」


「このカーペットだって人工繊維、本物に似せる努力は認めるけれど本物を騙る偽物に用はないわ」


「でないと……」


「お客様、ちょっとこちらへ」


 うずめさんの目は確かだ。

 いくつかは私でも見抜けるくらい雑な作りになっていたけど、あくまでそれは展示品の話。

 本物をうたうなら送ってくる商品はそれなりにちゃんとしたもの……だと思うんだけどね、本来なら展示品も本物の方がいいとは思うわ。

 商品掲示法だっけ、あのへんに触れそうだし。

 だけどそれを大々的に声にするのははばかられる。

 実際こうして私達はデパートから追い出されてしまったわけだし。


「なによもう、あんな粗悪品ばっかり置いてる方が悪いんじゃない!」


「展示品ですから……」


「だとしても、あれであんな金額吹っかけてくる方が悪いと思わない?」


「それは……まぁ。でも困りましたね、この辺りに家具屋さんは他にないんですけど」


「じゃあさ、せっちんの実家からいらないの貰えない? 前にそういう曰くつきのものため込んでる蔵があるって言ってたじゃん!」


「うずめさんがいいならまぁ……でもお父さんたちがなんて言うか……」


「そこはこのうずめさんにまっかせなさーい!」


 どんっと胸を叩く。

 ……正しくはぷるんという擬音が聞こえてきそうだけどまぁいいか。

 レンタカーで軽トラを借りて実家に向かい、道中で一度車を止めてご飯を食べる。

 久しぶりに来たわね立川……ここは美味しいラーメン屋さんがいっぱいあるのよ。

 そういえばガウタマさんもここに別荘があるって言ってたっけ。

 別荘と言っても日本に来たとき滞在するアパートの一室らしいけど。

 あとはたまに爆発事故が起こったり、雷がぴかぴかするちょっと物騒な町。

 でもそれを除けば結構いいところなのよね。


「そういえばこの街にも家具取り扱ってるお店有りますけどどうします? うずめさんが気に入るものがあるかはわかりませんけど」


「うーん、見るだけ見ていく?」


「じゃあちょろっと行きますか」


 これが間違いだった……。

 最初に行ったのは高級な家具屋さんだったんだけど、うずめさんはなんとここで運命の出会いを果たす。


「せっちん! これ最高! りーずなぶるあーんど、えれがんと!」


 もうね、口調が子供じみてきている。


「気に入ったんですね、い草ベッド」


「安くて畳で最高じゃない!」


「そうですか。あ、支払いカードで。はい、一括で払います。持って帰るんで」


「いやぁ、さいっこうね! やっぱり日本人たるもの畳じゃなきゃ!」


「私はそういうのよくわからないです。今までの生活で畳が無くて困ったことってないんで」


「ほー、じゃあ道中あたしのあたしによるあたしのための畳談義をしてあげようじゃない! 例えばほらこれ! い草スリッパ! フローリングの上を歩いても畳の感触が足の裏にくるの! もう最高じゃない! せっちんたちのぶんも買ってあるからぜひ使ってね!」


「はあ……まぁ買ったなら使いますが、それ国家予算、血税から出ているってこと忘れないでくださいね」


 出かける前に祥子さんから連絡があって、うずめさんの家具は全部公安の予算から降りることになった。

 上限はないというなんとも太っ腹な話、だから高級家具屋さんに行ったのにあのざまです。


「というわけで畳は最高なのよ!」


「あ、聞いてませんでした。それよりもうすぐうちですよ」


「おぉ、せっちんの実家! んー、いいわぁこの空気。昔を思い出す!」


「昔って……うずめさんそんな歳じゃないでしょう」


「ふっ、いい女ってのは秘密が多いのよ」


「はいはい」


 車を家の門をくぐったところに止めてインターホンを鳴らそうとした瞬間だった。

 中からどたどたという慌ただしい足音と共にお爺ちゃんたちと、お父さんと、そして刀君が出てきた。


「お、おまっ!」


「刹姉!」


「刹那!」


「このばっかもん!」


 おぉう、帰るや否や罵倒の嵐……びっくりするわ。


「よ、ようこそいらっしゃいました……本日はどのようなご用件でしょう」


 お父さんがうずめさんにかなり下手に出ている。

 お爺ちゃん二人も地面に膝をついているし、あの粗暴な刀君もおとなしく跪いている。

 珍しい光景……。


「あぁもっと楽にしてくださいな。あたしゃせっちんのお友達なんですよぉ。そんでせっちんと同居することになったんすけどねー家具をそろえなきゃってなった時に気に入ったものがなかったんでせっちんのご実家で眠ってるっていう家具をいくつか貰おうかと思ったんすよ」


 けらけらと楽しそうに笑ううずめさん。

 お父さんたちはというと冷や汗をだらだら流している。

 まぁうちにある家具って全部曰くつきだからね。


「というわけでお父さん。7番の蔵に行きたいんだけどいい?」


「ダメと言えるわけないだろ!」


「そ、そうなの?」


「お、おまっ、この方を誰と!」


「はいはーい、そういうの無しでおなしゃーす! あたしはせっちんの友人、それ以上でもそれ以下でもないのよ。あたし個人になるとダンサーとか武闘家って肩書がついてくるけどね」


 あ、そうか。

 刀君がおとなしいのは名だたる武闘家のうずめさんを知っているからか。

 本人は習う方面ではそんなに熱心じゃなかったけど、見るのは好きだから。


「……蔵の鍵だ、持っていけ」


「はーい……ってあれ? これ全部の蔵のマスターキーじゃない?」


「そのお方ならどの蔵に保管されてるものでも問題ないだろう。好きなものを選んでもらいなさい」


「わかった」


 たまにいるのよね、霊的な影響を一切受けない人って。

 そういう人はとんでもない呪いの塊みたいな家具であろうと、何の変調もなく使える。

 うちの人間もそういうのが多いけど気味が悪いからあまり使いたくはないわね。

 と言っても私の部屋は全部呪われた物品ばかりだけど。


「おぉ、美しいお嬢さん。どうでしょう、今夜は俺と軽くハネムーンでも」


 ……油断してた!

 お父さんたちがこれだけ騒いでコレが出てこないわけがなかった。

 いつの間にかお父さんたちよりも前で膝をついてうずめさんの手の甲にキスをしている色情魔!


「辰兄さん! ステイ!」


「なにを言う我が妹よ、美しい女性は口説かなければいけないだろう。人であるかどうかは二の次だ」


「久しぶりの熱烈なアタックにお姉さんノリノリになってきちゃった!」

 くっ……この空間すごく面倒くさい!


「刀君!」


「あいさ!」


 お父さんが辰兄さんの首根っこを掴み立たせ、そこに向かって私と刀君が前後からラリアットをくらわせる。

 必殺の一撃! 鬼の力も使って文字通り全力で、殺す気でやった!


「ぐふっ……ふっ、愛は障害が多いほど燃えるものさ」


「なんだこの燃えるゴミ!」


「相変わらず人並み外れて頑丈な……」


「ここは父さんたちに任せて先に行け!」


「うずめさんこっちです!」


 よし、とりあえず辰兄さんは抑えた。

 うずめさんは指をくわえて名残惜しそうに見ているけど、あれはだめ。

 この家で一番厄介な物体だから。

 呪いなんてあれに比べたら可愛いものよ。


「まったく……さて、じゃあ1番の蔵から順番に見ていきますか」


「はいはーい、なかなか昂る空気だねぇ」


「一般人なら即死級の呪いが閉じ込められてますからね。うずめさんはそういうの平気な人でしょ?」


「もちっ! このくらいなら全然よゆーよ!」


 そう言って蔵の中にあるものを物色し始めたうずめさん。

 まぁ家で一番厄介なものというトラブルこそ起こったものの、うずめさんが気に入る家具はそろった。

 まず化粧台は遊郭で使われていたもの、鉛を使った白粉による毒で身体を崩し死に至ったという物品。

 どうにもその白粉を送った客がたちの悪い人で花魁が人気なのが気に食わなくて蹴落としてやろうと考えていたみたいで、その真実を死後に知ったことから呪いの化粧台となったとか。

 その怨念は長い時間をかけてどんどん強くなっていて、ここに入れられた時には触れただけで死ぬとか言われてたらしい。

 当時の当主が頑張ったらしいけど、その後熱が出て大変だったと記録が残ってる。

 まぁその当主は長生きして、20を超える子供が生まれて分家が増える原因になったという話だけどね。


 それから桐箪笥は嫁入り道具にと持たされた先で酷い仕打ちを受けて殺された人の怨念がびっしりとこびりついた一品。

 細かな装飾なども含めて素晴らしい品ではあるんだけど、最終的に嫁ぎ先の家を潰すくらいには猛威を振るった怨念だからね、並大抵じゃどうにもならないわ。


 カーペットは神獣や妖怪と崇め恐れられた獣の毛皮を縫い合わせて作ったもの。

 なんと毎夜元の姿に戻っては家を荒らすとかで、随分命知らずがいたものだなぁと思わせてくれたわ。

 カーテンは普通にお古、お母さんが買ってきたはいいけど家の景観に合わないからと鮮やかな薄紅色の物を用意してくれた。


「いやぁ、いい物がいっぱいだねぇせっちんのご実家! またいきたいなぁ! まだ見てない蔵の中とか見たかった!」


「とかいって、いらないものも貰ってきてますよね」


「この壺気に入っちゃってさ! ほら、見てよこれ。中を覗き込むと深淵みたいに真っ暗! だけど手を伸ばしてもなにもつかめない! うーん、地獄にでも繋がってるのかな!」


「出入口ならいいですけど、地獄を顕現させるのはやめてくださいよ」


 冗談めかして言うけど、うずめさんが一瞬真顔になる。


「だめ?」


「だめです」


 本当にただの冗談なのに……なんでこの人が言うとこんなに不安になるんだろう。


「あのぬいぐるみとか人形はどうするんですか?」


「え、一緒に寝る」


「止めませんけど、祥子さん怖いの苦手だから部屋から出さないでくださいね」


「わかった! その代わりまた今度時間ある時に連れてきてね!」


「しょうがないですね。時間があればですよ」


 そんなことを話しながら家に家具を持って帰り、二人には近所で夕飯を済ませるようにといくらかお金を渡してからレンタカーを返しに車を走らせた。

 そして外で夕食を食べてから、家に帰ると家具の設置は済んでいたのだった。

 ……い草スリッパ、結構いいわね。

しばらくリアルサイドの話が続きます。

井草スリッパはいいぞ、最高だ。

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― 新着の感想 ―
主人公はなんでこう無頓着なのか…… というか部屋から呪い溢れない?それ
逆に床で寝させてたのか
[一言] >そういえばガウタマさんもここに別荘があるって言ってたっけ。 >別荘と言っても日本に来たとき滞在するアパートの一室らしいけど。 (感想欄をざっと見てから)  誰も触れねぇ……!!  ロ…
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