入局
「本日から国家公安局異常災害対策部でお世話になることになりました。伊皿木刹那です。よろしくお願いします」
訝し気にこちらを見てくる人たちを尻目に頭を下げながら、祥子さんに視線を向ける。
まばらな拍手がなんとも虚しい……。
「えー、部長の葉山だ。こんな時期の入局という事だが実力は本物……でいいんだよな」
「えぇ、B8案件は任せてもいいでしょう。G案件になってくると本人が渦中にいるから余計な波風立てそうなのでちょっと怪しいですけどね」
「そうか……あー、一応伝えておくと伊皿木君は入局試験でなかなかの点数だった。実技に関してはトップクラスと言ってもいい。だがまだ新人、忙しい時期だがみんなフォローしてやってくれ」
「よろしくお願いします」
部長の葉山さんと祥子さんの援護を受けてもう一度頭を下げると今度はよろしくーなどの気の抜けた声が響く。
まぁ国の中枢と言っても常に気を張っているわけじゃないでしょうしね。
リラックスできるときはとことん、というのは戦場で教わった。
「それじゃあ早速だけどB8案件の方をお願いしたいんだけど、三根君。説明を頼めるかな」
「もとよりそのつもりでしたよ。というわけでせっちゃん、業務説明をするわね」
「はい」
「まずB8案件っていうのは化けオン運営の作ったとんでもシリーズの書類を駐屯地からここまで運搬するお仕事なの。まぁ言ってしまえばそれだけなんだけど、行くときは場所を漏らさないために特注の車で行ってもらうわ」
「特注? 目立ちませんか?」
「大丈夫、自衛隊車両と同型にしてあるから。それにこの車は普段は補給にも使うのよ。うちから直行直帰だとばれるからいくつかの駐屯地を周って、車を乗り継いで帰ってくることになるわ。最後はタクシーだから領収書は忘れずにね」
「ほうほう……念入りですね」
「まぁ色々あってね、規則で厳しく律してるのよ」
「ちなみにB8って名前の理由は何です?」
「え、化けオン運営の問題が頭文字Bの888番目だったから。ちなみに過去の887件のうち800件は解決済み、88番と8番は真っ先にね」
「はぁ……え? じゃあ他のアルファベットもそういう感じなんですか?」
「そうよ。そっち方面を担当してもらうのはまだまだ先になると思うけど、触りくらいは覚えておいてもいいかもしれないわね。まだ時間があるし簡単に説明するわ」
そう言って祥子さんはPCを操作し始めた。
「まずA案件、主に動物関係の問題が多いかな。あくまで多いってだけでそれだけじゃないんだけどAは基本的に私達が出る幕はないわね。猟友会に連絡入れて、必要なら自衛隊動員して、監視して終わりという事がほとんど。ただ部署では一番貯めこんじゃってる仕事でもあるのよ」
「なんでです?」
「外来種、I案件と被るんだけどそっちは虫メインね。とにかく生態系狂わせるくせに今更駆除するともっと生態系狂う。だから静観して土着になるまで待つしかないけれど、せいぜいが捕食されそうな動植物の保護を主体としているわ。気の長い仕事だと思ってちょうだい」
「外来種……イノシシが沖縄に出たとかそういう話も含んでたりします?」
「どころか都内でイノシシが出ただけでもA案件になるわ。うちは災害対策部という御大層な名前付いているけれど、言っちゃえば雑用係だから。ここほぼ資料室よ、大体は本職が引き受けるから窓口くらいの意味しかないわ」
「うおっほん」
おぉ、葉山部長の咳払いで祥子さんが頬をひきつらせた。
これちょっとイラっとした時の祥子さんだ。
「B案件はまぁほとんど解決してるから次に行くけど……」
そんなこんなで祥子さんの説明が進んでいった。
途中G案件というのを見た時はなんか慌てた様子で隠してたけど、直後に出てきた幽霊騒動の話を見てぷるぷる震え始めたのは可愛かった……。
あとゴキブリ案件が出てきたときは飛びのいてたわね。
昆虫食の一環でどこかで食べたけれど……どこだったかしら。
まぁいいわ。
最終的にZ案件まで全部教えてもらって、新人がこなす雑務とかも教わった。
「あの……主任、伊皿木さん、いいですか?」
「え、あ、はい」
「どうしたの由美ちゃん」
由美さんというのか、くりくりした瞳がかわいらしい女性だ。
身長も祥子さんより低い……けどおっぱい大きいなこの人。
「えっと、B8案件に行くんですよね……良ければこれを」
「これは?」
差し出されたのはハート形のシールみたいなもの。
なにかしらこれ、食べられるの?
「ニップレスです……遮光性の高い素材で作った特注品です」
「ニップレス……あぁ! なんかアダルトなサイトで乳首隠してる奴!」
「うおっほん、うおっほん!」
おおっと、葉山部長お怒りのご様子。
まぁセクハラになっちゃうからね、大声で言う事じゃなかったわ。
反省。
「これをどうしろと……食べればいいんですか?」
食べられないこともないけど無機物は美味しくないのよね……。
「いえ、そうじゃなくて……」
「せっちゃんせっちゃん」
お? 祥子さんがお呼びだ。
近くにいるけど小声で呼びかけたという事は耳打ちかしら。
「以前話した乳首から光を発したのこの子なのよ」
「あ、ちくびーむの人だったんですね!」
「ち、ちく……」
「っと、ごめんなさいつい。祥子さんから聞いていたんですが運営の悪さリストに書く時長いタイトルはちょっとと思って……」
「いえ……ともかく備えあれば憂いなしです。いざという時のために持って行ってください」
「ありがとうございます由美さん。とりあえず運営一発くらい殴っておきますか?」
「だ、だめですよ! 相手のご厚意で今の状況を受け入れてくださっているんですから……」
気が弱い人なのね、もうちょっとどっしり構えててもいいと思うんだけどな。
でもそうね、殴るのはちょっと問題……なら迂遠にぎゃふんと言わせる方法はないかしら。
……ダメね、私じゃ思いつかない。
まぁ正々堂々と正面から挑むことにしますか!
デリカシーどこに置いてきた成人女性!
次回予告
刹那「ぐはっ……これは……」
運営「ふっ、我々が丹精込めて作った薬だ。堪能してもらえたかね?」
刹那「おのれ……こうなっては致し方ない。私は人間をやめるぞジョジョぉ!」
運営「馬鹿な……人間が生身でビームを撃つだと⁉」
次回、刹那人間卒業
お楽しみに。




