反省会?セクハラ会?
「申し開きがあるならば聞こう」
「いえ……その……ありません……」
イベント終了直後、私は砦の広場で正座をさせられていた。
あのね、このイベントって終了後も1時間はその場にとどまれるらしいの。
次のバトルに備えてマッピングしたり、反省会したり、祝勝会したりってね。
で、今回は私の裁判です。
「予定通りであれば君に続いて2位だったトッププロの司馬氏を倒したことでポイントはこちらに傾いた。テンショーは引きこもり、ユグドラシルとNYR48も同様にライブに熱中してポイント変動はなかった。君が倒したクリスという少女の分も合わせれば僅差ではあるが勝てていただろう」
「そうですね」
「じゃあなんで負けた?」
クリスちゃんにではなく、個人であればクリスちゃんより弱いであろう祥子さんに負けたことを責められている。
うん、なんで負けたんだろう。
「えーと、強いて言うなら包容力と母性と油断でしょうか」
「よし、釜茹でにしろ」
「待ってください! それ私も食べていいんですよね!」
「……君は自分が処刑されても食い気は消さないんだな」
「自分のコピーの血は吸いましたけど肉とかはまだ食べていないんですよ! 気になる!」
「……前言撤回、ギロチンだ」
「あ、首から流れた血は回収お願いしますね。あとで飲むので」
「……火あぶり」
「ウェルダンですか、それもいいですね」
「聖水かけとけ」
「うぼあぁ……」
くっ、まさか肉体が残らずに、仮に残ったとしても食べるのが命がけになる方法を選んで処刑とは……なんと抜け目のない!
「さて、今回の戦犯だが……君がドンケツだ。その罰ゲームはなんだろうな」
「え? スリーサイズくらいなら別に公開してもいいですよ。バスト81、ウエスト59、ヒップ83です。体重は52㎏、身長が168cmなので平均体重より軽いですね」
「いや……臆面もなく公開されても罰ゲームの意味が……まぁいいか。他に聞きたいことあるやつ、前へ出ろ。チーム内ポイントランキング順に10位まで質問を許可する。ただし常識とマナーの範囲でな」
「彼氏いますか!」
「いません、お仕事同様フリーです」
「あの、女同士の恋ってどう思います?」
「いいんじゃないですか?」
「どうやったら胸大きくなりますか?」
「たくさん食べましょう」
「弟さんを紹介してください!」
「彼女いるそうなのでお断りします」
「好きな食べ物は何ですか?」
「何でも好きですけど……あぁ、カエンタケは美味しいですね。よく拾ってきて調理してました」
「本当に人間ですか?」
「少なくとも99%以上は人間ですよ」
「今日の下着の色を教えてください!」
「下着……えーとたしかブラは黄色でショーツは水色だったかな」
「男性経験は!」
「ないですねぇ。あ、同衾って言うんですか? 一緒の布団で寝たことはありますけど翌日歯型まみれの相手に一生同じ部屋で寝ないといわれました」
「今までで一番やばかった経験ってなんです?」
「んー、死にかけたことは多いけどやばかった経験と言われてピンとくるものはないですね……。あ、エベレストを横断した時は食料が尽きて大変でした。アメリカの特番でやったビキニとビーチサンダルでエベレスト横断企画は辛かったです」
「ねぇ、本当に人間なんですか?」
「だから本当に人間ですって、たぶん」
よし、これで10個ね。
セクハラまがいの質問もあったけどまぁこの程度なら辰兄さんのあれこれに比べたらまし。
ただし顔と名前は覚えたぞお前ら……。
「それより足しびれてきました」
「ならあと残りの30分そうしていろ。ルリ、石積んでおけ」
「はいギルマス」
「それとロードラン」
「なんすか」
「お前も隣で正座しておけ。セクハラ質問したお前らもだ」
「なんでっすか⁉」
「散々迷惑かけて、テンショー氏にセクハラまがいの質問浴びせ続けたそうじゃないか。マナーとして見過ごせん。その光景を動画で全国配信だ。我がギルドは責任をもって罰したと世間に報じる」
「逃げたらどうなります……?」
「あそこに油で満たされた釜があるだろ?」
「あ、おとなしく座っておくっす」
隣にナマモノが腰を下ろした。
ついでに何人かの男性たちも。
ふむ……何か悪戯できないかしら。
これでも結構怒ってるのよ、このナマモノには……セクハラ質問は一時期行動を共にしていた某国の軍隊ではあいさつみたいなものだったからいいんだけどね。
「いやぁ、まぁお仕置きとはいえ美人さんの隣に座れるというのも役得っすかねぇ! 日頃の行いってやっぱいいもんだなぁ!」
「すみません、これに油をかけてください」
「よーしお前ら、ロードランの頭から油かけろ」
「すんませんっした!」
正座から土下座への移行。
なかなか見事な動きね。
しかし……暇ねぇ。
「あれ、反省会中だった? というかなんでせ……フィリアさん正座してるの?」
そんな声がこの地獄のような時間を遮った。
突如として現れたのはクリスちゃんだった。
後ろには司馬さんと祥子さんもいる。
「司馬さんにクリスちゃん、ミカさんも。なにしてるんですか?」
「貴様……よくもぬけぬけと! あのような戦士を愚弄するような真似を指示しておいてよくも!」
「愚弄? それに翻弄された人が悪いんですよ。そのうえ頭に血が上って致死罠にドボン、油断大敵ですよ」
指揮官さんのお前が言うなという視線が突き刺さるけど無視。
「戦いなら使える手段は何でも使う。愚弄? むしろ全てを出し切らないことこそ愚弄じゃないですか? 弱者の知恵が牙を折った、それだけのことですよ? その牙が本物なら罠もろとも食い破ればよかったのに……あ、できないから負けてるんですね。ごめんなさいねぇ、強くって」
お前が強いわけじゃないだろうという視線が降り注ぐけど無視。
司馬さんは煽っておけば大体何とかなる人だから。
「おのれ……」
「あぁ別にここで戦闘しても構いませんが、私は無防備に棒立ちですよ。そんな憂さ晴らしに付き合うつもりないですし」
「くっ……」
「それよりも出し抜かれてどんな気分ですか? ねぇ今どんな気持ち?」
「表に出ろ」
「お断りします」
しばし睨み合い、のちにもういいやと言った様子で司馬さんがため息をついてその場に腰を下ろした。
「卑劣なやり方とはいえ貴殿らの知恵は確かに俺を打倒した。その手腕、称賛に値する」
「おほめ頂き恐悦です、トッププロ司馬殿。私はこの砦の指揮官をしていたエディというものです。良ければ感想戦などいかがでしょう」
「ほう、貴殿が指揮官か。面白そうだ、ぜひ語り明かそうではないか」
おぉ、なんか司馬さんといい感じにコミュニケーション取れてる。
というか指揮官さんエディさんって名前なんだ、知らなかったわ。
「フィリアさん、次は負けませんよ」
おっと、今度はクリスちゃんか。
突き出された拳にこちらも拳を当てる。
「次は勘弁してほしいけどね……それでもやるなら勝つつもりでやるからね!」
「手を抜いたら……そうですね、私ご飯作るのやめます。お菓子も作りませんよ、ワッフルとかスコーンとか」
「本気でやらせていただきます!」
クリスちゃんの手作りお菓子美味しいのよ……。
サクサクだったりふわふわだったり甘々だったりで……和食の祥子さん、洋菓子のクリスちゃんといった組み合わせね。
最強の2人だと思うわ。
ちなみに禁止こそされているけれど私は一応和洋中全部作れる。
お菓子も作れるけどさんぷーちんっていう中国のお菓子がすごくおいしいのよね。
まぁ作るの手間なんだけど、それでも何とかなるから。
あれは包丁使わないし祥子さん監修のもと作ってもいいか聞いてみようかしら……。
「あ、そういえばミカさん。よくあんな方法知ってましたね。私も忘れてたんですけど……」
祝福を込めた言葉、つまり聖属性の祈りの言葉ね。
天使だからそのくらいは魔法の応用でできるのかもしれないけれど、NPCでもない限りただの祝福に意味はない。
聖属性なんてこもっていないし、言われたところであいさつ程度だ。
「ブログ見ていざという時のために対策をね。無駄にならなくてよかったわ……とはいえ聖属性を言葉に込めるなんて成功したのは初めてなんだけどね」
「ぶっつけ本番ですか……度胸ですね」
「まぁね、他に逆転の手段が思いつかなかったのよ」
「あー、ダメもとってやつですか。だとしても成功させたのだからミカさんの勝利ですよ」
「そうね。お祝いに今夜はゴージャスなカレーにするわよ!」
「残念会も含めて、ですよ。あ、私王者盛でお願いしますね」
「はいはい、山のようにしてあげるから楽しみにしていなさい」
「やった! ……ちなみに赤砦なんですけど、どうなってます?」
「みんなログアウトしたわ。逃げるような様子だったけど、何かそんなに恐ろしいものでも見たのかしら」
逃げるように……恐ろしい物……あぁ、うん。
「ミカさんが大暴れして、みんなミカさんには絶対服従状態だったんですよ。それで砦で待つように言ってきた司馬さんの言葉にも反発が出た時、鶴の一声と言った感じでその場を収めて……勝ったとわかるとさっさと逃げていきました」
耳元でクリスちゃんが教えてくれる。
大体予想通りだわ……本気で怒った祥子さんのことだから赤砦を鮮血砦に変えたんじゃないかしらね……。
「まぁ邪魔なのがいなくてよかったですよ。砦壊すときも文句言ってきたし、いても役に立たない人ばかりだったし、とにかく邪魔でした」
「あー、うん。なんとなくわかるわ。ちなみにお願いしていたものはどう?」
「はい、赤砦録画映像はちゃんと撮れてますよ。代わりにケーキバイキング連れて行ってくれるんでしたっけ」
「ケーキだけじゃなくてラーメン食べ歩きも込みでね。たっぷり食べましょう!」
「……ほどほどにしておきましょうね」
お腹周りをさするクリスちゃんはそんな風に苦笑いをしていた。
なんで……?




