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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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勝敗の行方

「くっ!」


 残り時間約10分、クリスちゃん&祥子さんのコンビに私は苦戦を強いられていた。

 むしろよくここまで持ちこたえたというべきよ……。

 物理攻撃は全部クリスちゃんに防がれて、ダメもとで使った狐火は祥子さんが発動と同時に消火。

 あの人いつの間に聖属性以外の魔法覚えたのかしら……化けオンは怖いから一人じゃやりたくないって言ってたのに。

 というかその精度が恐るべきものなのよね。

 九尾になった今の私が使う狐火は一般プレイヤーが使う最上級の炎属性魔法に匹敵する威力。

 その反動で私のHP的なものは体感でしかないけれど7割くらい持っていかれる。

 それを射出する前に、出現した瞬間魔法のコアともいうべき部分を的確にぶち抜いてくるのよ。

 ゲーム的に言うならMPを注いで魔法を創り出した起点ともいうべきポイント、ここを魔法で攻撃されると簡単に消滅する。


 それこそ低レベルの魔法でも最上級魔法を貫けるだけの威力を用意できれば簡単にね。

 だけどそのコアの大きさってピンポン玉よりも小さいから、それを的確に打ち抜くのは至難の業。

 過去検証した人たち曰く、コアを撃ち抜くくらいなら石とか矢で誘爆させた方が早いという結論に至ったくらいには難しい。

 そして最後の頼みの綱であるドレインだけど、クリスちゃんは一発だけ当たった。

 それ以降ドレインを混ぜた攻撃は全部避けられた。

 結果HPは自損で削れてドレインでそこそこ回復、時折飛んでくる祥子さんの魔法に気を付けながら、クリスちゃんの攻撃をさばくという地獄のような時間が過ぎていった。


 おかげでリアルの身体が空腹を訴えているのか、視界の端に空腹マーカーが出てる。

 幸いというべきかトイレマーカーが出ていないのは救いで、他の緊急事態も起こっていない様子。

 当初の予定通りなら今頃司馬さんは罠による死に戻りで赤砦でふてくされてるはず。

 視界にうつる限りテンショーさんは相変わらずいわのなかにいる。

 ミュージシャン組は絶賛ライブで盛り上がっているけれどこちらはそれどころじゃない。


「はっはっ、どうしました? 動きが鈍くなってますよ!」


「そういう! クリスちゃんこそ! フェイントが多いじゃない!」


「引っかかってくれてもいいんですよ!」


 右こめかみ、と見せかけて左わき腹を狙った拳……と思わせての右ハイキック!

 どれもがブラフで、どれもが必中、フェイントとか言ったけどこれそんなレベルじゃないわ。

 確実にこっちを殺すための攻撃を3連続で刻んできている。


「ほらほら、考え事してる時間はありませんよ!」


「くぅっ! もうヤダこの二人!」


 ちょっと思考をそらすとその隙に祥子さんが無言で魔法を打ってくる。

 どんどん目が据わっていくのよこの人!

 昔戦場を共にした時、クリスちゃん救出作戦でトラ相手にドンパチやった時もどんどん集中力上がっていったからゾーンに入ってるわ……。

 今の祥子さんはデザートイーグルみたいな反動がすごい銃で500m先のトラの眼球をピンポイントで狙撃できるくらいのスペックがある。

 だからこっちの油断とか隙を見つけたら魔法を打ちこんでくるわけだけど、その威力がやばい!

 最低限死ぬ威力、急所にあたれば確実にというのをコンセプトにMPの消費を抑えている。

 曰く「脳みそか心臓潰せば死ぬなら、そこに1発の銃弾ぶち込めばいい。そんな相手に爆弾を持ち出すのはナンセンス」とのことだけど……できる人が言う事はやっぱりずれてるわね。


「っとぉ!」


 足元を狙った魔法を避けた先にクリスちゃんの拳が待ち構えていた。

 これは避けられない……なら!


「ぐ……つぅ!」


 蔦と左手を犠牲に痛烈な一撃をどうにか受け止める。

 幸いドレインで回復した分が吹っ飛んだだけ、残りのHPは2割といったところ。

 このまま残り8分、タイムアップを狙ってというのもありだけど……。


「ふふ、タイムアップ狙いなんてしませんよね」


「そんなことしたら今夜はご飯抜きよ」


 遠回しな死刑宣告!

 料理が禁止されている今私は外食か、祥子さん達の料理に期待するしかないのだ!

 そして外食するにしても今月と来月はカード支払いがやばい!

 割と本気で出費が多すぎてこれ以上は無駄遣いできない!

 おやつだからと食べに行ったのも失敗だったけど、それ以上にもっと冷凍食品を買い込んでおくべきだった……いや、まった。

 あの仕事人としても奥さんとしても完璧な、ちょっと怖いものと辛い物と耳が弱いだけの祥子さんが私にとっての非常食である冷凍食品を切らしたりするだろうか……。

 否、断じて否、そんな初歩的なミスはあり得ない。


「はかりましたね!」


「ほほほ、何のことかしら」


「くそぅ……やってやりますよ! 以前リアルでボコられた恨みバーチャルで晴らす!」


 もうこの際だからイベントの勝ち負けはどうでもいいわ。

 せめてクリスちゃんに一矢報いて、その後で祥子さんに勝つ!

 これが今できる最大にして最善の行動!

 とはいえどうする……クリスちゃんを驚かせつつ、決定打に持ち込める行動……祥子さんを直接うちに行く……悪くないけれど阻止されるのは決まっている。

 じゃあ阻止されないためにはどうしたらいい……。

 クリスちゃんを倒す、けどその前提条件が祥子さんによる援護射撃をどうにか止める事。

 ロジックエラーもいいところ……!


 ……いや待った、一つあったわ。

 最近やってなかったから思いつかなかったけれど、以前戦った人達との勝負で決め手になったのは何だったか。

 それを思い出した瞬間準備が整ったと言いかえられる。


「クリスちゃん、勝たせてもらうわよ」


「いつでもどうぞ?」


「そう、じゃあ!」


 ぶちぶちっと音を立てて先ほど潰された左腕をちぎる。

 骨が砕かれ筋肉は断裂、神経すらもずたずたになっていたそれはシステム的に無いのと同じだった。

 念のためメニュー画面を開いて確認したけれど欠損と同義という表示があったので、既に死んでいると同義……というのは建前で一か八かの賭けですはい。

 でも賭けには勝った!

 左腕をちぎったところで私の身体にダメージが入った様子はなし……肘から先を捨てた左腕を振り回して血で目つぶし!


「その程度ですか?」


 と思ったけど水の膜が作られていて、あっさり遮られてしまった。

 けれどそれでいい、一瞬でもこちらの目的を隠せたなら十分。

 右手に握りしめたままの腕、それを祥子さんに向かってノーモーションで投擲!


「っ、そういう狙いですか。でも甘いですよ!」


「そうね」


 とっさに祥子さんと私の直線上に立ったクリスちゃんだけど、腕を追走するべく足に力を入れていた私の方が早い。

 投げた腕を追い越して、クリスちゃんも追い越して、そして祥子さんの前でにっこりと笑みを作る。


「ひゃっ」


 驚いた拍子に何発もの魔法を私に向けて撃ってきた祥子さんだけど、飛んで避ける。

 その先には皮肉にも祥子さんを守ろうとしたクリスちゃんの背中、いえ視線だけはこっちを追っていた……さすがね。

 迫りくる魔法を水を操って撃ち落としたりしているけれど、普段やらないことをすると人間ぼろが出るのよ。

 クリスちゃんの本領は拳のぶつけ合い、そこに魔法なんて余計なものを取り込んだのが仇となったといっておきましょうか。

 撃ち落とした魔法はいい目くらまし、よけるためだけの飛行は意味をなさずただの跳躍で終わり地面に足をつけると共に魔法の影にいるであろうクリスちゃんに接近し、そして右腕を突き出す。

 確かに、何かを貫いた感覚が指先にあった。

 同時に脇腹に激痛。


「がふっ……」


「ぐ……」


 相打ち、そう呼ぶのがふさわしいかもしれない。

 私の右手はクリスちゃんのみぞおちを、クリスちゃんの作り出した水が地面から伸びて私の脇腹を貫いていた。

 けれど、僅かに浅い。

 私の死亡判定はまだ出ておらず、しかしクリスちゃんは手足の先から光の粒子になっていく。

 おそらく私の残りHPはミリ単位でしか残っていないけれど、それでも勝利は勝利だ。


「あーあ、負けちゃいました……即席のコンビネーションだけどミカさんとならいけると思ったんですけどね」


「いざという時のことを話し合わず、一方的に攻撃することだけを考えていたのが敗因ね。次は守りのパターンも話しておくといいわよ」


「そうします。くっそー、悔しい! 今度リベンジしますからね!」


「待ってるわ」


 内心はもう来ないでくださいなんでもしますから、という感じなんだけどね。

 メニューを開いて残り時間を確認すると1分を切っている。

 祥子さんにとどめを刺すのは……どうにも絵的にはばかられるというか、私が見たくないからここは逃げの一手かしらね。

 司馬さんのポイントとか見るにこちらの勝利は揺るがないでしょうし、無理に倒す必要もない。

 いやぁ、よかったよかった。


「ねぇ、せっちゃん」


 そんなとき、ぽそりと耳元に生暖かい風が当たり、私を包み込むように柔らかくすべすべとした肌が触れた。

 祥子さんだ、周りに聞こえないように小声でリアルネームで呼んできた。


「なんですか? この距離なら魔法よりも素手の方が早いですけど……私に祥子さんを殺させるようなことはさせないでくださいね」


「そんな事させないわよ。魔法だって使わない、ほら証拠に杖もぽいってね」


 言葉の通り杖を投げ捨てた祥子さん。

 確かにこれなら魔法の発動によりいっそう時間がかかるようになるし、祥子さんじゃ私に致命傷を与えられない。

 となるとこれはご褒美のハグかしら……だとしたら役得ね。


「せっちゃん、クリスちゃんに勝ててうれしい?」


「嬉しいというより疲労感がすごいですね……後になったら嬉しく思えるかもしれませんけど」


「そう、でもね……これだけは言わせて。おめでとう、そして……」


 もじもじと恥ずかしそうにしながら祥子さんが口を開く。


「貴女の勝利に祝福あれ」


 シュンッと、私は気が付いたら黒砦にいた。

 砦の広場ではなく、医務室……端的に言うならキルされた人が送られてくる場所。

 えーと……メニューから死亡ログ……。


『聖属性のこもった言葉を与えられたことで昇天』……あぁ、そういえば魔法使われなくても私死ぬんだったわ。


 邪悪結界も残り5分の時点では切れてたし……してやられたわ……。


「あー、もう! さすがね!」


 負け惜しみなんて言わない、たぶん祥子さんは研究に研究を重ねて私の動画を何度も見たのだろう。

 そしてクリスちゃんが負ける事も計算して、最後の最後に勝利をもぎ取った。

 そんなの、もう素直に称賛するしかないわ。

 勝てなかった……けれど最高に心躍る戦いだったわ。

 般若の様相で医務室に飛び込んできた指揮官さん達を見るまではね。


ちなみにリアルでクリスちゃん、刹那さん、祥子さんが戦った場合祥子さんの不戦勝になります。

権力でクリスの端末をネトフリに繋がらなくする、刹那にご飯抜きと伝えるだけで非暴力による征服が可能です。

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― 新着の感想 ―
鼓膜を破るしかないかも(泣)
[一言] 忘れてたぁwww祈りの言葉でも死ぬんだったw
[一言] リアルで生命線抑えるのは強い クリスちゃんは正直、食事不要な可能性が高いけど刹那さんは積みだからなぁ・・・
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