デュエルスタンバイ
こうして迎えた最終決戦だけど、私の前にはクリスちゃんと司馬さん、テンショーさんにユグドラシルとアイドル、そしてミカさんこと祥子さんだけが立っていた。
「少数精鋭ですか?」
「雑兵など何人いても関係ない。勝つために挑んだのであれば最も勝率の高い方法を選ぶ、それだけだ」
「司馬さんは……イベントは皆さんで楽しんでこそではありませんか。そうは思いませんか? せつ……いえ失礼、フィリア?」
司馬さんの答えに突っ込みを入れたのはテンショーさん。
相変わらず美人さんだなぁ。
なんか後光がさしているという感じまでしてくるよ。
見たところリアルと変わった様子はないけれど、んーあの感じなんか人間とは違うのよね。
羽が生えているわけじゃないんだけど、直感で飛べそうだなぁくらいの感じがする。
「テンショーさんなんの種族ですか?」
「使徒という種族ですよ。マイナーで難易度が高いといわれていますがなかなかどうして面白い種族です」
「あぁ使徒ですか。ポイントやたら食うくせにデメリット持ってないから一点集中化しないと使い道がないって言われる」
種族的には神様の使い的なポジション。
祥子さんとかルリさんの天使と同じ立ち位置なんだけど、私の邪悪属性みたいなのも弱点じゃない。
端的に言えば天使よりも幅広く、それでいてスペックだけを押し上げた感じのキャラね。
デメリットらしいデメリットを持たない代わりにメリットもハイスタンダードという事以外はない、なら人間でよくない? と言われてしまう種族だったりする。
一応聖都とかでは多少の優遇は受けられるみたいだけど、魔の者と言われるプレイヤーの中で化け物を選択していないだけでも優遇は受けられるから大差ない。
そもそも使徒も天使も分類的には化け物側だから、道中でうっかり変な種族追加するイベントに遭遇したらそのメリットも消えるから使い勝手としては微妙なところというのが総評。
似たり寄ったりの天使は人気種族だけど、聖属性攻撃を最初から持っていること、また外的な種族追加を任意で拒否できるというのが強み。
まぁ人気があるのは羽がかわいいというのがメインみたいだけど、この辺は多分西洋と東洋の認識の違いが含まれているんでしょうね。
おそらく天使はキリスト教関連を主軸に考えたもので、他と交わることがない、交わったのであれば堕天であるという認識を用いているのかもしれないわ。
たいする東洋は怖いものもすごい物も全部神様にしちゃえ、どんな神様でもないがしろにしたら妖怪に堕ちるよというスタンスでの使徒という扱いかしら。
「八咫烏あたりですか?」
「正解、さすがフィリアですね。いい目をしている」
「いやぁ、黒髪の使徒って他に思いつかなかっただけですよ。という事は使徒八咫烏ヒューマライズでポイント全部溶かして……多分足りなかった分はペナルティ支払った感じですか?」
「はい、大正解です」
ぽんっと手を合わせてにっこり微笑むテンショーさん。
うーん、この朗らかな笑みや太陽のような温かさ。
本当に女神みたいな人よね、祥子さんも負けてないけどそれでも頭一個飛びぬけているわ。
「それじゃ、さっさと始めましょうか。こっちはクリスちゃんと私が戦う予定ですけど異論は?」
「無い」
「無いですよぉ」
「ありません」
「ないわ」
司馬さん達プロゲーマーズと私の同居人グループが声を返事をする。
背後に視線を向けて一つ頷いてから、大きく息を吸ってクリスちゃんに向かって正拳突きを繰り出したことで勝負は始まった。
私の攻撃は受け止められ、そしてその衝撃がクリスちゃんの足元から砂塵となって後方に広がる。
相変わらず馬鹿げた身体能力に技術よね……。
衝撃を一度体に通して、それを全て足から吐き出すなんて普通出来ないわよ。
その一方で足止め組はミュージシャングループの周りで曲のリクエストなどを始めて、気をよくしたロッキーさん達がフレーバーアイテム扱いになっているギターなどを取り出して演奏を始める。
ちなみにこういった楽器アイテムは豊富なんだけど、町中で演奏してお金を稼ごうという人は存外少ない。
吟遊詩人プレイとしてできなくはないんだけど、下手だと石を投げつけられるのよ。
その威力がなぜかとんでもない数値で人間プレイヤーなら一撃で死ぬ。
化け物プレイヤーでも5発くらうと死ぬ。
それが雨粒のように襲い掛かってくるから、結論死ぬ。
なにより上手いか下手かの判定がリアル基準になるからね、私もできなくはないけれどもともと死にやすいキャラクリだからそんな冒険はしない。
簡単な曲だとお金貰えないし、難しい曲は少しでも間違えたりテンポがずれたりすると石がとんでくるから一部では裏ボスとまで言われているやりこみ要素の一つ。
ちなみに今のところ報告はないけれど個人ハウスみたいなのを取得できたらそこで好きなだけ練習できるんじゃないかという噂がある。
というのも宿の個室とかなら音量に気を付ければある程度は練習できるらしいから。
「ひゃっはー! そんじゃきいてくれ! ニブルヘイム!」
「「「「「うぉおおおおおおおお!」」」」」」
釣れたみたいね。
うん、アイドルも一緒になって踊ってるから上等。
司馬さんを探してみるとのんびり歩きながら逃げた人たちを追いかけている。
ある程度挑発したみたいだけど、それも作戦の内と読んであえてゆっくり進んでいるんでしょうね。
「よそ見していていいんですか?」
「まぁこのくらいはいいかなって」
クリスちゃんの裏拳を避けて、その腹部に掌底を打ち込もうとした瞬間光の矢がその間を通り抜ける。
「私がいるのも忘れちゃだめよ」
おぉう……想定していたとはいえ2対1か。
勝手知ったる相手とはいえこれは辛い。
え? テンショーさん?
無言で多数のプレイヤーに見つめられて、しかもそのうち何人かが「可憐だ」とか「ふつくしい」と呟く姿に恐怖して土魔法で壁作って中に逃げ込んだわ。
上からのぞくこともできないようにしっかり密閉されている。
とてもシュールな光景だけど、この人よくこうなるのよ。
いざ本番という時に人目を気にし始めると緊張して実力を出せず芋プレイに走って負ける。
だからリアルイベントには参加しないし、参加を強制される企業スポンサーをつけず、プロチームにも入らない完全ソロプロゲーマー。
野生のプロと言われるだけあって遭遇率こそそれなりなんだけど、その容姿を知る人はほとんどいなかった。
他のゲームだと顔隠す装備してるからね、今回は装備を手に入れる時間がなかったから初期装備で挑んだ結果がこれよ。
とりあえずこれでミュージシャン組とテンショーさんは脱落。
司馬さんは森の方から「おのれ!」とか「ふざけた真似を!」と言った怒声が聞こえる。
あとは時間いっぱい私がクリスちゃんたちをさばききればいい。
残り時間は……55分!
プロだけどトッププロじゃない理由:人混み苦手で芋るから




