戦場の友情
一度休憩をはさんで、残り時間が1時間20分くらいになってからログインしなおした。
VOTの機能として外部から中で何してるか確認もできるんだけど、ちょっと煩雑な手続きの末に身内であるという事を証明できないといけないのと、双方の承諾が必要な事もあって断念。
イベント中に相手が何してるのかのぞき見というのもマナー違反な気がしたからね。
なのでおやつをどうしようか考えていたんだけど、冷蔵庫を見て外食することにした。
今夜はカレーみたいだけど最低限の材料しかなかったのよ。
ゲームの中だと砦にあった食料全部食べちゃったし、ついでに邪魔しようとしたプレイヤーももぐもぐと……ナマモノだけはロストガンで股間を撃ち抜いておいたけど。
冷凍食品も、フリーズドライ加工品も、カップラーメンの類も全滅してた。
あまり時間もないからね、徒歩1分のところにある中華屋さんでメニューを端から端までという頼み方をしてみた。
選ぶ手間が省けていいのよね。
最終的に30分くらいで食材が尽きたという事で一度家に帰るか迷ったけど、まだ時間があるので向かいにあるお好み焼き屋さんに突撃してきた。
そっちでも30分くらいで食材切れたって言われたけど……うーん、お好み焼きはやっぱり火を通すべきね。
生だとあんまり美味しくないわ。
そんなこんなで家に帰ってからティータイムとしゃれこんで、ゲームに戻った。
「早いな、時間はまだあるだろうに」
「ちょっと準備運動しておこうかと思いまして」
VRはリアルと遜色ない五感を再現してくれる。
とはいえスタミナなどはゲーム内のキャラに依存しがちで、RFBを使わなければアスリートも一般人もレベルによるステータス差以外は変わらない。
その差を消すためのRFBなんだけど、これを使うと今度は別の弊害が出る。
例えば未使用だと最初から全力疾走でフルマラソンくらいできるようになるけれど、RFBを使うとちゃんと準備をしないと息切れも早くなる。
全力のフルマラソン3周くらいならなんてことないんだけど、今回はクリスちゃん相手に1時間粘らないといけないからね。
その間は邪悪結界による横やり防止もしつつ、周囲の状況を見て指示を出しての戦闘。
はっきりいってとんでもない量のカロリー消費することになるわ。
リアルで動かなくても脳の活動による疲労、存外馬鹿にできないもので白銀の塔攻略のあとは結構疲れてたし、前回のイベントの時もとても疲れた。
クリスちゃんとの戦闘だけでも手一杯に近いのにそれ以上を求められるのだからこまめなおやつも必要になってくる。
だからこその大量のおやつ!
断じて私が食いしん坊なわけではない!
「RFBか……実際のところどうなんだ」
「どう、とは?」
「ゲームの中で五感を完全再現、そこには痛みも含まれるしリアルとバーチャルの差が曖昧になると聞く。一部の学者はこれに警鐘を鳴らしているがその辺りジャーナリストの見地としてどう考える」
「そうですねぇ……私はゲームはどこまで行ってもゲームだと思いますよ。リアルでこんな化け物いてたまるかってね」
「それはそうだが……事実君や、君の弟君、それに相手の水色の少女なんかは人並み外れた身体能力を持っているだろう?」
「持ってますねぇ」
「それをどう感じるかという話だ」
「んー、ちょっと難しい話してもいいですか?」
「なんだ」
「ライオンとウサギ、双方が自分の立場をどう思うと聞かれたとき多分答えは簡単なんですよ。肉を食べるか草を食べるか、でも相手の立場になって考えろといわれると彼らは混乱するんじゃないでしょうか」
「どういうことだ?」
「ライオンにウサギの気持ちはわからないし、ウサギにライオンの気持ちはわからない。それこそゲームじゃないんですから進化とかレベルアップなんてないんですよ。強い人は弱い人がなぜ弱いのかわからないし、弱い人は強い人がなぜ強いのかわからない」
「だがトレーニングで強さを手に入れた者もいるだろう」
「それは所詮伸びしろがあったというだけのことです。才能の有無に関して言えば最初から才能を持っていた人はできない人の気持ちがわからない。なぜ才能があるからできるのかと言われても本人も答えられないし、周囲もなぜかできる人としか思わないんです」
「……つまり君たちはライオンだと?」
「百獣の王なんて気取るつもりはないですけどね、少なくとも私はウサギの気持ちはわかりません。強いて言うなら草が美味しい、食べられたくない、生き残りたいという感情があるんじゃないかなと思うくらいです」
「それを頭からがぶりと食べてしまうのか」
「相手の気持ちなんて理解したつもりになれるだけで、本当は何を考えているかなんてわかりませんからね。こうなんじゃないか、なんて気持ちに揺さぶられて一番美味しいところを食べられないくらいなら遠慮なく食べますよ」
「恐ろしい人だ。だが気に入った、我らギルド、悪夢の檻はライオンである君の討伐に全力を注ぐウサギの集団となろう」
「窮鼠猫を噛む、せいぜい噛みつかれないように気を付けましょう」
互いに握手を交わして、そしてタイマーを見る。
残り時間は1時間と5分。
結構話し込んじゃったわね、準備運動は話しながらだったけどそこそこ体も温まってきた。
これなら早々負ける事もないでしょう。
邪悪結界の残り時間はちょうど1時間、となるとそれが切れたラスト5分に全てがかかっている……その時間こそ注意を払うべきね。
「それじゃあ一足お先に戦場へ行ってきます。あとはそちらの都合で動いてください」
「あぁ、事前に決めたとおりに立ち回らせてもらおう。とはいえあの化け物集団にどこまで通用するかわからんがな」
「その時はその時です。頑張ってくださいね」
「君も、せいぜい勝利のために頑張ってくれ」
先ほどは握りあった手を広げ、叩き合わせる事で派手な音を響かせた。
翼を広げて飛び上がり、真下から聞こえる「腕が折れた……治療班! 頼む!」という声と悲鳴と怒声をBGMに戦場に躍り出る。
さて……ここからが本番だ!




