殺意
赤砦が静かになるまで司馬さんはどこかで時間を潰しているという話だったので私は黒砦に戻ることにした。
「と、いうわけであちらは2時間はおとなしくしてると思いますよ」
「その確証は?」
「司馬さんが寄せ合わせのパーティ程度、まとめきれないわけないじゃないですか」
あの人100人単位で挑むレイドを即席メンバーで、なおかつ一人の犠牲者も出さずに勝った猛者だからね。
戦いに関してはもうとにかく強いの一言。
ただ本人曰く戦いは本職じゃないらしいのだけど……まあ十分よね。
普段そういう指揮的なのは(仮)さんに任せているという話で、本人は最前線で破壊の限りをという感覚らしい。
「その間に罠を作り、そして仕掛ける……時間的な猶予はできたな」
「問題はその間どう緊張感を保つかですね」
「そうだ、今までの動画からして暴走特急かと思っていたら案外こういうのにも精通しているんだな」
「そりゃまあ、これでも戦場カメラマンやってたこともありますし軍隊とチームで行動したこともあるので」
「……リアル戦場帰りとか味方にするにはいいんだが敵にしたくないな」
「でも私を倒すんですよね?」
「無論だ。というかルリが本気で狩りに行こうとしているからな、背中に気を付けるといい」
「はっはっはっ、イベント中にやれるものならどうぞという感じです」
味方からの攻撃で死亡した場合ポイントは半分ほど変動する。
具体的には私の所持ポイントが半減、減った分がキルした人に入る感じ。
ちなみに敵に倒された場合は総どり、私のポイントが初期まで落ちて、相手に所持ポイントが全部入る。
最初のうちはこれでひとりにポイント集中させて拠点砦ごと守るという方法も取られていたらしいけど、その場合攻め手にかけて負けるという事も増えて分散させた方がいいという結論に至ったそうな。
なお私がポイントトップだけど、この後の挑戦でどう変化するかわからないからね。
それでもトップを維持することはできると思うけど、今半減させられた場合私は中堅くらいまで落ちる。
それが意味するのは簡単に出し抜けるくらいのポイントを稼げるようになって、頑張っても私より下だからだめーという最後の砦が無くなる。
ルリさん達もこの辺りは理解しているみたいだけど、ちょいちょい殺意を向けてくるのよねぇ。
「まぁそこは私が止める。というか私のサイズばらしたらリアルで殺す」
「おっと、それは運営に怒られそうな言葉ですよ。こんなことでBANされるのもつまらないですよね」
「む……だがセクハラで訴えたら勝てるぞ。同性でもセクハラは成立するからな?」
「んー、戦場だとよくあるスキンシップだったんですけどね。男女問わず尻やら胸やらはよく触りあってましたよ」
まぁ私は男には触らせなかったけれど。
全部のセクハラを躱してたらいつの間にかクノイチマスターなんて言われるようになってたのは心外。
「そうか……君は戦場に魂を置いてきた悲しい人だったんだな」
「なんですかその詩的な言い回し」
「いや、この前まで遊んでたゲームでそんな台詞があってな。流用させてもらった」
「あー、もしかしてヴァルキリーギアオンライン?」
クリスちゃんをだましてライブ配信したゲーム。
ロボットに乗って戦うという事くらいしか知らない。
「君もファンなのか!」
「いえ、同居人が遊んでるというだけで私は知らないです。ゲームも未知の料理や食材メインなので」
「……そうか」
「あ、でもあのセリフは知ってますし好きですよ。ここが私の魂の居場所よって」
「ほう……それはオンラインではなくヴァルキリーギアドライブシリーズナンバリング5作目の名言だな。これを機会に遊んでみてはどうかね?」
「えー、ロボットゲームって苦手なんですよね……」
なんというか自分の操作がダイレクトに反映されないゲームは苦手。
特に昨今のロボットゲームは操縦桿を握って、モニターを見て、あとは操縦管制と機体のラグを考慮して動かなきゃいけないのがね……。
たぶんロボットから降りて直接殴った方が早いわ。
「あのゲームは近々VRにも進出するという噂がある。その場合ヴァルキリーミッションとギアミッションというのがあってだな、プレイヤーをヴァルキリーと呼ぶんだがプレイヤーが自らの肉体でクエストをこなしていくんだ」
「はぁ」
「そのためのステ振りや、装備の補充が難しくてな。かといってロボットに乗るギアミッションだけをやっていても赤字になりやすい。一発逆転を狙うギアミッションか、堅実に進めるヴァルキリーミッションか、そこで好みはわかれるところだ」
「RFBはあるんですか?」
「もちろんある、と言いたいところだがまだ開発段階らしくてな……どこまで実装されるかはわからない」
「RFBあったら教えてくださいね。その時は気まぐれで遊ぶかもしれませんから」
嘘だけど。
刀君辺りに教えてロボットと生身の勝負を体験させてあげようかなくらいにしか思ってない。
あとクリスちゃんがものすごく悩み始める。
バトルジャンキーとして巨大ロボットと戦えるというシチュエーションにはあこがれるけれど、あの子としてはロボットを倒すのは謎の宇宙生命体か同じロボットでないといけないという謎の浪漫があるらしい。
「それより時間までご飯食べてていいですか?」
「それはリアルでか?」
「リアルバーチャル両方で。二時間を持て余すのはちょっと……それだけあればカップラーメンを買いに行って、作って食べて片付けてもう一度買いに行くくらいできます」
「……そういえば食事を用意する約束だったな。あれ、食べるか?」
指揮官さんが指さした先にいたのは先ほどの集中砲火から生き返ったナマモノ。
端的に言えばゴミ。
「さすがの私も生ごみを食べろといわれたら躊躇しますよ」
「奴の扱いについては同意するが、生ごみも食べられるのか……」
「はい、とある国に行った時宿泊してたホテルにヘリが突っ込んできて倒壊しまして。町中では謎の病気で人に噛みつく奇病が多発しててご飯をまともに用意できなかったので生ごみ漁ったり、ハンバーガー屋さんのゴミ捨て場からカビの生えたハンバーガー貰ってきたりしてました」
「……君は、いや……なんというべきだ? 本当にジャーナリストなのか?」
「ジャーナリストですがフリーですよ」
「その話は聞いたことがあるが、生存者はごくわずかだと聞いたぞ。そして生存者の大半もその後死亡したと……」
「大半なので一部は生きてます。その一部代表が私、あとインドのプロゲーマーの(仮)さんに、在日アメリカ人の蓮田針子さん、私と同じフリーのジャーナリストですね。あとは……なんか警察の人が生き残っていたはずです」
「そうか……もういいや、なんか聞いてるだけで疲れてきた」
「命の危機というならもっとネタはあるんですけどね。中には口止めされてて話せない内容もありますが」
「もういいといっている……砦の中に食事は用意してあるから好きに食べてくるといい」
「はーい」
ご飯だご飯だー。
化けオンの中でプレイヤーメイドの料理を食べるのは久しぶりね。
最近は私が作るばかりだったし、買うにしてもNPCからだったから。
なにが食べられるのかしらねぇ。
あとログアウトしてから食べるものも考えておきましょう。
……中華とか食べたいわ。
蓮田針子さん、金髪に黄色の雨がっぱ着てます。




