トッププロ参上
というわけでやってきました最前線……もとい中間砦跡地。
うん、見事に全部ぶっ壊されてる。
中間砦は拠点砦から2か所を狙えるようにまず5つ、その内側に4つ、そして中央にひときわ大きな砦が一つという形で建っているんだけど、その全てが瓦礫の山になってたわ。
どうやったらここまでできるのか聞きたくなるけどリアルで真似するのは難しそうね……。
ちなみに中央の砦を狙うために外周5つのうち2つ、その内側を1つと取っていくのが定石で、中央を押さえたチームが勝ちやすいようになっているんだけど……そんなの知ったことかと薙ぎ払われたんでしょうね。
見たところ砦を占拠していようがいまいが関係なく、というところかしら。
中にはミニクエストやってる最中にやられた初心者もいるんでしょうけど、よく心折れなかったわね。
「刹那か……」
「司馬さん?」
ふと声をかけられた。
ここで私に声をかけてくるのは敵しかいないけれど、リアルネームで呼ばれたことで思わず警戒を解いてしまう。
褐色の美形男子ともいえる若々しさ、そして筋骨隆々ともいうべき体躯で身長は2m近くあるかと思わせる巨体。
トッププロゲーマーの司馬さんだ。
「息災のようだな」
「えぇ、まぁ。というかリアルネームダメですよ、こっちではフィリアです」
「そうか、隣人愛とはまたらしからぬ名を名乗ったものだ」
「どちらかというと性的倒錯の意味で使ってるんですけどね。隣人愛としてフィリアという言葉を使う日本人なんてほとんどいませんよ」
「……そうなのか」
「司馬さん日本語堪能なのにその辺疎いですよね」
「これでも年に一度はそちらの国に足を運んでいるのだが……ままならぬものよ」
「まぁ住んでるわけじゃないならそこまで重要な話じゃないですからね。あとはゲームとか漫画とか……とにかく娯楽系を嗜んでいるとちょいちょい見かけますよ。ネクロフィリアとか有名じゃないですか」
「あいにく、興味のない事には無頓着でな」
「まぁ確かに……司馬さんその辺感心なさそうですもんね」
この人果て無き闘争を求めてとかいう中二チックな理由でプロゲーマーになったらしいから。
そんな司馬さんだけど見たところ人間ベースの精霊憑きと言ったところかしら……。
化けオンのキャラクリは何も選択しなければ自動的に人間になるけれど、人間という種族を選択できないわけじゃない。
その場合ハーフなんちゃらや、なんとか憑きという名称の種族になる。
吸血鬼は例外的にダンピールという種族になるけど、まぁ一番わかりやすいのはハーフエルフかしら。
持ち合わせのメリットが半減するけれど、デメリットがほぼ人間基準になるというもの。
微妙に見えるかもしれないけど実際人を選ぶ仕様になっている。
中途半端なのよね、戦闘にせよ何にせよ。
器用貧乏というべきかもしれないけれど、できる事は多い、できないことは少ない、でもどれも極めた本職にはかなわないという性能。
なによりデメリットが人間基準になるという点が一番のデメリットで、これが何を意味するかというと人間以外の種族がもつデメリットレベルを上げることができない。
つまり種族ポイントを取得できないからキャラクリの幅が狭まるのよ。
あとは外見で簡単にどんな種族とハーフになったかとか、何が憑いているかとかがわかりやすい事。
見た目だけで対策されちゃうのよね。
私なんかは水属性に弱いを持っているけど、鱗を隠して人魚とわかりにくくしている。
だからダメージはせいぜいが二倍かそこらで済んでいるけど、そういったブラフができないという意味で最弱候補にも挙がっている。
司馬さんを例えに出すなら右腕に炎、左腕に風、右足の足跡からは植物が育ち水がしたたり落ちて、左足の足跡は陥没したように地面が踏み固められている。
5種類の精霊をその身に宿した、いわゆる精霊使いとか精霊憑きとゲーム内で呼ばれる種族。
扱いは「最弱」だったりする。
一見すると精霊のいいとこどりできてるようにも見えるけれど、他のゲームで言うなら精霊を使う攻撃のコストにMPとHPの両方を消費するからね、ほっといても自滅するのよ。
幽霊憑きや悪魔憑きのほうがよっぽど使いやすいって評判だけど……司馬さんらしいといえばらしい。
ちなみに人間でもデメリットはとれるけれど、スタミナが切れやすくなったりバッドステータスを受けやすくなる「虚弱体質」とかそういうのがいくつかある程度。
種族限界が多いというべきかしらね。
「どうした」
「いえ、精霊憑きは珍しいなと思って」
「戦いにおいて使える手段は何でも使う、そのために自らの身を焦がすこともいとわないというのは素晴らしい! 強者は自らの牙で戦い弱者は蓄えた知恵で戦うのが常だが、この遊戯は弱者も強者になれる! ならば強者の牙に弱者の知恵が揃えばどうなるか! 逆もまた然り! 強者の牙を持たず、弱者の知恵も持たぬ俺がこの身になればどうなるか! とても楽しみだったのだ!」
この人戦いのことになると早口になるのよね……。
クリスちゃんよりも数段格上の変態……じゃなかった、バトルジャンキーだわ。
「だが……」
「ん?」
「悲しいかな、俺がこれほどに力を抑えたとて真の強者に弱者はひれ伏すしかない……だがお前となら楽しめそうだ」
「あー、それなんですけどね。今そのひれ伏した弱者が強者に立ち向かうべく準備してるんですよ。どうです? そっちの人たち説得してくれるならこちらは万全の状態で、ありとあらゆる知恵を絞り、あなたたちの喉に弱者の刃を突き付けますよ?」
「ほう、なんとそそられる誘い文句……魅惑的であり、蠱惑的であり、誘惑的だ。実に良い! その挑戦受けようではないか!」
「そうですか。じゃあ勝負の開始は残り1時間辺りでどうです?」
あんまり早くに勝負を挑んでも準備が間に合わないし、逆転されかねないからね。
だったら最後の1時間に全部賭けたほうがいいわ。
「よかろう。だがそれまでの暇を埋めてくれる相手が欲しいところだ……」
「言っときますけど、私は嫌ですよ。というか私のキャラクリって強い弱いを考えてませんから。食べる事だけ考えたキャラクリなんでそこまで強くないんですよ」
「戯言を、捕食者とは自然界の強者を意味する。それを弱者と詐称するなど笑止千万」
「んー、嘘じゃないんですけどね。まぁやるならお互いに本気の時がいいでしょう。ここでどちらかが負けてペナルティ背負っても面白くないですよ。あ、そっちの砦にいる水色の髪の女の子。クリスちゃんって言うんですけど彼女なら喜んで遊び相手になってくれると思います」
「……邪神の娘か」
「はい?」
「なんでもない。しかしあの娘は今席を外していてな……」
「え? まだログインしていないんですか?」
「いや、一度は顔を見せたがしばらくして腹が痛いと言い消えていった。その直後だ……」
おん? 雲行きが変わってきたぞ。
「ミカ、だったか。雑兵に怯え泣き叫んでいた女だ。先ほどとは人が変わったかのように暴れ始めたのだ。くだらぬ遊びにうつつを抜かし、女子供を怖がらせることしかできぬ雑魚ども……しかしそれも極めれば見事なものだと感服せざるを得ないが、奴らを相手に杖を振り魔術を放ち殺戮を始めた」
「……あー、はい、そうなるだろうなと思ってました」
「俺も思わず足がすくむほどの威圧感だった。止められる者はいない、本人がやりたいようにさせるしかない、だからここに来た」
「要するに逃げてきたんですね」
「…………………………うむ」
「あの人怒らせたら怖いですよ。私も散々怒られて、何度地獄を見たことか……」
「そうか……世の中、広いものだな。俺が恐れを抱く相手に巡り合うとは」
「私も、戦場とかジャングルとか色々まわってきましたけどあの人より怖い人に会ったことないです」
二人でぽつんと、瓦礫を背もたれに体育座りで空を見上げる事しかできなかった。
……よく見たら赤砦の方角で光の柱が何度も立ち上っているわ。
祥子さん……やりすぎ注意ですって言っておけばよかったかな。
そして阿修羅をも凌駕するヒロインによる惨状




