フィリアのPK
「ただいまー」
「……おう、後ろから来るとは思わなかったぞ」
町に帰って衛兵さんにマンドラゴラを差し出す。
いやぁ、デスルーラ便利だね。
マンドラゴラ、常備しておこうかしら。
「確かに10個だな、これで薬が作れる」
「そうなの?」
「あぁ、強心剤の材料でな。ただ未加工の物を食べると死んじまう、それこそ英雄と呼ばれる人間か同等の化け物でもない限りな」
「へぇ」
じゃあ今の私が食べたら即死か……ドライアドのデメリット克服に使えるかな。
味も気になるし。
あ、クエスト達成のログだ。
経験値とお金が5000ルル手に入った、初期金額の半分ってことは結構おいしいクエストだったのかな。
レベルも5になった。
「ちなみに未加工だとだめなら調理したら?」
「だめに決まってるだろ……」
何を当たり前のことを、といわんばかりにあきれられてしまった。
まぁいいや、それよりまずやるのはだ。
「レベリング屋をやります」
「はぁ?」
「なにいってんだ?」
衛兵さんとPKさん二人からあきれられてしまった……。
解せぬ。
「だから、私をPKして経験値を稼ぐ。私は対価にお金をもらう、両者両得、みんなハッピーでしょ」
事細かにデメリットの話をしてみる。
私は聖水耐性を上げたいから、聖水をかけてもらってPKしてもらう。
低レベルな今はデスペナないから安全にできるし、あちらは多少の金銭でレベルが稼げる。
「なるほどな、けど聖水買う金も馬鹿にならないんだぞ。あれ買うよりもポーション買い込んだほうがいいくらいだ」
「そうなの? でも私銀も弱点だし、聖属性も弱点だから結構簡単だと思うよ」
「銀ならまぁ……露店で売ってるアクセサリーが銀だったからな」
「だからそれで私のデメリット克服と、お金稼ぎ。みんなは経験値稼ぎができるという算段よ!」
どうだこの完璧なプランは!
「あー、嬢ちゃん。それはやめておいた方がいい」
「へ?」
思わぬところからストップが入った。
衛兵さん?
「魔の者、それも特定個人を狙い続けたり同じ場所で殺し続けるとでるんだよ」
「出るって?」
「英雄様、だった人だ」
英雄だった人……なにそれかっこいい。
「今は堕ちた英雄といわれていてな、名も忘れられてしまった悲しい人だ」
ほほう、いわゆるお仕置きNPCってやつかな?
だとしたらこの商売はうまくいかないと……でも一度会ってみたいな。
うーん、なんか方法ないかな。
目の前でPKさんたちはすっごい嫌そうな顔してるし、ついでにPKしたツケとか諸々どうしてくれるんだって顔もしている。
「あ、じゃあ私がPKしまくればいいのか」
「は? いや嬢ちゃん話聞いてたか?」
「聞いてましたよ、一度会ってみたいなと思って」
「……変わり者だな、あの方に殺された魔の者は一時的な呪いを受けると聞くぞ」
「呪い?」
「俺にはよくわからないが、生き返った後も続く呪いだとかなんとか……」
それってデスペナかな?
うん、だとしたらやっぱり私がやるのが一番か。
「よし! だれかPKさせてください!」
「マジでやるの……?」
「やめといたほうが……」
「俺そんなおっかないのに会いたくないんだが……」
あら、乗り気じゃない。
でもジャーナリストとしてはそういうの、結構気になるんだよね。
いわくつきとかそういうのも記事にすると面白いんだ。
なによりさ……英雄を食べる機会なんて普通ないじゃん?
「んー、話からすると被害受けるのはPKした側だけだから平気じゃないかな。させてくれるなら5000ルル払うよ」
「む……それは確かに魅力的だが」
お、揺らいだ?
ならあと一歩か。
「追加で380ルル払うよ!」
「いや、それはいらねえ……」
「そう?」
いらないなら小銭は取り下げよう。
けどローリスクで5000ルルは結構なリターンだと思うんだよね。
んー、他に何が使えるかな……。
「あ、じゃあ吸血鬼にお勧めのジュースを……」
「俺たちのパーティに吸血鬼いないんで」
「ぐっ……万策尽きた」
「策と呼べるほどの物が万もあったか?」
「がふっ」
痛恨の一撃……これだけで私のライフが一気に削られた気がする。
「なら……ここであと4回マンドラゴラ抜かれたくなければさっさと5000ルル受け取ってキルされなさーい!」
「俺らが言えた義理じゃないけどさ、それ最低な脅しだぞ?」
「なんというか、援助交際強要するおっさんみたいだ」
「え、不審者? もしもしGM?」
「通報すんなこらぁ!」
くっそ、何かほかに手段はないのか!
「まぁいいや、別に経験値減るわけでもないしレアキャラを拝める。金ももらえるならそのくらいは引き受けてもいいぞ」
「ほんと⁉」
「あぁ、ただスクショとるくらいはいいよな」
「それは問題ないよ。というか私ずっと録画回してたんだけど、PKのくだりも含めて受けそうだからそのままサイトにのっけてもいい? なんならギャラも出るよ?」
「……いや、顔と名前は伏せてくれ。こういうことしてたって思われると面倒くさそうだ」
「そか、じゃあ面倒くさいけど編集入れておくね。あ、あとこの後教えてもらうデメリットレベルに関してもオフレコにしておくから。具体的にはピー音いれるから」
「わかった、それで頼む。しかし……ここじゃ被害とかでねえかな、お仕置きNPCだから町に被害出すことはないかもしれんけど、あんたが戦うとなったら違うだろ?」
「あー、そっか。じゃあ衛兵さん、この後来る英雄さんと一戦交えるときマンドラゴラ抜くんで避難勧告をお願いします」
まぁ正しくは戦うわけじゃなくて捕食するんだけどね。
勝てるとは思っていないけど、血の一滴でも吸えたら満足だから。
「総員避難開始! 馬鹿がマンドラゴラ引っこ抜こうとしてやがる!」
「ちょっ、馬鹿は酷いですよ」
「ひどくねえよ! ばーかばーか!」
慌てた様子で走りながら逃げていくNPC達。
うん、お膳立ては済んだかな?
「じゃあデメリットレベルを教えて?」
「あぁ、俺は聖属性キャラだから魔属性に弱い。具体的に言うと聖属性弱点のプレイヤーの血液とか」
「あら、それは珍しい……でもそういう事なら私をPKしなくてよかったと思うよ?」
「聖属性弱点か?」
「それを複合、デメリット何回聖属性弱点積んだか覚えてないや」
「……返り血で死んでたな」
「でしょー。じゃあまぁ軽くいくよ」
こうして私のPKは始まった。




