英雄たちの物語
今回濃厚な百合要素があります。
そしてニッチな百合要素もあります。
ある意味私の2Pカラーとも呼ぶべきそれは、吸血鬼を最初に選択した事で病的なまでに青白い肌になってしまった私とは打って変わって褐色肌だった。
それだけの違いだけど、結構雰囲気変わるのね……。
「なに……あれ……」
「うわっ、マジかよ暴食さん増えた!」
茂みから出てきたのはルリさんと自殺志願者……もといロードランさんだった。
あとで殺すのは置いておくとして、英雄さんを見ると聖剣を腰に下げているけれど動く気配がない。
目を覆う包帯からこちらをじっと観察しているように見える。
2Pカラーの私も同様に太陽光ダメージ遮断効果のある包帯からこっちを眺めている。
ふむ……ひとまず右手を挙げてみた。
すると2P私は左手を挙げる、鏡写しになる感じね。
今度は私が左手を挙げて右手をおろすと真逆の行動をとる。
一歩前へ出れば向こうも一歩前へ、両手を顔の横に持ってきて、爪を立てるようなジェスチャーと共にがおーとポーズをとるとそっくりそのまま同じポージングをしてくれた。
面白いわねこれ……じゃなかった。
「えーと、英雄さん。お話通じる?」
「汝よりは話の出来る存在なり」
「あ、うん、その口ぶりと辛辣な反応は本物の英雄さんね」
私みたいなコピーというか、コンパチというか、そんな感じかなぁと思ってたけどよかったわ。
なんの情報もなしに戦闘となるとロードランさん投げつけて殺されているうちに逃げの一手だった。
あ、ルリさんは連れていくけど急加速で腕が千切れたとしてもクレームは受け付けないつもりだったわよ。
「えーと、その私によく似たのはどちら様?」
「汝、英雄を名乗りし者なり。世界が穢れた英雄という存在を認知し、ここに召喚した」
あー、そういえばグンダの街でそんなことしたわね。
それが原因でシステム的に私の外見、もしかしたら内面までコピーしたのがあれという事かしら。
「という事は……私英雄さんの後輩? うわっ、ロリっ子先輩かぁ……ちょっと属性盛りすぎな気がするけど有りかなしかで言えばアリね……」
「汝、ふざけた物言いをするならば切り捨てる」
「ごめんなさい!」
とりあえず全力の謝罪、聖剣に手をかけてたから本気モードだったわあれ……。
「あれ、でも私が穢れた英雄としてここに召喚されたけど、でも私は私でイベントに参加している……どういうこと?」
「汝の魂はそこにあり、されど器の写しとしてここに顕現した穢れた英雄もまた魂の写しを持つ存在。人の言葉を借りるならば同一多元存在」
んー、すごくぶっちゃけた言い方すると別次元の私という事?
システム的にどういう管理がなされているかわからないけれど、今のところ二人からは敵意を感じない。
私と、後ろの2人が余計な事をしなければ多分すんなり帰してくれると思うけど……チラリと2P私を見る。
そして続けて英雄さんを見る、と共に2P私も英雄さんに視線を向けた。
ふむふむ、このタイミングでも動作が重なる……考えていることは同じみたいね、流石私。
互いに見つめ合ってコクリと頷き合う。
「ねぇねぇ英雄さん。敵対の意思はないって言ったらどうする?」
「このような戯れに興じるつもりはない、帰るならばそのまま帰ればよい。我らは邪魔をせぬ……されどこの者は次の戯れより真価を発揮するであろう」
「私がいるから今回は見送ると?」
「然り……数多の強者が跳梁跋扈する場に送るにはいささか実践を知らぬ身なり。故に我が監視者としてここに立たされた……不服極まりない」
強者……あ、テンショーさん達ね。
今回は火鍋食べ歩きしてプロゲーマーやバンドマン、そのついでにアイドルなんかの波に乗って乗り込んできた通称第二陣の抽選から漏れたとーてつさんと、糞映画を買い込みすぎて時間とお金が無くなったフレイヤさん、お仕事が忙しいガウタマさんなんかを除いたフルメンバーなのよね。
あの人たちはクリスちゃんと同じRFBを使ったうえでのプロだから……まぁ私でも相手するのはきついかな。
特に司馬さん。
「じゃあ挨拶だけして失礼するわね」
「挨拶……?」
「「かぷちゅー」」
英雄さんとお話ししつつ、そして考え事をしながらじりじりと近寄っていた私と2P私。
一瞬の隙をついてその首筋に噛みついた。
「うっひょお! ナイスバディ、褐色、スリットスカートのお姉さまとロリっ子による百合百合じゃねえか! しかもマジもんの暴食さんはスカートの裾破れてて膝丈セクシー!」
……殺そう、10回くらい殺そう、できるだけ怯えさせて殺そう、食事の邪魔をした罪は重い。
芳醇なふんわりとした香りの奥にどっしりとした根幹のようなものを感じ取る英雄さんの血、そして鼻腔をくすぐる甘い石鹸のような香りのハーモニーが台無しだ。
ロードランさん……いや、あのナマモノは酷い方法で葬る。
「たわけ、そしてたわけ」
スパンスパーンと私と2P私が叩かれる。
挨拶なのに……。
それに外野がうるさくて集中できなかった、久しぶりの味なのに満足できないわ……。
「己らの血を飲み合っているがよい。我は寝る」
私達……?
そういえばリアルで自分の血を舐めたことはあってもこっちで自分の血をちゃんと味わって飲んだことはなかったわね。
傷口舐めたりしたことはあっても味わう暇とか無かったし……うん、やっぱり互いに頷き合ってから恋人にハグするように抱き合って首筋に牙をたてる。
チクリとした感覚が首筋に走るけれど不快ではない……。
それよりもこの味だ、英雄さんの血を芳醇かつ年季の入った樽ワインの豊かな味わいだとするならば2P私の血の味はまるでテキーラのような我の強い味だ。
ガツンと襲ってくる風味はいっそ暴力的であり、しかしその中に確かなうま味を含んでいる。
さらりとした喉越しのあとに、喉から胃にかけて焼けるような熱を感じさせる……これは何ともいいがたい。
美味しいのは美味しいが、疲れる味とでもいうべきだろうか。
「ひゃっほう! 今度はお姉さま同士の百合百合吸血プレイ! スクショだスクショ!」
……うん、互いに首筋から口を離して見つめ合い、やっぱり頷き合う。
手を離してナマモノに歩みを進めるとルリさんは色々察したのかスススと横に引いていった。
ふふ、いい子ね……邪魔をしなければ無事に帰してあげるもの。
ナマモノを塵に還してからね。
左側を私が、右側を2Pが掴む。
四肢だと飛び上がる際の急加速で捥げるかもしれないから膝裏にも手を回すが対面で同じポーズをとっている。
せーのと合図をしたわけではないが、何となく互いにタイミングが読めたので最大速度で飛び上がり、そして全身全霊の力を込めて空高くぶん投げた。
アニメとかだとキランと光って星になるんでしょうけど、このゲームでそんなシステムはない。
運営がどこまで作りこんでいるかわからないけれど上昇限界点まで飛んで行って勢いそのままにつぶれたか、潰れずとも落下死するか、あるいは青砦の時に見た風景がそのままある程度広がっているという前提で宇宙まで飛んで行ったか……なんにせよ厄介なものは太陽にぶち込むに限るわ!
ガシッと2Pと握手をして英雄さんに手を振ってルリさんと一緒に坂を下る。
「いやぁ、すっきりしたしもう今日はこのくらいで落ちてもいいわよね」
「いやいや、イベント中だから」
「え? ……あっ」
すっかり忘れてた。
英雄さんと2Pの血とナマモノの処理で頭がいっぱいだったわ。
「戦況ってどうなってます?」
「えーと……え? なにこれ……」
ルリさんの驚いたような声に反応してマップを確認してみる。
するとそこにはすべての中間砦がグレー一色になっていた。
血生臭い百合だなぁ……。




