ゲーミング砦攻略開始
ばっさばっさとゲーミング砦を目指す最中、ルリさんとロードランさんを小脇に抱えて作戦会議をすることになった。
「俺っちが前線に出てバーンとやりゃいいんじゃね?」
「馬鹿じゃないの? そんなことしても無駄死にするだけ、回復が追い付かないわよ」
「えー、でもよぅ。俺っち結構すごいぜ? この前だってドラゴンのプレイヤー殴り倒したし」
「あれはまだ低レベルだったじゃない。ドロップアイテムもなかったからレベル20未満、初心者もいいところよ」
「なぁなぁフィリアさんも俺っちが前出たほうがいいと思わない?」
……はっきり言って鬱陶しいわね、この人。
ここで落として一人で行こうかしら。
「絡むのやめなさい、迷惑でしょ。ごめんなさいねフィリアさん」
「いえ、ちょっと落とそうか迷っただけですから」
「この馬鹿はいいけど私は勘弁してほしいわ……いざとなったら肉盾にしてもらっても構わないけれどここで放り出されるのは困るもの」
「そんなもんですか?」
「えぇ、リーダーのお願いを無下にするのはね。どんな形であれ役に立ちたいから」
「随分と……言葉を選ばないなら崇拝に近い感情を抱いてるように見えますけど」
「崇拝ねぇ……当たらずとも遠からずかしら。それよりフィリアさんは何か考えとかある?」
「作戦ってことですよね」
コクリと頷いたルリさん。
うーん、特に何も考えてなかったのよね。
邪悪結界で守りながら戦闘、という事くらいかしら。
「これと言って作戦があるわけではないですね。そもそもこんな少人数で足止めを頼まれたんですから、ガッチガチに搦め手を使うかちまちまと潰していくしかないかと思いますよ」
「そうよねぇ……だとしたら罠でも作る?」
「どんな?」
「虹色の砦は丘の上にあるのよ、丘というよりは山に近いのかしら。だから中間砦につながる道に落とし穴とか、結んだ草で足を引っかけられるようにするとか」
「下調べしてあるんですね」
「下調べもそうだけど経験談よ。最初はよくわからないまま全滅させられたの……もうぼっこぼこ、どの勢力も中間砦に近づいた瞬間に蒸発してたわ」
なるほど、好き勝手させてはいけないというのは決まりね。
そうなると……。
「ゲーミング砦と中間砦って一本道ですか?」
「基本的にはそうだけど隊列組んで行進するくらいはできる道幅よ。普段だと三つの砦からそれぞれ人員を派遣してその道を人の壁で封鎖するの。その間にみんなで中間砦の奪い合いの殺し合い」
「へぇ……」
むかし似たような状況を経験したわね。
あの時はゲームじゃなくてリアルだったし私が砦の中にいたけれど……うん、その時に使った方法がまだ使えるかもしれないわ。
「作戦、ありますよ」
「なにかしら」
「実はですね……」
詳しく語っていると時間がないので手短に、私がドライアドの種族を持っているのもいい方向に働きそうね。
力仕事ならロードランさんがいるし、タイミングはルリさんに一任すれば問題なさそう。
あとは私が囮になるだけ……まぁ一番危険なところにいるけれど何とかなるでしょう。
「あなた正気?」
「正気でこのゲームができるわけないじゃないですか」
「……なんだろう、正論なんだけど認めたくない」
「まぁ荒事に単独で挑むのは慣れているので任せてください。そもそも砦一個落としてきたという実績があるんですから」
「相手はプレイヤーなんかよりよっぽど厄介な相手よ」
「そうですね。だけど、正直物足りなかったんですよ……青砦の人たちは弱すぎたんです」
クスッと思わず笑みが漏れた。
戦いは元気になるのよ……お腹が減ってるとご飯が美味しいから!
不完全燃焼だから間食も少なめだったしね。
今度はきっちり燃え尽きるまで戦って、美味しいご飯を食べたいものだわ。
「まぁいいわ、その作戦で行きましょう。ロードラン、あんたも重要な立場に置かれるんだから頑張りなさいよね」
「うっす! 俺っち頑張るぜ!」
……なんでだろう、いちいち腹が立つわねこの人。
「さ、そろそろですよ。途中で必要なものが揃ってそうな場所に下ろしますので、準備しておいてください。私はそのまま飛んで砦の中で騒ぎを起こすのでその隙に」
「わかったわ。でも気を付けてね……作戦の結果は貴方にかかっているから」
「まぁ死なないように立ち回りますよ」
なんて話をしたのが数分前のこと……。
「ひょえ! まって! 死ぬ!」
嵐のような剣戟をひたすら避けに徹する私がいた。
砦に降り立った瞬間刀とか剣とか、とにかく武器を構えて襲い掛かってきたのよ。
英雄? なにそれおいしいの? 蛮族の間違いじゃないかしらと思うような人たちが。
……まぁ普通に考えればドラゴン殺せるような人が初回イベントの時にいた少年勇者みたいな見た目してるわけないわよね。
いるとしたらゴリラみたいなのでしょう。
事実私を殺そうと躍起になってる人たちは世紀末にいそうなモヒカンだったりスキンヘッドだったりの明らかにヤバイ人達。
けどだんだん動きも見えてきた。
「っ! そこ!」
斬撃の隙間を見つけて地面の石を蹴り飛ばす。
軽く足で押す感覚で射出したそれは一発の弾丸となってモヒカンの男を貫く。
光の粒子になっていくのを見てガッツポーズをしたくなったけれど後回し。
攻撃の手が一瞬でも緩んだのだから次の一手!
「はっ、ていやっ、ほっ!」
全身を使っての攻撃を繰り返す。
中国拳法の要領で両腕で前後の敵を殴り殺し、カポエラの要領で蹴り殺し、そして合気道と柔道を複合した要領で投げ殺す。
前線組とでもいうべきか、捨て駒組というべきか、三下はあらかた片付いた。
残るは魔法使いたちと……そして真に英雄と語られる存在達。
さっきまでの雑魚と比べたら威圧感が違いすぎる……。
背筋を冷たい汗が伝うのがわかる。
けれど、同時に頬がつり上がった。
「来なさいよ、楽しみましょう?」
笑みが漏れる……あぁ、久しぶりの戦場の感覚。
血沸き肉躍る得も言われぬ快感、この快楽に全てを任せて暴れてしまいたい……そんな欲求が………………いや待て、おかしいだろ。
私今まで戦場で快感とか快楽なんて覚えたことないぞ。
そもそも記憶にある戦場はアサルトライフルとかの近代兵器を使ってた。
でも脳裏で再生されたのは刀とか使ってる映像……相手も古めかしい鎧着てるし……うんうん、なるほどね。
「余計な邪魔すんなこらぁ!」
ズドンと右手を腹部に突き刺して膵臓を引っこ抜く。
今回は内臓一つで済んだわね、さっきまでの無駄な高揚感が消えて冷静になっていくわ。
「あーもう、余計な邪魔が入ったわ。どうせ死ぬときは一撃で死ぬからいいけど……ほらさっさとかかってきなさいよ!」
そう言って手にした膵臓を未だに強者感を出すためか座ったままニヤニヤしている魔女っぽい人の顔面に向かって投げつけた……うん、あの、悪気があったわけじゃないの。
膵臓だし柔らかいから大丈夫かなぁ……なんて思ってたんだけど……まさか顔面爆散させて背後できらきら光ってる砦の壁貫通するとは思わなかったのよ……。
だから皆さん落ち着いて……ね?
「って、やっぱ無理ですよねぇ!」
怒りを前面に押し出した英雄の皆さんが無言で抜刀して近づいてくるのは怖いって!
もうモツ抜きも自然にやる。




