作戦伝達
再度ログインして、黒砦に戻ると既に大賑わいだった。
「お、英雄のお戻りだ!」
「単独砦落とすとかどんな方法使ったんだよ」
「お、あれが噂の暴食さんか」
とりあえず暴食という名で呼んだ人にはパンチをお見舞いしといた。
……加減はしたつもりだったんだけど、首から上が吹っ飛んじゃったわ。
仕方なく飛んでった頭を拾って、首の上に乗せて「新しい顔よ」ってジョークを飛ばしたけど光の粒子になって消えていってしまった……。
しかも周りはドン引きしてる、解せぬ。
「ごほん……貴女が砦を落としたという?」
「え? あ、はい」
気まずそうに現れたのは山羊のような角の生えた女性。
悪魔ベースかしらね、他にも混ざっているのはわかるけれどどんな種族構成なのかはわからないわ。
「敵の数が減ったのはいい事だが、せめて一声かけてほしかった……とはいえこうなってくると後は小細工抜きの戦いになる」
「小細工抜きという事は普通に戦って、中間砦を占拠していく感じですか?」
「あぁ、まず一定以上のレベル、あるいは戦闘力を持つものが先陣を切る。砦を占拠した後は初心者組を送り込んでミニクエストを達成してもらい砦の守りを固める。これが今回の作戦になる」
「その口ぶりだと私も先陣ですよね。初心者組がミニクエストを達成するまで防衛する戦力も必要になってきますけど、その辺の対策は?」
「……君はこのイベントをどれくらい理解している?」
「え? 陣取り合戦という事くらいですかね。拠点を落とされたらその時点でゲームオーバー。死んでも復活はできるけれど回数はペナルティがあるから実質制限ありという事くらいじゃないですか?」
他に何かあったかしら……それらしい内容はなかった気がするんだけれど。
「知らないようだな……虹色の砦は知っているな」
「ゲーミング砦ですよね、あれがなにか?」
「ゲーミング……いやまぁいい。あの砦はNPCの拠点だ」
「NPC?」
対人イベントでNPCまで配置されているのね。
でも普通のNPCだと簡単に突破できそうなものだけど……。
「あぁ、虹色の砦にいるのは英雄や聖女といったNPCの中でも特に強い部類の者達だ。君も覚えがあるんじゃないか?」
英雄に聖女……前回のイベントにもいたわね。
でも聖女なら確か心臓を引き抜いたはずなんだけど……代替わりみたいなのがあったのかしら。
でも心臓そのものは堕ちた英雄さんが持って行ったわよね。
「どう説明したらいいかわからないが……現在過去未来のありとあらゆる英雄と呼ばれる存在がNPCとして配置されている。そこに生死は関係なくな」
「うわ……」
思わず声を漏らしてしまう。
という事は第一回イベントの時に出てきた勇者とかもいるんじゃないかしら。
聖剣、といっても贋作だったみたいだけどあれ結構厄介なのよね。
邪悪結界の時間が伸びているからそこまで脅威にならないとはいえ、直接切られたらさすがにまずいわ。
なんなら英雄さんが本物の聖剣を装備した状態だともっとまずい。
「貴女のことはそれなりに知っているつもりだ。ブログも確認させてもらっているからな」
「それはありがとうございます」
「あぁ、そして貴女が聖属性をある程度無視できることも知っている。ここまで言えば私が何を頼みたいかわかるかな?」
……とても嫌な予感。
多分この予感は的中するんだけれど、それでも答えたくないわ。
でもその渋い表情を見て満足げに頷いているあたり、逃げ道はなさそうね。
「虹色の砦にいる連中を抑え込んでほしい。できるだけ長くだ」
「……1時間、それが限界です」
「十分だ。虹色の砦にいるNPCは一度倒すと復活しない。その代わり一人一人が人並み外れた力を有している」
「そんなのを足止めって……死兵って言いません?」
「貴女なら死なずに帰ってこられるだろう?」
「いやいや……さすがに囲まれたら無理ですよ? 聖属性はどうにかなるとしても炎属性ぶっぱされたら死にますから。なにより今の私パワーこそあれど戦闘力という意味ではさほど強いわけじゃないですし……」
「なに、足止めさえしてくれたら十分だ。おそらく赤の砦にいる者達も虹の砦のNPCを足止めするべく人員を割くだろう。それらと協力しつつ、必要とあらば肉盾にするといい」
「えぇ……いやまぁできなくはないですけど……後ろから私が撃たれる可能性もありますよね。今日の午前イベントはポイントランキングトップですし、NPCを撃つよりも美味しいと思いますから」
戦場で怖いのは強力な敵よりも、無能な味方よりも、有能な裏切り者なのよ。
昔背後から撃たれたときは本当に死ぬかと思ったわ。
たしかあの時使われたのはダネルNTWっていう大きい銃だったと思うけど……全身がバラバラになるんじゃないかって衝撃だったわ。
血がいっぱい出たし、内臓はズタズタ。
おかげでしばらく入院生活でご飯も満足に食べさせてもらえなくてフラストレーションがすごかった。
「一応こちらも人員を何人か送るつもりでいるが、少数精鋭で頼みたい。貴女ならそれを任せられるし、私達は中間砦の確保に動きやすくなる。頼めないだろうか」
「むぅ……」
あまりやりたくないなぁ……。
せっかくリルフェンさん達やクリスちゃんと敵チームになったんだから本気で戦ってみたいという気もある。
だけどこの場の雰囲気で断るのもちょっと……。
仕方ない、サクッとゲーミング砦も落として中央線戦に突撃することにしましょう。
「わかりました。ただ気を付けてくださいね、今回私のリアルフレンドが何人か参加してて、初心者だけどRFB使ってるから相当強いですよ」
「ほう……ならばやはり中央に人員を集中させるべきだな。ぜひ頼んだぞ」
くっ、藪蛇だったか。
「わかりました。それで同行するのはどなたです?」
「紹介しよう、私のギルドでサブマスターをしているルリと、戦闘部隊員ではないが単独でそれなりの戦闘力を持つロードランだ」
その言葉と同時に前に出てきたのは一組の男女。
多分女性がルリさんで、銀髪ツインテールの可愛らしい女性。
見たところ人間かしら、持ってる武器はメイスね。
回復をしつつ自分にバフをかけて殴りに行く、俗にいう殴りヒーラーかしら。
もう一人のロードランさんは人気種族の鬼をベースにしたキメラ。
確かに単独で見れば戦闘力は高そうだけど、私含めて3人か……。
「もう少し人員欲しいですね」
「残念だがこれが手いっぱいだ。貴女とこの二人を割くというのはこちらとしても断腸の思いだったのでな。なにより中途半端な人員を送り込んでも貴女が苦労することになるだろう」
「ぐ……」
それを言われると弱いわ。
「わかりました。それでいつ行けばいいですか?」
「ふむ……作戦では中央部隊は10分後に出発、5分で最前線に到達する予定だからな……移動にどれくらい時間がかかる?」
「青砦と同じくらいの距離なら5分、ただしそちらのお二人を連れて飛ぶとなると10分は欲しいですね」
万が一ソニックブームとかで死に戻りされても困るから速度を抑える必要があるのよね。
そうなるとさっきよりもゆっくり飛ばなきゃいけないから時間はかかる。
「早いな、なら5分後に出発で頼む」
「わかりました……」
「二人もいいな」
「はい!」
「任せろよ姉さん」
そう言ってグッと親指を立てるロードランさん。
なんか今から心配になってきたわ……。
とりあえず5分ほど適当に砦の中をお散歩してから、二人を両手で抱えてゲーミング砦に向かって飛び立った。
さて、鬼が出るか蛇が出るか……あ、鬼は私だっけ。
あとロードランさん。
だんだん鬼の自覚ができてきたな刹那さん、そのギャグはリアルでやっちゃだめだぞ。




