みんな!お土産は持ったな!
10分くらい殴り合ったかしら。
お互いにボロボロの状態、強いて言うなら私はユニーク装備だから服だけは何とか耐えられた感じだけど刀君は防具もボロボロ。
まぁ刀君が銀のメリケンつけてたら負けてたけどね……。
前回と違って力試しと手加減の練習がメインだからあまり回避とかしなかったんからだけど。
いやぁ、刀君強くなったわね。
でもまだまだ技の方面で負けるつもりはないわよ。
「というわけで、これから聖都行くけどついてきてくれる?」
「いいけど……フィリ姉聖属性弱点持ってるだろ? 死ぬんじゃね?」
「魔属性よりの友達にお土産用意したいのよ。この辺りで買えるのって聖都くらいじゃない」
「……だとしたらマジでやめとけ? あそこに置いてあるの基本人間用で、化け物プレイヤーとかモンスターを遠ざける効果が付与された聖なるなんちゃら~しかないから。売ってる飯も大体祝福された聖水っていう上位アイテムを使ってるから食ったら死ぬぞ?」
「なにそれ美味しそう」
「……フィリ姉」
「わかってるわよ。私はいつか食べるつもりだけど、流石にそれをお土産にするのはね」
「つーかさ、黒砦で用立ててもらえばいいんじゃね? あそこ今プレイヤーもNPCも生産職や物売ってる人いるだろうから」
「そうなの?」
黒砦ではちょっと暴れたくらいだったからいまいちその辺見てないのよね。
もしかしたら砦の奥の方でやってるのかしら。
「白砦でもそういうプレイヤーは多いからな。ただ装備への属性付与がエルフの特権でそういうのはこっちの砦、武器とか作るのはドワーフの特権でどちらにもって感じだから属性武器が欲しけりゃ白砦なんだが……」
ちらりと周囲を見渡す刀君。
なんというか……白砦というには土煙のせいで古戦場とでもいうべき廃墟にも見えるわね。
私達の勝負に巻き込まれた人たちは軒並み医務室送りになって、NPCは昇天してしまったみたい。
うーん、困ったわね。
「料理特化はいないの?」
「聖都の市民はともかく上の人間になってくると粗食だからな、こっちにはいないよ。黒砦ならそこそこいるんじゃね? 化け物プレイヤーは最初から燃費が悪いみたいだし」
「なるほどね……あ、でも食材は買える? なんでもいいから私が食べても平気なお肉とかあるといいんだけど」
「それなら俺がいくつか持ってるけど……いいのか? トロールの肉とかオークの肉だぞ」
「わーお、脂身が多そうでいいわね。ハンバーグにするつもりだしちょうどいいわ。お金は払うから譲ってくれない?」
「ただでいいよ。その代わり今度リアルで飯おごってくれ、彼女を紹介するから」
「あの粗野で乱暴だったムラ君に彼女ができる日が来るなんて……お姉ちゃん感激」
「いや……俺がどうのじゃねえんだ。あっちがやたらアプローチしてきて気が付いたら外堀埋められて、そして既成事実作られて……俺、一生あいつに頭上がらない気がする」
「ムラ君を抑え込める女の子とかいないから逃がしたらダメよ!」
「逃がしてもらえないから困ってるんだけど……この前仕事でブラジル行ったらあっちの空港で待ち伏せされてた」
「へぇ、行動力もあるなんて気が合いそう! 日程は今度決めましょう!」
「あぁ……まぁこれな、肉。持って行ってくれ」
「ありがとねムラ君!」
お肉を貰ってさっき覚えた加減をしながら垂直にジャンプ。
10mくらい飛んだところで羽を出して、せっかくなので一度黒砦に戻る。
ちなみにドロップアイテムの中には人間の手足が入っていたり、なんちゃら将軍の首とか物騒なアイテムがあるからゴミになりそうなのは捨てて行こうと思ってのこと。
持ってると邪魔だからね。
「よっと、誰か責任者さん呼んでー」
「おーう、今連れてくるぞー」
私の声に反応した誰かが楽しそうに砦の奥に走っていった。
うーん、ごみをどこに捨てたらいいか聞こうと思っただけなんだけどな……。
「新たにこの砦を守ることになった伯爵級悪魔のロイ・マックという。何の要件か聞こう」
「ゴミってどこに捨てたらいい?」
「ゴミだと……? そんなことのために呼んだのか」
あら、お怒りの様子。
まぁくだらない理由なのは確かなんだけど、量が多いからね。
首が沢山インベントリに突っ込まれててだいぶ荷物が圧迫されてるのよ。
「こういうの。ちょっと腕試しに白砦に行ったらいっぱい手に入れちゃったのよ」
ポンッと首を取り出すと切り口から血が滴っている。
ちょっと勿体ないので手のひらですくってそれを飲む。
うーん、英雄さんとかの血に比べたら美味しくないわね。
「これは!」
「え? なに?」
なんか悪魔の人がすごくうろたえてるから驚いて首を落としちゃったわ。
ころころと転がっていくそれを悪魔の人は凝視してるけど……。
「常勝無敗、聖都の要、神に祝福された聖騎士と名高いシロマンディ将軍の首ではないか!」
「有名な人? なんか弟とじゃれてたら巻き添えで死んじゃったっぽいのよね。こんな感じの首が沢山あって邪魔なのよ。どこかに捨てたいんだけど」
「捨てるだと……? まだ使い道があるというのにか」
「え? 食べる? 脳みそは美味しいかもしれないけどお肉は可食部が少ないわよ?」
「食べんわ! 我が軍の士気をあげるためにもこれらの首は有用なのだ!」
「あー、さらし首にしてこんな強い敵も打ち取れるんだぞって味方を鼓舞するの?」
「然り! 今の脆弱な白の砦など我らが士気を高めれば簡単に落とせるだろう!」
どうだろ……刀君がいる時点で勝ち目って薄いと思うのよね。
あの子私やクリスちゃんみたいに技に長けてると簡単にあしらえるけれど、普通の人が力任せに挑んでも返り討ちにされるでしょうし。
なによりなんかよくわからないけど、ギアをあげたって言ってたあれ。
あんな反則使われたら一人で壊滅させられると思うわ。
「んー、私ほどじゃないけどあなたたちより強い弟がいるから難しいと思うわよ?」
「ふっ、所詮は人間。我らが甘い言葉を投げかけてやればたやすく堕ちるだろう」
「あ、それも無理。悪魔祓いとか悪霊退散はその子の得意分野だから。人外の言葉は聞く耳もたずってスタンスだもの」
「なんだと……だがこの好機を逃すのも……」
「好機でもなんでもいいけど、これどうする? あと100個くらいあるけど」
「全て頂こう。当然褒章も出させてもらう」
「え? お金くれるの?」
ごみを納品してお金貰えるとか予想外だわ……。
でもお金か……正直持て余してるから今更いらないのよね。
オンラインゲームは終盤とか、エンドコンテンツになってくるとお金で殴り合うという面があるし金策こそが最後の敵だなんて人もいるけど……。
「お金よりも食料貰えないかしら。生きた鼠とかいるともっと嬉しいわ」
「ほう、無欲なものだな。ならば一つ借りておくとしよう。鼠に関しては地下に巣食っているものがいる、数分貰えれば生け捕りにしてくるぞ」
「じゃあお願い、その間に首並べておくわ」
「うむ」
短い返事と共に消え去った悪魔の人、それを見送ってからインベントリの中にあった首を全部実体化させて順番に並べる。
なかなか猟奇的な風景ね……あ、これあの作戦が使えるかも。
そんなことを考えている間に悪魔の人が大人くらいの大きさの鼠を数匹捕まえて戻ってきた。
ご丁寧に鉄製の檻に入ってる。
「ご所望の鼠だ。しかしこれまたずいぶんと持ってきたものよ。ひとつの借りでは割に合わんな、これを持っていくがいい」
そう言って手渡してきたのは真っ赤なブローチ。
光にかざすと中に星のような光がいくつか見えた。
「これは?」
「伯爵級悪魔が認めたという証拠だ。これがあれば地獄も魔界もある程度の範囲でならば自由に動けるだろう」
「へぇ、その地獄とかってどうやったらいけるの?」
「む、知らなかったのか。この砦の奥深くに地獄へつながる門がある。そのブローチをかざせば自然と開かれるだろう」
「へぇ、ありがと。今度また来るわね。あ、首だけどここで並べるより槍に突き刺して砦同士の中間あたりに飾ると相手が嫌がると思うわよ」
「ほう、なかなか良い趣味だ。採用させてもらおう! いやはや、こちらにこれほど崇高な趣味を持つ相手がいるとは……今度夜通し飲み明かそうではないか!」
「それはこっちの都合次第。じゃね」
ばさりと広げた翼、手には鼠の入った檻を持って飛び立つ。
ちょっと試してみたらインベントリにしまえたから、何かしらの方法でアイテム化されていたんでしょうね。
これで妲己に鼠の天ぷらとハンバーグを食べさせてあげられる……久しぶりに会うけどたくさん作ってあげれば許してくれるでしょう。
私もお腹減ってきたし、せっかくだから一緒に食べようかしら。
あ、家具じゃないけどカジノで手に入れたアイテムのいくつかはNPC相手ならプレゼントできるかも。
いらない呪われた系のものあげたら喜ぶかしら……。
この後ゲーム内では「鬼! 悪魔! フィリア! 暴食さん!」という罵声が流行した。
なお本人を前に口にすることができる人材は勇者ゲキドしかいない模様。




