意外と仲のいい二人
武蔵坊さんに言われた通り力の制御をどうにかしよう、そう考えて足を向けた先は白砦だった。
いや、なんかここなら大暴れしてもいいかなって思ってさ。
どうせ聖都とは敵対関係にあるんだから今更敵が一人二人増えたって変わらないという事で意気揚々と正面の閉ざされた門を軽くノックしてもしもーし……というつもりでした。
手首のスナップだけで叩く軽いノックのはずが門が吹き飛んだ。
その先にいた運の悪い人たちが何人か巨大な門に押しつぶされながら、光の粒子となって消えていく。
……やっちゃった。
「黒の先兵だ!」
「敵襲! 敵襲!」
「おー、まじか。まだ休戦中だと思ってたけどイベント進行したのかな」
「しらね、でもNPC騒いでるし行こうぜ」
「よっしゃ、ここはお前らに任せた! 俺は先に聖都へ報告へ行く!」
「ふっ、お前だけにいい格好させるかよ。俺も行くぜ!」
「あ、俺も逃げるー」
「逃げるとかいうな馬鹿!」
うーん、NPCとプレイヤーで温度差凄いわね。
とりあえず服の下に隠してた蔦を伸ばして逃げようとする人を捕まえる……つもりだった。
うん、力加減間違えて首元でぷちゅんという小さな音を響かせて光の粒子になった。
蔦も攻撃力高いのかぁ……リアルじゃ持ってない部位だからいいけどさ。
とりあえず普通の行動ができるくらいには力を抑えられるようにならないといけないわよね。
軽く踏み込んで……いや、ほんとに軽くだったんです。
クレーターを作ろうとしたわけじゃないんですよ……。
「な、なんてやつだ!」
「あれってレイドボスかなんか?」
「いや、マーカーがプレイヤーだわ。しかもあれRFB使用中って書いてあるぞ」
え? そんなの見られるんだ。
設定いじるとできるのかしら、それとも何かのスキルみたいなもの?
うーん気になるけど、まぁいいわ。
さっきはクレーター作るのに反動全部持っていかれちゃって一歩も動けなかったから、今度はゆっくりと歩く。
……うわっ、なんか豆腐とかプリンの上歩いているみたいで妙な感じ。
地面がすごく脆いものに感じるわ。
「なんか歩き方変じゃね?」
「うん、おっかなびっくり歩いているような……」
「今のうちに攻撃決めたら勝てるんじゃね?」
「じゃあ俺行ってくるわ」
一人の剣士さんがこっちに飛びかかってきたけど、動きがすごく遅い。
スローモーションよりもさらにゆっくり。
持ってる武器は銀かしらね、まぁここで戦うならそれが一番だと思うけどそれなら防具も銀で固めておくべきだったと思うわ。
とりあえず手加減の練習だから……ゆるーくぱんち。
「おごぶぎょぇ⁉」
……なんか妙な悲鳴上げてきりもみしながら空中で爆発四散したわ。
ぐーぱーと手を開いたり握ったりするけど、やっぱりいまいち実感ないわね……。
逆に本気を出したらどうなるのかしら。
試しにおもいっきり右手を振ってみる。
するとその動きに合わせて空気が捻じれ、豪風となり、それは鋭さを帯びた刃となって白砦の人たちに降り注いだ。
捻じれた空気の進路上にいた人達は軒並みずんばらりん……思わぬ形で遠距離攻撃方法を手に入れてしまった。
まぁいいわ、本気を出したことで少しコツがつかめた。
地面を歩くにしてもどのくらいの力を込めたらまずいのかとか、そういうのもつかめたので今度はちゃんと軽めに走る。
地面を陥没させることもなく、人間の目でも十分に追える程度の速度で生き残りさんに接近。
今度は攻撃の手加減だけど……これは逆に武道使った方がいいわね。
トンっと胸元に拳を当てて……よしっ!
ちゃんと手加減できたわ!
そう思った瞬間だった。
「たわばっ」
拳を当てた人が爆散した……体内から外側にはじけ飛ぶようにして……。
二の打ちいらずとはいえ、こんな威力の攻撃じゃなかったはずなんだけどな……。
うーん、もうちょっと練習が必要かな。
しょうがない、ここにいる人達には犠牲になってもらいましょう!
「フィリ姉! なにやってんだ!」
「あ、ムラ君」
銀のメリケンを付けたムラ君が砦の中から飛び出してきた。
その表情は焦りの色が見えるけど……何かあったのかしら。
「……あれ? 会話できる?」
「なに? お姉ちゃんを化け物みたいな目で見たと思ったら、今度は会話もできない相手と認識してたの? 流石に怒るよ?」
「いや……その力……」
「あぁ、なんか変な声が聞こえてきてうるさいなーって思ってね。どうにもお腹の中から聞こえるから内臓引きずり出して片っ端から潰したら静かになったの。もちろんゲームの中の話だけど、あれなんかのイベントだったのかな」
「……まじかよ、そんな方法で試練突破した人間本家にもいねえよ……」
「え? 本家?」
「あとで電話かけるから詳しくはそん時……いや、永久姉から聞いてくれ。その方が話が早い」
「はぁ……あとリアルネームダメ絶対」
「それフィリ姉が言えるかよ……惨劇事件の時に思いっきりミカさんのリアルネーム呼んでたじゃねえか」
「あれは……まぁね」
惨劇事件というのは知らないけれど、祥子さんの本名をゲーム内で叫んでしまったのはあの一回きり。
だからだいたい察したわ、アレは確かに惨劇よね。
「まぁ呑まれたわけじゃないならいいか……で、どうよ。持て余してるのはわかるけど」
「そうなのよねぇ……ちょっと困ってるのよ。これリアルにも影響あるのよね、RFB使ってるから」
「まぁあるな。だからゲーム内でちゃんと抑え方見つけてくれ。こればっかりは感覚だから教えられないんだよ」
「じゃあムラ君、お手合わせお願いね」
「……まぁそうなるよな」
そこで刀君がメリケンを外し拳同士をぶつけ合い、目を閉じた。
一瞬、キーンとした耳鳴りがした気がすると同時に刀君から感じ取れる気配が数段上の物に跳ね上がった気がする。
「……前回は手を抜いてたの?」
「いんや、本気だったよ。今はギアをあげただけ……フィリ姉の一撃で死なないレベルにね。つっても死ぬときゃ死ぬから手加減の仕方を覚えるってのは忘れないでくれよ?」
そう言って構えをとる刀君、相変わらず両腕をあげているポーズ以外の何物でもない、そんな我流の構えだけど……以前と違って隙が無い……いや違うわね。
隙はあるんだけどそこを攻めようとした瞬間にこちらの動きを察知して対応しようとしてくる。
後の先究極形態と言ったところかしら。
だったら……トーントーンと軽く飛び跳ねる。
うん、これくらいならできるわね。
つま先が地面に着くと同時にステップの感覚で地面を踏み、距離を詰める。
よっし! 地面も無事だしうまくいったわ。
あとは攻撃関連だけど、とりあえず基礎の投げから!
相手を掴む力や、投げの時の体重移動を考えれば一番手加減しやすい攻撃方法よ!
「……アウトだフィリ姉」
「え?」
ブチブチブチという音と共にムラ君の着ていた服が破ける。
えぇ……?
「力込めすぎ、そんなんじゃこの服くらい簡単に破れちまうよ」
「そう言っても……かなりソフトタッチだったわよ?」
「普通の人間はゴリラのソフトタッチで死ぬんだよ」
む……ゴリラとは失礼な!
「ムラ君だってリアルゴリラじゃない!」
「俺は加減できてるからいいんだよ! フィリ姉はストッパーのない暴走ゴリラだって言ってんだ!」
「暴走ゴリラとかアラサイムの映画思い出すからやめてよ!」
「知らねーよ!」
ガンガンと拳をぶつけ合う音が響く。
互いに拳が潰れたりするけれど、私は自前の再生速度で、刀君は回復魔法で治して戦闘継続中。
「そもそもフィリ姉はいつも雑なんだよ!」
「ムラ君だって雑じゃない!」
「俺は繊細だから肝臓刺されたら1月は病院から出てこられねえよ! なに1週間で退院して食い倒れして大食い番組とか出てるんだよ!」
「まだ放送されてないはずなのに何で知ってるのよ! 食い倒れもしてない! ちょっと入院中に足りなかった栄養を摂取しただけ!」
「ミカさんがいろいろこっちに報告くれんだよ! つーかフィリ姉の収入の一部は自動的に母さんの作った口座に入るの知ってるだろ! そこで番組出演料って書いてあったんだよ!」
「忘れてた!」
「雑頭!」
「なにおぅ!」
「雑女! そんなだから彼氏できねえんだよ!」
「ムラ君だって彼女いない癖に!」
「うちに連れてこねえだけだ! 糞兄貴に寝取られるのはもうたくさんなんだよ!」
「ごめんね私が軽率だった! 今度紹介して!」
「うまい店に連れて行ってくれるならいつでも!」
途中からただの姉弟げんかになってる気がしてきたけど……まぁいいか。
刀君との手合わせでどのくらいの力までは大丈夫か、何となくコツがつかめた気がしたから。
この勝負が終わったら今度は妲己のところにでも遊びに行きますか。
お土産は聖都で買うとして……敵対関係だけど、刀君が一緒にいてくれたらなんとかなるでしょ。
そのためには刀君を死なない程度にぶちのめして引きずっていくのが一番かしらね……。




