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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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内なる狂気

 さてさて、面倒だったけど美味しいご飯を食べられるお仕事も終わったことで無事帰宅。

 ロッキーさんとかリルフェンさんとは軽くおしゃべりしたけど、他の人たちとは何か話す前に解散になっちゃった。

 まぁいいけどね。

 というわけで久しぶりのログイン、となったはいいんだけどちょっとおかしい。

 なんかアイコンがピコピコ言ってるのは運営からのお知らせだと思うんだけど、それはさておき……妙に動きにくい。

 設定画面を見ても特に何か変化があるわけでもなく、運営のメッセージもシステム関連の調整ではなく新規参入者を交えたイベントのお知らせだった。

 試しに最終ログアウト地点だった黒砦の壁を殴ってみるけれど、いつも通り何の変化もないしちゃんと壁にひびは入ってる。

 うーん、なんか妙に体が重いのよ。

 どうしたものかしら……。


「おお、お主はグランドクエストの時の」


「あれ、武蔵坊さん?」


 首をかしげているとひょこひょこ近寄ってきた人がいた。

 武道を嗜んでいるのは動きでわかるけど、なぜゾンビになったのかわからない人だ。


「妙にぎこちない動きをしているがどうした」


「それがですね……」


 簡単に事の顛末をはなす。

 理由はわからないけど体の動きが鈍い事、リアルで怪我こそしたけど傷跡もすっかり消えて後遺症もないこと、むしろリアルの方が調子がいい事などを交えて説明。


「ふーむ、もしかしたらアバターの能力がお主の肉体に追い付いていないのではないか?」


「えぇ? でもこれ純正の化け物アバターですよ。そんなことありますか?」


「わしとてゾンビの肉体、最初は動きにくくてかなわんかったがのう。RFBを使ってもなお動きが制限されるのはいい訓練となった。種族によっては肉体の動きに制限がかかるのではないか?」


「そんなもんですかね……じゃあRFBをオンにしてみますけど」


 ポチポチと設定画面でRFBをオンにする。

 確かに少し体が軽くなった気がするけど……まだちょっと重いかもしれないわ。


「うーん、少し軽くなったかもくらいですね」


「そうか、やはり種族的な何かがあるのかもしれんな」


「だとしたら知ってそうなのに聞いて回るのが一番ですね」


 とりあえず妲己に会いに行ってみましょう。

 あ、でもその前にちょっと力試しをしたいわ。

 壁を殴るだけというのも味気ない、誰か模擬戦してくれる人いないかしら。


「なにをきょろきょろしとるんじゃい」


「いえ、せっかくだから体を動かそうと思いまして」


「ほう……ならば目の前に最適な人材がおるじゃろ」


「え? お相手してもらえるんですか?」


「うむ、もとより鍛錬のために遊んどるようなものじゃ。VR武術関連は全て網羅してしまったしな」


「やっぱり……相当な腕前、さぞかし名の有る武人とお見受けしていましたが……私なんかでいいんですか?」


「ほっ、よく言うわい。お主とて相当なツワモノじゃろ」


「ツワモノかどうかはわかりませんが……相手していただけるのならぜひお願いします!」


 よろしい、と頷いてから武蔵坊さんは大きく飛びのく。

 空中で回転しながら後方に飛びのいてから手の甲をこちらに向けてかかって来いとジェスチャーをとった。

 先手は譲ってくれると……なら望むところよ!


「コー……ヒュー……」


「ほう、気功か」


 琉球空手を習ったときについでに習得した呼吸法、あらゆる武術の根底にあるのは歩法と呼吸法の二つ。

 これを正しく使えれば後の技は自然と身に着くものだと教わった。

 ならばまずは基礎からいくべきだろう。

 呼吸を整えて、数回跳ねてから足回りを確認する。

 右足を軸に、左足を持ち上げる。

 鶴の型を模した武術、確か中国で習ったんだっけかな。

 一見優雅に見えるけれどその一撃は重いこれを、武蔵坊さんの正中線……その中でも心臓を狙い10m近くある距離を一足に詰めて打ち抜いた……はずだった。


「ほっほっほっ、若いの。こうも狙いがわかりやすければ対処も楽じゃ」


 正確に心臓を撃ち抜いたと思った一撃。

 角度、タイミング、インパクトのすべてが奇麗に決まったと思ったのにそれを外された。

 完璧に全てをそろえたという事は、少しでも向こうが体を動かせば拳を当てただけになってしまう。

 赤ちゃんのパンチよりも弱い打撃にしかならないわ。

 言うは易く行うは難しを地で行く話だけど、一瞬で距離を詰めたのにそれを体幹をずらすことで無効化されるとは思わないわよ普通。


「次はこちらの番じゃて」


「っ!」


 すさまじい殺気を感じ取り一歩飛びのいた先で、背後から衝撃を受ける。

 ドクンッと、心臓が一瞬高鳴る。

 私が後ろに下がる瞬間に回り込んでの掌底……この人、マジで本物の武闘家だわ。

 それも武道とは違う、相手を確実に殺す武術の類を使う人……。


「はっ、はっ……はは、ははは、ははははは!」


 思わず笑いが込み上げてきた。

 なんで笑っているのかもわからないけれど、私の中で何かが殺せと叫びだす。

 その声は徐々に大きくなっていくのを感じ、そして殺せという声は嘲りを混ぜるように喰らえという言葉に変わった。

 それが私の声でありながらも、二重音声のように別の誰かの声が混ざっている気がしてならなかった。

 けれどそんなことを考える余裕はなく、だらりと垂らした両腕を軽く振る。


「む……」


 武蔵坊さんが構えるのが見えたけれど関係ない。

 武術? それは人間が人間を倒すために生み出したもの……ならば化け物相手に通用するはずがあるまい。


「しゃっ!」


 いつも通りに地面を踏みしめ、そして飛びかかる。

 不思議なことにここにきて体の重みは消えていた。

 過去に教わったいっさいを無視した攻撃、師匠や先生に見られたら何と言われるか……そんなことは頭の隅に追いやり今の自分にとって最適な動きをする。

 両腕を鞭のようにしならせ、しかし相手を叩くものではなく潰すための鈍器のように振り回す。


「ほぅ!」


 振り下ろした右腕をはじかれながらも、武蔵坊さんの腕から肉がこそげおちる。

 下から振り上げた腕はその腹部をかすめ、しかしごっそりと身を削った。

 両手のひらには肉の塊がこびりついている。


『喰らえ』


 今度ははっきりと聞こえた、私の中からする声。

 それは私に食べる事を強要してきた。

 ……………………。


「ちょっとたんま、いいですか?」


「ほ?」


 両手についた腐肉を地面に落として、両手を自分のお腹に突き刺す。


『な、なにを!』


「うるさいなぁ……えーと、この辺かな?」


 ずぼっと引き抜いたのは肝臓、この前の怪我と言い縁があるわね。


『やめろ!』


「黙りなさい」


 ぶちっと音を立てて私の肝臓……といってもアバターの物だけど、それが無残な肉塊になり光の粒子として消えていく。


『ぐぅ……!』


「しぶといなぁ」


 もう一度お腹に手を入れて、今度は胃を引っ張り出して潰す。

 口から血が漏れるけど無視、今はこの五月蠅いのをどうにかするべきだと思うから。


『待て! 待ってくれ!』


「却下」


 ばちゅんと胃を握りつぶす。

 声はだいぶ静かになったが、まだうめき声のようなのが聞こえてくる。

 うーん……もうこの際だ、がっつりやっちゃおう!


「大腸小腸引きずり出してー分離してー、はい縄跳びー」


『ぐおおおおおおおおおおおお!』


 地面で削られていく私の大腸。

 ダメージはあるんだけど、まぁ問題ないわ。

 続けて腎臓。


「蔦の養分となれー」


 がすがすと蔦で突き刺して穴だらけにしたそれを踏みにじる。

 そんなこんなで心臓と肺以外の臓器を全部引きずり出して潰すと声は聞こえなくなった。

 まったく、私に食べろと強要するのはNGよ。

 ご飯はね、感謝の心を込めていただくものなんだから。


「ふぅ、すっきりした。それじゃ再開しますか」


「……なにをしていたのだ?」


「え、何って……なんか変な声が聞こえてきて気持ち悪かったから内臓潰しました。そういえばここ数日妙に内臓がうずくというか、やたら食事を求めてくるというか……そう、内臓が私に命令してくるような感じがしてたんですよ! いやぁ、VRとはいえ気持ち悪いの引っこ抜くことができてすっきりしました」


「声……?」


「聞こえませんでした? さっきも引きずり出した後やめろだのなんだのうるさかったんですけどね」


「……いや、聞こえなんだ。しかしその様子では試合も必要あるまい」


「え?」


 言われて気が付く。

 体の重さが消えた、というかいつもよりも軽いくらいだわ。

 内臓が無くなったからじゃなくて、純粋に体が動かしやすい。

 テレビとかネットで言うところの混線が消えたような感じで、スムーズに脳からの命令が指先まで伝わるのよ。


「これは……何か知ってるんですか武蔵坊さん」


「さてな。しかし、強いて言うなら内なる鬼を打ち倒したとみるべきか……いや、鬼だけではないようだがなんにせよ強い意志の持ち主であるというのは確かじゃ。ほれ、あの壁をもう一度殴ってみるといい」


「はぁ……」


 言われるがままに砦の壁を殴りつける。

 さっき罅を入れた壁から少し離れたところ、傷が干渉しないような位置を狙って拳を叩きつける。

 するとどうした事だろうか、先ほどは亀裂と呼ぶにもおこがましいダメージしか与えられなかったのに拳が壁を貫通した。

 しかも周囲にいっさいのダメージを与えていない辺り、相当収束した威力だ。

 何より問題なのはRFBを起動したままだという事。


「これは……」


「古来より真の武道とは内なる鬼に勝つことこそが秘奥とされておる。お主はその秘奥に達したという事じゃ。ただ……RFBを使ってなおその状態という事は今後生活に支障が出るかもしれん。力の使い方をゲームの中で覚えるがよい」


 そう言って立ち去って行った武蔵坊さん。

 ふむ、確かにリアルでこんな力発揮しちゃったら祥子さんやクリスちゃんに迷惑がかかるわ。

 よし、しっかり訓練しよう!

 そう思った瞬間、視界が暗転して医務室のベッドで寝ていた。

 ……さすがに内臓引っこ抜きまくったら死ぬわよね、失血で。

 いや、その前にショック死するのかしら。

 まぁいいけどね。


暴走を伴うパワーアップイベントのはずでしたが、主人公の人外並の精神力を前にしては形を持たぬものなど取るに足らない存在でした。

結果力だけぶんどってった。

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― 新着の感想 ―
まぁそれでいいよ…… 死んでも死ななそうな邪神の娘はともかく祥子ちゃんは一般人だからね…… 呼び止めるために肩ポンしただけで半身削り落とされたらしぬやろ
[一言] >暴走を伴うパワーアップイベントのはずでしたが、主人公の人外並の精神力を前にしては形を持たぬものなど取るに足らない存在でした。 >結果力だけぶんどってった。  これ、タイトルを軽く越えてま…
[一言] 暴食さんに食べる事を強要するとは命知らずな内なる鬼さん(引き千切り→握撃→縄跳び→蔓刺殺
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