リアルミッション発生!
焼肉をいっぱい食べた帰りに近くのスーパーでカップラーメンを買い込み、家の鍵を開けると同時に私のスマホが着信を告げた。
「クリスちゃん先にお風呂どうぞ」
「はーい」
家を出る前にお風呂にお湯を張っておいたのですぐにでも匂いを落とせるようにしてある。
我ながら英断だったと思うけど、今はそれよりもこっちの着信だ。
「はい、伊皿木です」
「あ、伊皿木さんですか? こちら東邦テレビの企画部、東です」
「あぁ、東さん。お久しぶりです」
電話の相手は昔なじみの仕事相手、そして勤め人だったころの同僚だ。
今でもたまにお酒を飲みかわす間柄だったりする。
「先日入院されたと聞きましたがお加減はどうですか?」
「良好ですよ。強いて言うならお腹がすごく減るくらいです」
「そうですか……そんな病み上がりの伊皿木さんにはちょっと頼みにくい事があるんですが……」
「お仕事ですか? 別にいいですよ?」
「いえ、その、内容が大食い番組の出演でして……」
大食い番組かぁ……見る事はあっても出たことはないなぁ。
街中のお店でやってる食べ放題とか、何分以内に完食で賞金系は軒並み出禁になってるし……。
「いつですか?」
「それが明日なんですよ……中国から有名なフードファイターを呼んでいたんですが急遽キャンセルという事で違約金も貰ったんですが他のメンバーの都合上穴をあけるわけにもいかず」
「もしかしてとーてつさんですか?」
「もしかしなくても饕餮さんです」
やっぱりかぁ、あの人気まぐれだから一度引き受けた仕事でもちょっとした予定で簡単にキャンセルしちゃうのよね。
なまじお金持ってるし、名前も売れてるから厄介なのよ。
違約金だって億単位であろうと一括で払っちゃうし、この値段ならキャンセルしないだろうって場合でも普通にドタキャンしてくる。
かと思えばこんな格安で引き受けてくれるわけないよなってオファーに参加したりもするから読めない。
本当に気まぐれ、雲のようにつかみどころのない人なのよね。
「内容と他のメンバーっていうのを教えてもらえますか?」
「内容はチーム対抗戦の大食いです。フードファイター単独のチームに対して人数の多いアイドルグループと、現役ダンサーのユニット、それと大食い自慢をしているアングラのバンドのメンバーの4チーム対抗戦ですね」
「ほほう、その中で私はフードファイターチームとして参加すればいいんですか?」
「そうです。受けていただけますか……? 幸いというべきか、賞金が出るのと今回の出演料は饕餮さんの違約金でかさましできますので」
「まぁいいですよ。明日何時に行けばいいですか?」
「朝の6時に東京駅に来ていただけますか」
「早いですね……」
「えぇ、本来なら今夜から泊まり込みで明日の朝昼晩の食べた総量で決着をつける予定のプランでしたから」
「ということはもうカメラが回っているという事ですか?」
「はい……約束の時間になっても饕餮さんが来なくて嫌な予感がしたので方々に声をかけていたのですが、体調管理という名目で断られてしまったので……」
「なるほど……」
時計を見ると午後8時、今から東京駅に向かっても時間的には余裕がある。
とはいえ色々準備を考えるとそうも言ってられないのよね……。
「ちょっとごめんなさいね。クリスちゃーん」
「はーい」
反響した声が帰ってくる、お風呂場から返事をしたのだろう。
かすかにシャワーの音が聞こえるから髪の毛でも洗ってるのかしら。
「この後すぐに東京駅行くって言ったらどうするー?」
「東京駅ですかー? 私はどうすればいいですかー?」
「ついてきてもお留守番してもいいわよー……連れが一人増えてもいいですよね」
東さんに念のため確認をとる。
まぁ半ば事後承諾だけどいいでしょう。
「そのくらいであれば問題ありません。ホテル丸ごと借りる予定でしたので」
「あぁ、それだけ大掛かりなロケとなればキャンセルは無理ですね」
「そうなんですよ……それもあって伊皿木さんに声をかけさせてもらいました」
「私はこれからちょっとシャワー浴びてからそちらに行ってもいいですよ。不正を疑われても何なので」
「そうですか、助かりますが……」
東さんが消え入りそうな声で何かを伝えようとしたところでクリスちゃんの返事が聞こえる。
「ついていきまーす。面白そうなんでー」
「あ、同居人ついてくるみたいです」
「わかりました。ちなみにどういったご関係の方ですか? もしかして彼氏さんとか?」
「はっはっはっ、御社に勤めていた時に付き合った男性が最終遍歴ですよ。あの野郎……金をちらつかせて交際求めたくせに金を理由に逃げやがった……」
「す、すみません……」
「いえいえ、東さんが悪いわけではないので。おそらく今からだと……11時前後に到着する見込みですね。今夜一泊して明日の夜に解散って形ですか?」
「いえ、体調のチェックもかねて明後日までホテルに宿泊してもらうつもりです」
「なるほど、まぁ……ちょうどいいかな」
「ちょうどいいとは?」
「今ゲームの取材してまして、化け物になろうオンラインってゲームなんですよ。それがいま大型アップデート中でログインできず、明後日から再開予定だったので」
「なるほど、そういう事ならVOT付きの部屋を用意しますが?」
「いえ、なるべく外からはログインしないようにしていますから。アカウントの悪用って怖いですからね……」
「ははは、流石にしっかりしておられる。わかりました、では後程東京駅でお会いしましょう」
「はい、準備できたら行きますね」
プツリと切れた電話をポケットに自分の部屋に向かい適当な鞄に衣類を二泊分詰め込む。あとは化粧品……はいらないか。
どうせ向こうでメイクの人がいるだろうし、そもそも普段からすっぴんで出歩いてる。
持ってるものなんて化粧水くらいね……あとは必要に合わせてそこら辺の薬局で買ったものを鞄に詰めてたけどどれも期限的に限界でしょうね。
口紅もマニキュアも乾燥してそう、それくらい長いこと使ってない。
化けオン運営との対談ですら祥子さんにむりやりパフパフされたくらいだったわね。
はっきり言ってお化粧は食事の邪魔なのよ!
しかし急なお仕事……まぁ今日減った分を補完するという意味ではいいかもしれないわね。
うまくいけばクリスちゃんにも美味しいもの食べさせてあげられるかもしれないし。
あ、祥子さんにも一応連絡入れておこう。
もしかしたら明日帰ってくるかもしれないから。
あとは……さっき大量に買い込んできたカップラーメンだけどクリスちゃんがお風呂に入ってる間に食べちゃおうかしら。
200個くらいかしらね……まぁおやつよ、お湯を沸かす時間はないだろうからこのまま齧ればいいか。
今の刹那の満腹度は17%程度です、カップラーメンあわせて24%くらい。
東さんは人間です。
あと前話のカルマも一応人間。
饕餮さんはお茶の間で人気のフードファイターだったり。
なおキャンセルの理由は「急に火鍋が食べたくなったから重慶行ってくる」です。




