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化け物になろうオンライン~暴食吸血姫の食レポ日記~  作者: 蒼井茜


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ビルはこの後めちゃくちゃ爆破された

 朝起きて、クリスちゃんと祥子さんにおはようの挨拶。

 並んで歯を磨いてから、今朝はクリスちゃんお手製のポトフをいただく。

 素朴な味だけど何杯でも食べられるわこれ、すごくおいしい。


「そういえばせっちゃん、この後なんだけど化けオンやるつもりだったりする?」


「はい、久しぶりにログインしようかなと」


「今人が増えてるみたいでね、サーバー強化目的であと三日くらいはメンテナンスらしいわよ」


「えー……じゃあどうしよう、映画を見るか他のゲームやるか、それとも方々にお礼の電話かけるか……」


「電話に関してはこちらでなんとかしておくわ。だからせっちゃんは身体を休める事。傷跡も残ってないとはいえ大怪我だったんだから」


「あのくらいは割とよくある怪我なんですけどね……まぁそういうのであればこの三日はお休みにします」


「そうしなさい。逆に私はこの三日間が地獄よ、デスマーチの開始ね」


「そんなに忙しいんですか?」


 カチャカチャと二人でお皿を洗いながら大人のお話。

 クリスちゃんは朝ご飯を作ってくれたからこの時間は休憩で、祥子さんが洗って私が拭いて棚に戻す。


「まぁ、せっちゃんの情報を隠さなきゃいけないからね。それにどこの誰がどんな繋がりを持ってるか洗いなおす必要があるし、警備も強化……運営側の人にも個別で護衛をつける方針で固めたからその草案を上に提出して承認待ちの間に人選を済ませて……考えると朝から疲れるからこのくらいでいいかしら」


「はい、半分くらいなに言ってるかわかりませんでしたけど、忙しいのはわかりました」


 がっくりと肩を落とす祥子さん、テーブルの上に置かれた手帳はびっしりスケジュールが詰め込まれている。

 何なら三日と言わずに一週間、どころか半月かけてもいいくらいの仕事量だというのはわかる。

 主任という立場上、上下左右のせっつきが多いんだと思うけど……何か手伝えることないかしら。


「こーら、今何か変なこと考えてたでしょ」


「え? そんな顔してました?」


「してたわよ、どうせお手伝いできないかなとかそんなこと考えてたんでしょ」


「よくわかりましたね……」


「そりゃわかるわよ、せっちゃんはわかりやすい表情してるんだから」


 んー、そうかなぁ。

 むにむにと自分の顔を触ってみるけれどよくわからないわ。


「あのねせっちゃん、これはあまり大きな声では言えない話だから胸の内にとどめておいてね?」


「はい」


「化けオンのアップデートだけど、表向きはさっき言った通りサーバー強化。実際人数は増えているのよ、前にせっちゃんが誘った人達が次々にSNSとかで始めるって公開したからね」


 あ、ロッキーさんとかリルフェンさん、テンショーさんたち忙しい時期抜けたんだ。

 そっか、そういえば月末は病院の中で飢えてたっけ。

 もう月をまたいでた。


「だけどそれは表向きで、裏では護衛をどうするかとか、本社移転とか色々あるのよ」


「あれ? 本社って前に変えたばかりですよね」


 たしか立地のいいところに移るという事で、コンクリが剥き出しだったビルからこの近くに引っ越したはず。

 だから私もここにいるわけだし。


「うん、だけど運営の住所は表記通りにして人員を増やすだけと表向きには公表するの。裏では……そうね、今までの運営を本運営として彼らは政府の管理施設内で働いてもらうことになるわ。職場と住居を兼用した場所にね」


「はぁ、その名付で行くなら今の住所にいるのは偽運営ってところですか?」


「まぁ大体あってるわ。偽運営の仕事はそこに来た不審者を捕まえる事よ。プロの人間を使ってね」


「だとして、本運営はどこに送るんですか? そんな簡単に政府の管理地なんて用意できないと思うんですけど」


「自衛隊駐屯地、正確な場所はせっちゃんにも言えないけれど……皇居と国会議事堂に次いで防衛能力が高い場所を用意したわ。いわば自衛隊の中でも選りすぐりのエリートが揃ってる基地をね」


「それほぼ言ってるようなものですよ?」


「この情報でわかるのはその道のプロか、せっちゃんみたいな情報通だけよ。それに場所がわかれば突入は難しいでしょ?」


「まぁ……たしかに」


 強いて言うなら対策をじっくり練られた場合どう対処するかという点だけど、事後対策のことを考え始めるときりがないからね。

 あとは偽運営の方かしら……どうにも不安が残るというべきか……うーん。


「何か言いたいことがありそうだけど?」


「いえ、偽運営の方なんですけどね。せっかくならもっとセキュリティを強化しませんか?」


「強化って……どうするの?」


「具体的な方法は伏せますけど、祥子さんが苦手な呪いとかそういうのを永久姉に頼むんですよ。どうにも永久姉、ゲーム内で有名人になるほどハマってるみたいなので化けオン運営守るためならだいたいのことやると思いますよ?」


「それは……気は乗らないけれど試してみる価値はあるのかしら」


 お、加減していたからかよわよわにならなかった。

 ふむ、善は急げというしせっかくだからすぐに永久姉に電話してみよう。

 祥子さんに電話を掛ける事を伝えると快諾とは言わないまでもうなずいてくれたので電話帳に登録したナンバーから永久姉に。

 数回のコール音の後眠そうな声の男性が電話に出た。


「どちらさん?」


「それはこっちの台詞なんですが……この電話、永久姉のですよね」


「え? あ、まじだ間違えた……ごめんよ、今かわる」


「はぁ……」


 電話の、向こうで足音やら叫び声が聞こえる。

 とわーでんわーとか、なにーいまお化粧中ーとかそういう日常的な声。


「もしもし? 誰?」


「刹那だよ永久姉。ちょっと相談があって電話したんだけど、今のはどなた? 彼氏さん?」


「そう、彼氏。刹那の部屋に住むようになってからご近所さんに幽霊騒動の始末を頼まれてさー。その時の伝手で昔の恋人の生霊が~って人だったんだけど、好みのタイプだからゲットしちゃった」


「しちゃったって……」


「刹那もアラサー組なんだから、そろそろガツガツいかないと行き遅れるわよ?」


「やかましい! ……まぁそんなのはどうでもいいんだけど、化けオンの話聞いてる?」


 世間話はそこそこにしよう。

 とりあえず本命の話に移るべきだと思うし、祥子さんも後ろで不審そうに見てるから。


「あー、あんたが刺された話ね。それでセキュリティ対策で運営を自衛隊駐屯地に移しつつ罠を張るってやつ?」


「そうそれ、それで永久姉には呪い的な方法でセキュリティを強化してほしいなと思って」


「えー? そういうのじっちゃんの専門じゃない?」


 じっちゃん、この場合先代のお祓いをしていたお爺ちゃん……お父さんのお父さんではなく、お母さんのお父さんの方のお爺ちゃんのことなんだけど……まぁお爺ちゃん同士で敵対してたことがあるくらい有名な呪い屋さんだったって話。

 暗黙の了解として分家同士の争いとなった時は本家が仲裁に入るんだけど、その本家すら立ち寄れないほどの激闘を繰り広げていたとかなんとか。

 まぁどこまで本当かは知らないけれどね。


「でもお爺ちゃんも歳だし、今は趣味の盆栽でお爺ちゃん同士張り合ってるじゃない? 邪魔するのも無粋だと思うからさ」


「うーん、まぁいいけど自己流でいい? あと送り込む人員こっちで決めていいならやるけど」


「ちょっと待ってね。祥子さん、永久姉が偽運営の人事権欲しいそうです」


「まぁ……プロならなんでもいいけど? 偽運営に突撃してくる人間を捕まえられるなら」


「聞こえてた?」


「聞こえてたよ、そういう事なら腕が鳴るわね……まずは中身を外に漏らさないための結界を……24層は必要ね、万が一を考えてその倍は用意したいところだわ。それから中に入った人の精神を狂わせるために猟犬代わりの悪霊、これはちょうどいいのがここに住んでるからこれを送りましょう。あとはそうね、結界のせいで入れないだろうから先に魑魅魍魎を集めておいて……せっかくだからこの前覚えた黒魔術も試して廊下の一部を異界化させてみましょう。何なら地獄直通の道も開いておこうかしら……うーんいろいろやりたいことが多いわ!」


 生き生きとし始めた永久姉。

 後ろでは祥子さんが耳をふさいでしゃがみ込み、プルプルしている。

 うん目の保養になった。


「まぁ詳しくは永久姉に任せるからよろしく。あまり変なことしないでね?」


「りょーかいりょーかい、お姉ちゃんに任せなさいってね」


「それと、化けオンの中でPKされたりしても相手を呪っちゃだめよ」


「あーっと電波が悪いのかしらねーごめんねー」


 わざとらしくマイクの部分をがりがりひっかいてから電話を切る永久姉……今度お父さんに報告ね。


「祥子さん、終わりましたよ」


「こわいの、いやよ?」


「大丈夫です。怖いのは永久姉がやらかした後なので」


「こわいの、やだ……」


「いざとなったらぶん殴っていいですよ」


「怖いの……壊す……」


 うんうん、順当によわよわからデストロイモードになった。

 これなら安心して仕事に送り出せるわ。


「っと、祥子さん。そろそろ時間ですよ」


「はっ……私はいったい……あ、時間だったわね。うん、そろそろ行ってくるわ」


「はい、お気をつけてー」


 祥子さんを送り出して一段落。

 しかし……駐屯地に運営を置くという事は私はお払い箱かしら。

 あぁでもゲーム内の情報収集の仕事は残ってるから、情報の運び人という仕事が終わっただけとみるべきね。

 あとは祥子さんをバックアップするくらいかしら。

 必要に応じて運営にお邪魔することもあるかもしれないけど、その辺はまぁなんとかしましょう。

 さてさて、せっかくできた休日……やることもないわね。


「クリスちゃん、映画でも見る? ポップコーン作るわよ?」


「見まーす! あ、祥子さんからせっちゃんに料理させるなって言われているんで私が作りますね」


「包丁も使わない調理だからいいと思うんだけどね……」


「それでも約束なんで。気になるっていうなら最初の1本は私に選ばせてください!」


「じゃあそうしましょう。今日はクリスちゃんのオンライン授業の時間以外は全部映画でも見ようかしら」


「あ、私も今日は休みなんで一日見ましょうよ!」


「昨日に引き続き、映画鑑賞ね。丸一日……いえ、三日間となると動画サイトの映画何本でも見られるわね」


「じゃあダーク霊シリーズ全部見ましょうよ! それとコランボー! あ、南瓜と鋏のアニメとムーンプリンセスのアニメも見たいです!」


「全部見ましょう。最初はそうね……ダーク霊シリーズ時系列順で『ダーク霊参上』からかしら」


「わーい!」


 ふふ、クリスちゃんも楽しそう。

 今日からは映画とアニメ祭りね……そういえばダーク霊シリーズは特に関係ない作品にゲスト出演したのも含めると3000本いくんだったかしら。

 ダーク霊メインでも1000本超えるから三日じゃ足りないわね……。

 というわけで今日から三日間、怠惰に過労死しそうなダーク霊を見守ることにしましょう。

 なお耐久で14時間ほどダーク霊シリーズを見て、疲れ始めたクリスちゃんは早々にギブアップ。

 私もギブアップして、機動兵器ガンザムシリーズを視聴することにした。

 なおこれも100本以上の超大編なんだけど、クリスちゃんは楽しそうに見てたわ。


 この子、妙なところで感性が男の子してるのよね。

 ロボットゲームやると「パイルバンカーは浪漫! 当たり判定が1フレームしかなくても当てるのがプロというもの!」とか言い出すし、格闘ゲームだとティッシュの半分の防御力とか言われるキャラクターか、コンボが決まれば一撃必殺だけど攻撃の発生が遅すぎて絶対決まらないキャラを使ったり、ガンザムシリーズでは自爆する機体が大好きだったりするから。


 私はその辺、あまりよくわからないけどかっこいいとは思うわよ?

 でもこの子、ロボットを自分で組み上げるオンラインゲーム「ヴァルキリーギアオンライン」ってゲームでパイルバンカーと1発限りの核ミサイル詰んだ浪漫機体でランキング入りしているくらいだから……まぁセンスと才能だけで何でもこなしてるのよね。

 今度許可とってクリスちゃんの浪漫動画でもブログにアップさせてもらおうかしら。


別に爆破はされませんでしたが、偽運営関係者の通勤が大変になりました。

代わりに永久さんの部屋はある程度すっきり。

彼氏さんは生きてる人間のが怖い派です。


補足:ダーク霊シリーズ

現在3789本の劇場版と、78シーズンに及ぶ超大作のドラマが作成されている。

歴代ダーク霊役の人は大体身体壊して引退する宿命にある。

それは着ぐるみだったころから、CGになった今でも変わらない。


機動兵器ガンザム

赤いロゴの企業に所属していた監督が作ったアニメシリーズ。

放映開始時点では視聴率3%前後だったのが打ち切りになってから大人気になった。

現在187作品のアニメ化とその3倍のメディアミックスが行われている。


南瓜と鋏

戦争の終わった後に残された爪痕に苦しむ人たちを救うチームの物語、メタな話元ネタあり。


コランボー

いうまでもなくアレ。


ムーンプリンセス

最近リメイクしましたね、まだクリアしてません。

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― 新着の感想 ―
アラサー…… 20後半なのか30前半なのかで評価がきまるぞ……? いやでも28くらいの生保のお姉さん普通に美人だしな 新陳代謝バケモンだからきっと見た目美人な高校生くらいだろうし、女性平均身長な祥子ち…
[一言] ダーク霊役の人が体壊すのはもはやダーク霊という存在が過労を象徴してる気がする
[一言] お疲れ様です これからも頑張ってください 楽しく読ませてもらってます
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