L○NE交換しました
お好み焼き代は迷惑を掛けてるからと、半田が手早く会計した。
藍香も、そこは素直に奢って貰うことにした。
また家まで送ってもらうと、別れ際に半田が
「あっ」
と、声をあげた。
「どうかした?」
藍香が聞くと、少し間があってから
「L○NE交換したいなと思って」
半田はスマホを出して言った。
「あ、そうだね!」
藍香もスマホを出すと、半田のスマホと、ふるふるした。
(男子とL○NE交換しちゃったよ)
何か気恥ずかしいくもあり、嬉しくもあった。
すると、L○NEの通知音がした。
『これから、よろしくお願いします』
お辞儀をした熊のスタンプ
と、半田から送られてきた。いつの間にと思いつつ藍香も
『こちらこそ、よろしくお願いします』
キラキラ目を輝かせたウサギのスタンプ
を、送った。
半田はスマホを見て微笑むと鞄にしまい
「またL○NEするね。じゃっ」
と、言って手を振ると自転車に乗る。
「うん。またね」
藍香も微笑み、手を振った。
半田は、しばらく行くと前日同様に振り返り、また手を振った。藍香も振り返して見送った。
「何、遂に彼氏が出来たの?」
背後から突然、声がして藍香は飛び上がった。
「お母さん!背後から止めてよ!」
藍香が文句を言うと、藍香の母、香織はケラケラ笑う。藍香と同じく小柄で細身、髪は染めていて茶髪のショートヘア。性格は、さっぱりしている。藍香が家に招いた友達と話していると、すぐ仲間に入りたがる人懐っこい所もある。
「ごめん、ごめん、で?彼氏なの?」
「友達だよ。同じ図書委員なの」
母親には嘘を付きたくないし、かといって本当の事も言いにくい。
「えー!本当に?彼氏じゃないの?」
「違うよ!てか、何で外に居るのよ!」
母はスーパーでパートをしているが、16時までなのだ。今は18時。それにエプロンをしていた。
「回覧板を渡してきたのよ」
母はケロッとして言った。
(何てタイミングの悪い)
藍香は、がっくりする。
「もー寒いから、中に入ろうよ」
「えー?何何々よ」
藍香は母の背中を押して家の中に入った。
それから藍香は2階の自室で部屋着に着替えると、夕食のために下に降りた。
母は、まだ料理をしていた。出汁の良い香りがする。
「今日は何?」
「おでんだよ」
「やった!糸こんにゃくと餅巾着、入ってる?」
「もちろん。藍ちゃんの好物だもんね」
藍香は上機嫌で鼻歌を歌い、テーブルを布巾で拭くと食器を並べる。藍香は独りっ子なので、母と父とで3人分だ。
「ただいまー」
タイミング良く父の忠雄が帰ってきた。藍香は迎えに行く。
「おかえり。今日は、おでんだよ」
「良いね!寒くなってきたからな」
忠雄は市役所勤め。中肉中背、少し白髪混じりの短髪で、性格は大人しくて温和。煙草も吸わないし、お酒は付き合う程度と模範的な父親だ。趣味はカメラと旅行で、家族旅行も良くする仲良し一家だ。
因みに藍香の顔は父親似である。
「藍ちゃんね、彼氏が出来たみたいよ」
香織は、着替えてテーブルについた忠雄に言うと、出来上がった、おでんの土鍋をテーブルに置いた。
「だーかーらー、友達だって!」
藍香は、うんざりして訂正する。
忠雄は、ほっとした様子で
「藍香がそう言うならそうなんだろ、変に勘ぐるなよ」
と、言うと香織は口を尖らせて
「何よ、娘に彼氏が出来るの嫌なだけでしょ」
文句を言うと、忠雄の茶碗に、ご飯をよそって渡した。
「あ!そうだ」
藍香は両親のやり取りをスルーして、スマホを取りだし、おでんの入った土鍋の写真を撮り出した。
「何やってんの?」
香織が聞くと
「折角だから、友達に送ろうと思って」
藍香はニンマリして、スマホを操作している。
「ふーん、友達ねぇ」
「お母さん、くどいよ」
藍香が睨むと、香織は舌を出して肩を竦め、大人しく食べ始めた。
忠雄は、やれやれと2人のやり取りに呆れ、無言で大好きな卵にかじりついた。
すると、L○NEの着信音がして藍香は急いで確認する。素早く香織が覗き
「向こうはカレーか」
「もー!覗かないでよ!」
「別に友達なんだし、いーじゃん」
「そう言う問題じゃないでしょ!」
藍香は母に背を向けて、スマホを隠すように返信する。
半田から
『おでんか良いね!うちはビーフカレーだよ』
と、ビーフカレーの写真
『ビーフカレーも美味しそう!』
と、返した。他愛もない事が何故か楽しい。
おでんも美味しい。藍香は嬉しそうに、少し冷ました餅巾着を頬張る。
「中高生から、男子の友達なんて初めてじゃない?最近?」
香織に探るように聞かれる。
「まあね。前から知ってはいたんだけど、仲良くなったのは昨日から」
藍香も別に秘密にするつもりは無かったので、答える。
「名前は?どういう子なの?」
「半田和樹君。優しくって良い人だよ。話しやすいし」
「写真は無いの?」
「無い」
「今度、撮って見せてよ」
「分かった、分かった」
次々と質問され、げんなりした藍香は急いで食べると、食器を洗いに逃げた。
香織は聞きたい事は粗方聞けたので満足した。忠雄は本当に友達でありますようにと願った。
藍香は好きなテレビを見てから、お風呂を済ませると2階の自室のベットに寝転んだ。
すると、L○NEの着信音が鳴り、見てみると博美からだった。少し残念に思いつつ読むと
『今、何してる?』
ごろごろした猫のスタンプ
藍香は『まさにごろごろしてた』と、返す。
『あれから何かあった?』と聞かれ、付き合う振りをする事になったと伝えると
電話が鳴った。
「はい、もしもしー」
藍香が話す間もなく
「どーゆーことよー!!!!」
博美の絶叫が耳に響く。
(そりゃあ、驚くよね)
藍香は経緯を説明すると
「藍ちゃんは人が良いねぇ、でも……面白そう」
博美は完全に他人事である。
「でも、あの藤崎さん大丈夫かな?面倒な事にならなきゃ良いけど」
「それは確かに……でも、まぁ大丈夫でしょう」
「あー考えるの放棄したな」
「だって、考えたってしょうがないし。引き受けちゃったし」
「だよねー。私も協力するからね!」
「ありがとう!」
おやすみと電話を切ると、藍香は少し不安になった。
博美の予想は良く当たるからだ。
また、L○NEが来たので見ると、半田からだった。
『まずいことになった』
『どうしたの?』
藍香の不安は広がる。
『今度の日曜空いてる?』
『空いてるけど?』
『裕也に付き合ってるって話をしたら、まぁ、美鈴に伝わるよね』
『うん』
何だろう……不安が益々、広がる。
『ダブルデートしたいって言われて』
本当にね、博美の予想は当たるよね。
藍香は覚悟を決めて
『分かった』
OKのウサギのスタンプを押した。
『本当に?助かる!ありがとう!』
涙を流してお辞儀する熊のスタンプが送られてくる。
詳細は又、後日となり、おやすみとウサギのスタンプを押した。
明日、博美は絶対に言うだろうな
「だから言ったじゃない」
と。
一番、長くなりました。
お約束な展開です。
本当は2人きりのデートを経てからにしようと思ってたのにな。あれ?