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彼氏(仮)出来ました  作者: 卯月いちこ
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猫舌と手のひら

藍香と半田は、お好み焼き屋さんで向かい合い、お好み焼きを焼いていた。カウンター席もあるが(くつろ)いで喋りたかったので、靴を脱いで座る掘りごたつの方を選んだ。


「良い匂い」


藍香は鼻孔(びこう)(ふく)らませ、お好み焼きの香りを嗅いだ。


「焼けてきたね」


半田は仕上げのソースをたっぷり塗り、マヨネーズを格子状(こうしじょう)にかけると青のりと鰹節を散らした。藍香もソースをたっぷり塗るとマヨネーズを勢いよく斜めにかけ、青のりと鰹節を円を描くように散らす。


「プロっぽい!」


半田に誉められて、どや顔する藍香。半田は思わず笑う。


「さー、食べよ」


いただきますと、2人は食べ始めるが猫舌の藍香は


「あつっあ、あつっ、ふーふー、あつっ」


と、何回か息を吹き掛けるも、中々、食べれない。


「どんだけ猫舌なのよ!ぶはっ!」


爆笑の半田に藍香は、しかめっ面で睨む。


「うぅっ~!熱いの食べれるからって!」

「知ってる?猫舌って、食べ方が下手くそなんだって」

「そ、そうなの?!」

「前にテレビで、やってた」

「えー!何かショック」


藍香は項垂れると、うっかりそのまま、お茶を飲もうとして


「あちっ!」


と、舌を火傷してしまう。半田は、大丈夫?と言いつつ笑っていたが、藍香が舌を出して痛そうなので店員さんに湯飲みを頼んだ。


「ちょっと貸して」


半田は藍香の湯飲みを持つと、お茶を器用に空の湯飲みに移し、また移し返す。それを2回繰り返し


「これで飲めるんじゃない?」


と、藍香に湯飲みを戻した。


「おー!ありがとう」


藍香は、お礼を言って飲んでみる。


「本当だ!丁度良いよ。上手に移したよね。私だったら絶対こぼしてたよ」


藍香は感心する。


「手が大きいから、やり易いのかもね。また、やってあげるよ」


半田は大きな手を広げて言った。


「本当だ。大きいね!合わせてみても良い?」


藍香がそう言って、自分の手のひらを差し出すと半田が合わせてくれる。


「ちっちゃ!」


思わず半田が言うと


「私、女子の中でも小さいと思うよ……」


藍香は、へこむ。


「可愛らしいじゃん」


半田が微笑んで言ってくれたが、藍香は大きく(かぶり)を振る。


「指も比例して長くないし……ピアノだって遠い所は届かないんだよ」

「ピアノ習ってるの?」

「小さい頃にね。左手を習う前に辞めたけど」


藍香は苦笑した。半田は、お好み焼きを食べながら


「俺も習ってたよ。中学1年まで、部活が忙しくなって辞めたけど」


さらりと言った。


「えーっ!ピアノ男子!格好良い!」

「そうかな」


半田は照れたのか、少し赤くなって鼻の頭を掻いた。

藍香は、こういう意外性に超、弱いのだ。

(半田君ちょっと待って!何それ!)

その上、音楽が出来る男子とか超、超、弱かった。

(とんだ飛び道具を出してきたぜ)

ちょっと興奮し過ぎだ。冷静にならなくてはと、皿の上の少し冷めた、お好み焼きをばくばく食べる。

(仮の彼氏なんだからね!仮の!)

藍香は気持ちを落ち着かせ、会話を続ける。


「ピアノだと、その大きさが生きるよね」

「確かに、届かないとかは無かったかな」


半田は手をひらひらさせる。

藍香は、ちんまりした自分の手を見る。


「私、自分の手が小さいから、すらっとした手に憧れるんだよね」

「そう?別に小さくても良いのに」

「半田君、大は小を兼ねるんだよ!」

「そんなもんかな。あ!」

「あ!もとい!和樹君」


藍香は頬を軽く叩く。名前呼びは慣れるまで時間が掛かりそうだ。はっと、藍香は(ひらめ)いて


「これから名字で呼んだら罰金100円とか、どう?」


と、提案した。


「あー良いね!乗った!」


半田は面白そうに承諾する。


「付き合ってる振りって事、親しい友達には喋っても良いのかな?」


藍香は確認したかった事を聞いてみた。

半田は(あご)に手をやり、成る程と考えてから


「口の固い人なら大丈夫かな。頼んどいて、あれなんだけど」


と、申し訳無さそうに言った。


「分かった。ありがとう」


藍香はお礼を言うと、頭の中で博美は大丈夫。早恵はお喋りだから止めとくかと取捨選択する。


「後は何かあるかな?」


半田は、お好み焼きを食べ終わり、お茶を飲みながら聞いてきた。

藍香は、まだ少しある、お好み焼きを食べながら考える。ふと、朝の出来事を思い出した。

(やっぱり言っておいた方が良いよね)


「あのね、言って無かったんだけど……朝、藤崎さんが昇降口で待ち伏せしてて」

「へぇっ!!」


半田は驚いて身を乗り出す。


「確認?というか……まぁ、その時、友達も居たんだけど友達いわく、私を見定めしに来たんじゃないかって」

「見定め?」


半田は首を(かし)げる。


「多分、私がどんな人か気になったからだと思う」


藍香は言い方を変える。


「あぁ……うん……」


半田は座り直す。


「それで……その時に……」


話しづらそうな藍香に半田はピンと来たようで


「何か言われたの?」


と、聞いてきた。藍香は耳元で(ささや)かれた言葉を、そのまま伝えると


「はぁ!?何それ?何なの?」


半田は訳が分からないと頭を抱える。


それはそうだろう。榊と付き合ってるのに、半田の周りに異性の影がちらつくと、気になって相手に嫌みを言ってくるとか、全く何がしたいのか。

彼女に振り回されている半田が気の毒だ。


半田は深い溜め息をつくと


「三島さん、本当にごめんな。嫌な思いさせて」 


と、言って両手を合わせて謝った。


「全然、良いよ」


藍香は、にっこり笑うと、片手の手のひらを半田に差し出した。


「はい。100円」

「あ~っ!」


半田は、しまったと()()った。


ピアノ男子良いよね!

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