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彼氏(仮)出来ました  作者: 卯月いちこ
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椎名陽治の片想い

初キャラの椎名君の視点です。

「何で……あの子が半田と」


椎名陽治(しいなようじ)はサッカー部の練習中、思わず足を止めて下校中の藍香と半田を凝視した。

そこへー


「危ない陽治!!」


豪速球のサッカーボールが直撃した。陽治は倒れ込み動かない。皆が駆け付け、グラウンドは騒然とした。


「大丈夫か!陽治!」

「おい!しっかりしろ!」


陽治はメンバーに抱き(かか)えられながら


「嘘だ……嘘だと言ってくれ……」


朦朧(もうろう)と呟くと意識を失った。


「駄目だ。保健室に運ぶぞ」

「俺が頭の方持つから、お前は足の方、頼む」

「分かった!」


急いでメンバー逹が陽治を持ち上げ、保健室に向かう。


「私も付き添います!」


マネージャーの菊川絵莉(きくかわえり)は慌てて後を追った。



しばらくしてから、陽治は目が覚めた。

(あれっ?ここはー)

白い天上に、白いカーテン、横を向くと菊川が心配そうに覗き込んできた。


「目が覚めた!良かったー!椎名君、気分はどう?大丈夫?」

「保健室……俺……どうして?」


陽治は、まだ寝ぼけ(まなこ)で呟く。


「椎名君がプレイ中に立ち止まって余所見(よそみ)してたから、ボールが当たって倒れたんだよ。心配したんだから」


菊川はそう言うと大きな瞳を潤ませて、陽治の手を握る。


「そっか……悪かったな」

「でも、どうして余所見なんかしてたの?」


陽治はフラッシュバックのように、下校中の2人を思い出した。


「あーーっ!」


陽治が突然、叫び、菊川はびっくりして手を離す。すると陽治は布団を頭まで被った。


「えっ!ちょっと!だ、大丈夫?どうしたの?」

「大丈夫……もう少し休んだら戻るから、皆にはそう伝えといて」


陽治は布団を被ったまま、そう言うと。


「わ、分かった。そうだよね。皆、心配してるだろうから先に戻るね。無理しないでね」


菊川は布団をポンポンと叩くと、保健室を出て行った。


誰もいない保健室で、グラウンドからの声が微かに聞こえる。陽治は布団から頭を出すと、大きな溜め息をついた。

(やっと出会えたのに……)


あれは先月の体育祭だった。

騎馬戦で大将だった陽治は、ハチマキ取りの揉み合いで、派手に落ちて右腕を怪我をしてしまった。

救護班に行くとー彼女が居たのだ。

小柄で色白、髪は黒に近い茶色で、ストレートボブの大人しそうな女の子。


「わー結構、派手に擦りむいてるね!痛いでしょ」


そう言うと、近くの水道場まで陽治を連れて行く。


「綺麗に洗い流さなきゃ。()みるけど我慢してね」

「大丈夫」


陽治は覚悟して水道水で傷を洗う。滅茶苦茶、痛かったけど見栄をはって我慢した。


「拭くとき痛いけど、もう少し我慢してね」


彼女は水気をガーゼで、優しく、そっと拭き取る。

陽に当たった彼女の髪が薄茶色に見えて、その髪がさらさらと音を立てるように落ちる。

痛いはずなのに、陽治は、ぼうっと彼女を見ていた。

彼女は真剣な顔付きで、フィルム付きのパッドを貼り付けた。


「ふーっ。取り合えず、これでよし!応急処置だから、念のため後で病院に行ってね」

「あ、ありがとう」


陽治は何故かその場を離れがたかった。しかし、処置も終ったのだ。立ち去ろうとすると


「あ、ちょっと待って」


彼女は陽治の背中の汚れを払ってくれる。


「ありがとう」

「どういたしまして。気を付けてね」


彼女に微笑んで見送られた。

(何て良い子なんだ)

陽治は、きゅんとして頬を染める。怪我をしたのに浮き足だって戻っていった。そして、後で重大なミスに気が付いた。

彼女の名前を確認し忘れたーという事を。


ずっと探していた、片想いの名も知らぬ彼女は同じクラスの半田と仲良さげに下校していた。

(半田と付き合ってるのか……嫌!そうとは限らない!ただの友達かもしれないし!とにかく確かめないと!)

陽治は決意も新たに勢いよく起きる。

そこへ、ガラリと戸が開いて保健室の先生が戻ってきた。


「良かった。起きたのね!大丈夫?」

「大丈夫じゃありません!!」

「えぇっ!どこか悪いの?病院行く?」

「心が泣いています!」

「嫌だ……打ち所が悪かったのかしら、やっぱり病院に……」


心配して青くなる先生。陽治は慌てて立ち上がると


「いえ、何でもありません!もう、大丈夫です!ありがとうございました!失礼します!」


礼をすると、唖然とした先生を置いて保健室を出て行った。

(明日、半田に確認しないと!あ~っ!もやもやするなぁ)

半田とは挨拶くらいで特別には仲良くないので、名簿に載ってる家の電話しか知らない。流石に家には掛けにくい。

陽治は、また深い溜め息をつくと、とぼとぼとグラウンドに戻る。

メンバー逹が練習を()めて、陽治に集まる。


「陽治、大丈夫か?」

「何か元気ないけど、まだ調子が悪いんじゃないか?」

「ごめん!俺のボールが」


蹴ったメンバーが平謝りする。


「俺が悪いんだ!プレイ中に、ぼーっとしてたから。もう大丈夫だから気にしないでくれ」


陽治は皆に謝る。


「お前は主力メンバーなんだから、頼むぞ!今日はもう帰れ」 


コーチに言われる。メンバー逹も、そうだそうだと賛同する。確かに、とてもじゃないけど、まともにプレー出来る自信が無いし、気力も無かった。


「はぁ…すみません。そうさせてもらいます。失礼します」


陽治は素直に従うと、礼をして部室に向かおうとした。その時、ふいに腕を引っ張られた。


「本当に凄く心配したんだからね!」


菊川が耳元に顔を寄せて言う。


「お、おう。あ!さっきは付き添いありがとな」


陽治は驚きながらも、お礼を言った。

菊川は帰国子女だからかスキンシップが多い。

おまけに可愛いから、菊川狙いも結構いるのだ。

メンバーからの鋭い視線に冷や冷やしつつ、そっと離れる。

(部内で恋愛沙汰とか御免だからな)

そこは、しっかりしている陽治であった。


「じゃあ、また明日な」

「ちえっ……そうだね、また明日。気を付けて帰ってね」


(?何か舌打ちが聞こえたような?)

陽治は気のせいかなと部室に向かった。


「ガードが固いよね~椎名君」


菊川が陽治の背中を見ながら、焦れったい思いで呟いた。

思いもしない所で想われてる事って、ありますよね。

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