ジェントルマンな半田君
遅くなりました。
「美味しかった~」
半田は磯辺焼きをペロリと平らげると、満足気に言った。
「そうでしょ。甘いあんみつの後は、甘じょっぱい磯辺焼きが良いんだよねって、早いね!食べるの!」
驚く藍香に
「あははは!ゆっくり食べて良いからね」
また笑う半田。
「こんなに良く笑う人とは思わなかったよ」
藍香は意外な一面に少し呆れて言うと、磯辺焼きを食べる。
「いや~俺もこんなに笑わされるとは。三嶋さん、もっと大人しい人かと思ってたよ」
と半田に返された。
「まぁ私、人見知りな所があるから、大人しく見られがちなんだよね」
藍香は磯辺焼きも食べ終わり、緑茶を飲んでしみじみ言うと
「そうなの!?」
半田に意外そうに言われ
「そうなの!今日は特別なの!何かこう~ほっとけなくて~」
強めに訂正する。しかし、そこからの言葉が上手く出ず、両手を何か掴むように悶える藍香。
「やっぱり良い人だね、三嶋さんって。世話好きっていうか。でも、お陰で沢山笑って、何か気持ちが軽くなったよ」
半田は両手で頬杖をついて微笑むと、藍香にお礼を言った。
(さ、爽やかだな半田君)
藍香は少しどぎまぎしつつ
「こんなんで元気出たなら、良かった」
ほっとして笑顔で言うと、半田は少しぱちくりしてから、親指を立てた右手を差し出し
「元気出た」
と笑う。(さ、爽やかだなー!)藍香はのけぞった。
(半田君、イケメンじゃなくても十分魅力的だよね!それとも、幼馴染みらがハイスペックなのか!?)
「どうかした?」
不思議そうにしている半田に藍香は頭を振り
「ううん、何でもない。もう暗くなってきたね。そろそろ帰ろっか」
と言うと半田も外を見る。いつの間にか日も暮れて、商店会は外灯がついていた。
「本当だ。今日は色々ありがとうね」
藍香は自分が誘ったので、当然奢るつもりだったのだが、半田は話を聞いてもらったのにとんでもない、自分の方が奢ると言い出した。
こういうので、ゴタゴタするのは好まない。こういう時は…
「分かった!じゃんけんだ!勝った方が奢る!」
「えええっ!」
驚く半田を無視して構える藍香。
「いくよ!じゃんけん、ほいっ!」
藍香はチョキ。半田はグー。半田はとっさだが勝てたグーの拳を目の前に掲げ、ほっとする。
「あー!負けた!残念!」
チョキの手を掴み悔しがる藍香。
「突然じゃんけんとか、びっくりするから!本当!やめてよね!勝ったから良いけど!」
半田に抗議されると藍香は口を尖らせて
「話が早いかと思ってさ」
と悪びれず言う。そりゃそうかもだけどと呆れる半田は
「じゃっ、勝ったんで」
とっととレジで会計を済ませる。後ろでがっかりして頭を垂れた藍香は
「こんなはずでは…不本意ながら、ご馳走さまです」
恨めしげに半田を見上げつつ、一応お礼を言う。
「全く…何ていう顔してんの。ほら、暗いし送ってくよ」
半田はそう言うと扉を開けて、藍香を促す。(ジェ、ジェントルマン!)感動しつつ出ると、外は少し肌寒い。
半田は当然のように、藍香の鞄も自転車のカゴに入れると、前輪の明かりを着けた。
「あ、ありがとう」
藍香は今度は素直にお礼を言う。
(何というスマートさ!そして男子に送ってもらうとか!)女の子扱いされて、ちょっと嬉しい。
「良いよ。さ、行こっか」
半田はニコッと笑って、車道側に自転車を引き、藍香の横に並び一緒に歩き出す。
藍香は笑顔からの、またまたジェントルな行動に顔が熱くなる。肌寒いはずが…顔を横に向けて両手であぶる。
(凄いな!こういう事さらりと出来るとか!何か恥ずかしいぞ!あー暗くて良かったー!)
「え?暑いの!?」
半田が驚いて覗き込む。
「違う違う!虫!虫が何かいて!もういったから!」
藍香は慌てて、あぶりから虫を払う真似をする。
「へぇ。何の虫だったんだろね」
「わっかんない。いゃーびっくりしたよ!」
「分かるよ!俺も夏に自転車に乗ってた時に、前から凄い勢いのカナブンが眼鏡に直撃して!本当、急に来るからね!」
「それは怖いね!」
「でしょー!カナブン固いから痛いし!」
他愛もない話になった。(良かった!上手く誤魔化せた)冷や汗ものの藍香である。
そんなこんなで商店街を抜けて、暫くすると我が家に着いた。玄関の灯りが付いている。
「本当に直ぐなんだね!」
「でしょ。送ってくれてありがとうね」
「ううん。…えっと」
半田は鞄を渡しながら、何か言いかける。
ん?と鞄を受け取り、藍香はその先を待つのだが
「いや、何でもない。本当、今日はありがとう。じゃあ、また明日」
「?うん。気を付けてね。また明日」
ばいばいと手を振り合うと、半田はさっと自転車に蹴って乗り、少しすると振り返り、また手を振って、藍香も手を振り返し、帰っていった。
(何だったんだろ?しかし、今日は我が人生史上、驚きの日だわ。男子を誘うという!やり慣れないことをしてしまった。何か…凄く…疲れた)
「ただいまー」
疲れつつも藍香は、ご機嫌な声で玄関を開け、帰宅するのであった。
やっと1日目が終わりました。
半田君スキル高すぎです。