告白
「で?半田君は三嶋さんと付き合ってるの?」
人気のない裏庭で、椎名が仁王立ちで聞いてきた。
「その前に……椎名君は三嶋さんの事、好きなの?」
和樹は眼鏡を中指で上げると、固い表情で聞いた。
「な、何だよ!質問を質問で返すな!」
椎名がムッとして言うと
「大事な事なんだよ」
和樹が真剣な顔つきで言った。椎名は呻きながら目をギュッと瞑る。
言いたく無いのは分かるが、そこがはっきりしないと、とてもじゃないけど打ち明けられない。
少し待つと、椎名はギロリと和樹を睨み
「あー!もう、分かった言うよ!そうだよ!」
と、やけくそ気味に言い放つと顔が真っ赤になった。
「そうか、分かった。ごめんな、言いにくい事、言わせて」
「本当だよ!何でお前にこんな事……で、言ったぞ。それで、どうなんだ?」
「俺と三嶋さんは、付き合ってるー」
椎名が絶望的な顔になる。
「ー振りをしている」
「へ?」
「だから、正式には付き合ってはいない」
椎名は眉間に人差し指を当てると唸った。
「えーと、何それ?意味が分からないんだけど?」
「まぁ、そうだよね。説明しても良いけど、絶対に誰にも言わないで欲しいんだ」
「……分かった。絶対、誰にも言わない」
「約束だぞ。じゃあ、どういう事か説明するとー」
和樹は、事の始まりからの経緯を話した。
椎名は唖然として聞いていた。
「ーと、いう訳なんだ。三嶋さんは優しいから協力してくれてるんだよ」
「確かに、三嶋さんは優しいけど……」
「でも、椎名君が告白して両想いになるなら止めるから」
「当たり前だろ」
椎名は、むっとして睨んだ。
和樹は心底、申し訳ない気持ちになった。自分が変な事を提案しなければ、普通に椎名が告白して三嶋と付き合う、というシンプルな形であったのに。
完璧、おじゃま虫ではないか。
「何か俺のせいで、ごめんな」
和樹は落ち込み、椎名に謝った。
「いや、何て言うか、タイミングが悪すぎだろ」
椎名は頭を抱えた。
「ただ、その……今度、ダブルデートする事になってて、出来れば、それ以降に告白して貰えると助かる!」
和樹は言いにくい事だったが、頭を下げてお願いした。
「えぇっ!何だよ!ダブルデート!?それまで生殺しかよ」
椎名は、また頭を抱えた。
「本当に、ごめん!」
和樹は頭を下げる。
椎名は大きく溜め息をつくと
「分かった。半田君も三嶋さんに、この事を言わないでくれよ」
と、頼んできた。
「勿論」
和樹は当然だと頷くと時計を見る。昼休みが終わる頃だった。
「戻ろうか」
「あぁ、話してくれて、ありがとな」
椎名にお礼を言われて、和樹は中身も良い奴だなと
思った。(そりゃ、モテるはずだ)
それに、好きになったのが三嶋さんとかー
「椎名君は見る目あるね」
「えっ?」
思わずこぼれ落ちた和樹の声は、小さくて聞こえなかったようだ。
「何でもない。行こっか」
椎名は怪訝な顔をしていたが、和樹は足早に先を行く。自分だけが見つけた宝物を、実は誰かも見つけていたような何とも言えない気持ちだった。
2人が教室に戻ると、皆が急に静になり視線が集まる。和樹は戸惑ったが、もう次の授業が始まるので、無視して急いで席についた。椎名は誰かに何をしていたのか聞かれていたが、適当にはぐらかし席についた。
(とにかく、後は野となれ山となれだな)
和樹は、もう開き直るしかなかった。
「生きて帰ってこれたな」
浩次が振り返りニヤリと笑った。
「首の皮一枚な」
気楽そうな浩次が羨ましい。和樹は溜め息をついた。
放課後になり、和樹は帰り支度をする。
「今日は図書委員、無いんだ」
浩次は剣道部で、他のクラスで同じ部の友達が迎えに来ていた。
「うん。当番じゃないから」
「そっか。じゃあ、また明日」
「おう。またな」
2人を見送り、さて帰ろうとした時
「カズ!良かった、まだいた」
裕也が教室に入ってきた。女子達は榊君!キャーと歓声を上げている。
恐ろしいほどのモテ男だ。
「おーどうした?」
「どうしたじゃないだろ、打ち合わせしたくてさ。部活前に寄ったんだよ」
「成る程……」
和樹は、ハッとして椎名が居るか確認した。もう部活に行ったらしく机に鞄も無かった。ホッとするものの、クラスの女子達が様子を伺っていたので、和樹は裕也を廊下に連れ出し、聞いた。
「それで、いつにするんだ?」
「早い方が良いだろ?日曜で良いか?」
「分かった。聞いてみるよ。で、何処に行くんだ?」
「水族館が良いかなと思うんだけど、どうかな?」
「あー良いんじゃないか」
「だろ?楽しみだな!確認したら、また連絡してくれよ。じゃあな」
裕也は、ご機嫌で和樹の肩をバシバシ叩くと、颯爽と去っていった。
「浮かれてんなぁ」
残された和樹は、叩かれた肩を擦り呟いた。
(三嶋さんも多分、当番じゃないよな)
和樹は教室に戻るとスマホを取り出し
『今日は当番?』
と、確認してみる。
すぐに返信がきた。
『当番じゃなかったんだけど、先生にポップ頼まれちゃって』
『そっか、手伝おうか?』
『ありがとう!でも、大丈夫!もう1人捕まってるから』
グーポーズのウサギのスタンプ
和樹は思わず吹き出す。
(本当、面白いわ三嶋さん)
『分かった。じゃあ、今日は先に帰るね。頑張ってね!』
和樹は、がんばれと旗を振る熊のスタンプを押して少しホッとする。2人で帰るのを、また椎名に見られるのもなと思ったからだ。
『ありがとう』
ウサギがまたねと手を振るスタンプ
(こんなやり取りも、もう出来なくなるのかな)
何だか寂しくなった。
それに、小腹も空いた。
(帰りに商店街のお肉屋さんでコロッケ買って食べるかな。ダブルデートの事は今晩、電話しよう)
和樹は久しぶりに独りで帰った。
デートもまだなのに、終わりそうな雰囲気。
(´□`; 三 ;´□`)