Side Rays~再度死んで甦る~
俺は死んだのだ。元の世界で。
死生観なんて持ち合わせていないし、死んだら終わりとしか考えていなかった。
だが、ふたを開けてみれば簡単なロジックで死後ってのはできていた。
よくあるファンタジーラブコメとか異世界転生ものなんかよりもずっとシンプルだ。
魔法が使える、無詠唱で使える。聞こえはいいが裏があった。
そう、魔法が使えないものは家畜以下の扱いを受ける。日本国憲法に守られてもないこの異世界ではそれが絶対条件。
もちろんその他にも法はあるが、それこそ元居た日本と何ら変わりのないものに等しい。
俺はそんな世界に転生してしまった。魔法が使えない身で―――
そんな他愛のない話を出会って数日ばかりの女に話していた。
「ふふ、面白い冗談ね。あなたがそんな冗談を言えるなんて思ってもみなかったわ。」
「信じなくていい。だが、こんな特典はあまりうれしくなかった。」
女は俺の話を信じてはくれなかった。
それもそうだ、普通であれば万物死すれば生き返ることなし。
俺は異世界に転生されたあげく、代価を支払うことで自分だけが甦れるという特典をもらった。
どうせだったらと何度も思ったが、2度目の死を迎えた時にそんな感情もどこかに消えていった...
女は以前俺にこういった
「そ、あなたは自由に生きれていいわね。縛られてるとすごく大変なのよ。決められたことしかやってはいけない、それ以外の一切は認められないの。」
俺は反論をしようと思ったが、なぜか言葉がすぐに浮かばず、奴隷時代の話をしていた。
この女はエカレットと呼ばれる町の党首で、地位の高い身分の者らしい。
俺とは遠くかけ離れた人物なのに、なぜか自由を得られていないことに疑問を感じた。
「今日も出かけてくる。」
「最近毎日エカレットに行ってるのね、あの町でよくない噂を聞いたことがあるの。」
「どんな噂だ。」
聞けばエカレットは恵まれた土地らしく、その価値を有効利用すべく他の貴族が交渉に持ちかけているものの一切交渉に応じずで煮え切らない状況が続いているらしい。
その状況を快く持っていない者達が曰く同盟を結び、革命を起こそうとしているとのこだ。
俺には関係のない話だが、エカレットには闇商人が居て取引ができなくなるのは困る。
たどり着いた時にはもう革命は行われていた。
いつも通っていた橋の下と呼べる場所はもうなくなっていて、あの女の姿も見当たらなかった。
「心配...俺が?」
予感もわからない、感情もわかない、そんな俺が心配していた、たかが数日話しただけの女のことを...
俺があの女を目にしたときにはベンドオーバーの姿勢をしている姿だった。
あくまで姿であって、実際はギロチンにかけられている。
「何をしている、トレーニングか?」
こんな言葉しか出てこない。考えを張り巡らせようとしてもダメだ。
心ではこんなにおしゃべりなのに声に出そうとすると忌々しい甦りの弊害によって阻まれる。
「おいあんた、何者だ!?まさかエカレットの手先か!!」
「ペインスパイク」
胸糞が悪い、別に好きなわけでもない、ただ会話が楽しかったのかもしれない。
幾度となく人に話しては信じてもらえず、馬鹿にされてばかりの話をこの女はあえて深く触れず、俺に語ってくれたことが、ただ嬉しかった。
「助けに、来て...くれた...の?」
「いや、いつもここには来ている。」
死体の冒涜ともいえる死霊術しか俺にはできない。
死んだ人間なら操れるが甦らせることはできない、だから俺はこの女を癒すことができない。
「ごめん...な...さいね...今日は...おしゃべり...でき...なさ...そうなの。」
「残念だ。楽しかった。」
本当は楽しかったのではなく嬉しかった。救われた気がしたのにそれを伝えられない。
何も伝えられない、俺の意思とは裏腹に全く別の言葉が声に出てしまう...
「ま...た、おはな...し...しま...しょう。」
「ベンドオーバー。お前には不釣り合いなトレーニングだな。」
違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う!!
そんなことが言いたいんじゃない、ただお礼をしたいだけなんだ...
「そんな、顔をしないでくれ。」
「そっか...あなたは...そうやって....なみだ...流せるのね」
泣いている...俺が?
女の手のひらが俺の頬を触った、その手は冷たく、生きているという温もりを一切感じられなかった。
でもどこか、満足げな顔をしている女を見て、心は余計に締め付けられた。
「おいおい、こんなおっかない魔法を使うやつがいたなんてねッ!」
次の瞬間、地が舞った、下を見ていた俺の視点が炎で薄暗く明るい夜の空を見ていた。
「撤収だ、エカレットは陥落した。これよりこの地に宿るマナの力を開放する!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「起きたか、また死んでしまったようだな。」
「ああ、そうかまた死んだのか。」
最初は驚いた、このローブを羽織り、顔が見えない存在に。
あたりも見えず、ただこのローブの者が見えるだけ。
「っで、どうする?甦るか、ここで終わるか。」
「頼む、甦らせてくれ。」
「わかった、それでは心もだいぶいただいたことだ。次は身体の一部をいただこうか!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
目を開けたら、俺はトレーニングを教えていた女のいる村で横たわっていた。
「・・・心配、させないで。」
泣いている女の姿が目に入った、だが女の顔は片目でしか見えなかった....