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Butterfly machine ~はねのける淑女~

私は奴隷だった、魔法が使えないただそれだけの理由で奴隷になった。

筆舌しがたい嫌なこともたくさんあった。


「あと5回だ。」

「ま、まだやるんですか!?」


そんな尊厳を奪われた私を助けたのはこの不愛想な男。

このトレーニングと呼ばれる行為以外何も教えてくれない。


「胸に意識を集中しろ、そして呼吸も正せ。戻すときに吸って、力むときににはけ。」

「そ、そういわれても~」


まったく何のためにやってるのかわからないことだけど、悪い気はしていない。

己を傷つける行為だけど、不思議とやってると嫌なことも忘れられる。


でも、翌日には耐え難い痛みも襲ってくる。

それが落ち着いたら再びまた傷つける行為に戻る。


ループしているけど、どこか私に自信がついていくのが実感できる気がした。


「1分インターバルだ。吸った以上に息を吐け、時間になったらもう1セットだ。」


容赦がない、ある意味奴隷に思えるこの物言いも、不思議とこの人だとそうは思えなかった。


「よし、始めろ。」


私は再び左右の腕を上げ、この重りを胸に目がてて押し縮めていく。

繰り返すごとに私の身体なのに言うことをきかなくなっていくのがわかる。


「終わりだ。今日はもう休め。今痛みがなくとも、明日にはくる。」


この人が言うにはこの村には魔法が使えない人たちが集まっているらしく、

村と言っても本当に小さな村で、家は1軒しかない。みんなはこの周辺に野宿していく。


「もう夜だ。何か食え、肉だけではなく草も食え。」


どういう理屈かはわからないけど、この人が言うにはタンパク質なる成分を多くとりすぎても良くないとのことで、肉と草などをバランスよく摂取するのが効率良いという。


「もう寝ろ。明日は休め。俺は街を出る、夜に戻る。」


この人は何かの事情で感情を大幅に失ってしまっている、笑うこともないし、怒ることも、そういった感情表現が全くできないらしい。


「わかったわ、今日はもう休ませてもらうわ。」


私は藁で作った寝床に向かい明日に備える...


「起きろ、俺はもう行く。」


まだ朝日は昇っていないけどこの人はもう出るのだという。

なんでも私たちの居る村以外にもこういった集落のような場所はあるみたいで、そこがテンプル騎士団に見つかったかららしい。


「ええ、気を付けて。」

「ああ、お前もな。」


初めて...かもしれなかった。身を案じられたのは、それにこの人がそんなことを言ってくれたのが...


「あ、あなた?」

「ん?どうした、俺は行く。」


私の気持ちとは裏腹に彼は身支度を済ませて早急に出て行ってしまった...


集落を見て回る...

変わったものもないけど、奴隷もいない。そういった日常が私には真新しかった。


「よお姉ちゃん。めちゃくちゃべっぴんさんじゃないか。」

「へへへ、どうだ俺たちと遊ばねぇか?」


変な輩もいたりするけど無視するのが楽だ。下手に関係を持つとこじれる。


「ま、待てよ!」


男が私の腕を掴んできた。振り払ったらどうなるかわかっているのについやってしまった。


「っち、つれねぇな!素直になれよぉ!」


不本意ながら背後から引っ張られ、向き合う形になってしまった。

非常に不愉快なことを思い出させる。


「怖い顔しなさんなって、せっかくの美人が台無しだぜ。」

「やめてちょうだい!」


男の両腕が抱きつこうと向かってくる。


「へ?」


自然と手で酌み交わしてしまった。

「へへへ、こいつはおもしれぜ、なんだ両手をつないじゃってよぉ!」

「おい、おめぇずりぃぞ、変われよぉなぁ!」


なんでだろう、不思議なことに私はこの男の力が...


「おいおいおい、お前なんで後ずさりしてんだよ。」


押す力がどんどん入っていく。考えられないほどに私はこの男に押し勝っている!


「や、やめろ姉ちゃん、手首が折れちまう!」


これが、これが奴隷を飼っていた連中の気分なの?

すごく楽しい、悦に入れる。


「先に手を出したのはそっちでしょ、仕方のないことよねぇ?」


どんどん力が入っていく、でも疲労感にも似てるし、痛みも胸に同時にこみあげてくる

それでも...


「お、おいおいおいおい、俺は逃げるぜ。」

「あ、テメェ、逃げんな俺を...ひぁっ!折れちまうやめてくれ!」


あと少しでこいつの手首をへし折れる!


「おい、そういったことのために鍛えている訳じゃない。蝶のようになれ。お前は女なんだろう?」


ハッとした、我に返った訳でもない、力を抜いているわけでもない。

ただ、この人が言うことはわかった気がしたから手を離した。


「ひ、ひぇ~」


情けない声を共に私をものにしようとした男は去っていった。


「あれはバタフライマシンと言う。意味は俺も知らない。蝶と言う意味と機械の意味を合わせ持つ奇妙なものだ。」


何もかもが意味の分からない言葉の羅列だった...


「お前に、淑女に似合っていると思った。感情がなくても、それはわかった。」


不器用な人だなととことん思った。

好きな人でもない、婚約者でもない、こんなみすぼらしい私を見てもまだ淑女と言ってくれることがすごくうれしかった


「ごめんなさい、わたしついカッとなって...」

「いいんだ、だが、そういった為に力をつけている訳じゃない。見失うな。」


彼の足取りは早く、いつも早歩きだ、私にぶっきらぼうに物言いした後にすたすたと行ってしまう。


だけど...いつもより少し遅く感じられた........

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