Crunch ~起き上がりざまの捕食~
異端審問ってのは簡単じゃない。
魔法使いって言ってもたくさんの種類が居て、法で縛っていても見分けることは容易ではない。
無詠唱魔法以外は悪だというのはわかっていても、一つしか魔法が使えない者達も裁きの対象となる。
っとまあかっこつけてみたものの、俺はテンプル騎士団の末端なわけで役職もない。
できることといえばそういった連中を見つけては上に報告することだけ。
「おーい、着いたぞ。ここが例の村だ。」
「おっす、んじゃまあ一仕事やりますかい。」
「ああ、俺たち3人しか居ないが相手は詠唱限定者と魔法の使えない連中だけだ。」
今回俺がやるべきことは単純だ、この村に潜入して村人の数を調べるだけだ。
「村からはまだ離れているが、ここは俺に任せろ!」
こいつはトーマス、魔法のレパートリーはそこまで多くないが偵察系の詠唱には長けている頼もしい奴だ。
「ん~、家々を見透かしてみたがざっと15人ってところだな...ただ何かおかしい。」
「どういうことだ、俺の出番かい?」
こういう時はアルフが頼りだ。密偵魔法に長けているとはいえトーマスは視覚系のほうが強いが、アルフは潜入系に長けてるってとこだ。
「いっちょ透明になって潜り込んでくるぜ!ガーランドとトーマスは報告を待ってくれ。」
「ああわかった、トーマスの違和感の正体がヤバいもんじゃねぇといいんだがな。」
アルフが透明になって潜る。偵察するうえではこの上なく便利な魔法だぜまったく。
アルフが出発してから5分ぐらいだろうか、悪い知らせじゃねぇことを祈るぜ。
「ガーランド、トーマス、この村は報告する必要がないぜ。」
「どういうことだ?」
アルフの報告によると村人は全員死滅、死因は言うまでもなくモンスターの仕業だ。
「ガーランド、悪いがこの件では報告できる内容はないな。」
「いや、モンスター討伐でもとりあえず報告はできるぜ?」
アルフとトーマスにはその後も反対されたが結局村に全員で向かうことにした。
ざっと見たところ木で作られた母屋が大半を占めている。
返り血がいたるところに飛び散って、四肢があったりとで強烈な生臭さに似た悪臭を放っている...
「ガーランド!これはコボルトの仕業だ!」
いち早くそれに気づいたのはアルフだ、さすがは目が効く。
どうやら、村人も抗ったようでコボルトの歯が落ちていたらしい。
このコボルトってのは人語は話せずとも、同族並びにある程度の獣と意思疎通がとれるらしい。例にもれず、こいつらも魔法が使えるからテンプル騎士団でもモンスター討伐は攻撃系の魔法が使えない者には実行許可が下りない。
「アルフ、おそらくもう奴らに見つかっている可能性が高い。知性がないわけではないから待ち伏せの可能性も考慮しておこう。」
「いざとなったらガーランドの技で守ってくれよな?俺はひとまず透明になって短剣でも握っておくぜ。」
トーマスは透明になって援護体制、っといっても奴らは嗅覚が発達しているから透明になっても油断はできない。
アルフにはトラップを仕掛けてもらった、単純なものだが奴らは道具を知らない。
だから単純なトラバサミでも容易に引っかかってくれるってわけだ。
「アルフ、状況はどうだ?」
「まずいぜガーランド、2匹が急速にこっちに接近している!」
「わかった、アルフは隠れろ。トーマスは透明状態で俺の背後を見張ってくれ。」
陣形を整ている間にやつらがやってきた!
唸り声とともに木々を引き裂き1匹が俺の眼前に現れ飛びかかってきた!
「甘いぜ!!!」
ガシャン、チープな音だが効果はてきめん!
「動けねえだろ?ならこいつをくらいな!」
密偵、潜入、偵察そのどれにも長けていない俺が使えるのは攻撃魔法だけだ。
まずはファイアボール!
「ゲグッ、グギェァゥ!」
生身が焼け爛れる様に思わずコボルトも耐え難い叫び声...いやまずい!
「アルフ、そこはダメだ!逃げろぉぉぉぉぉ!」
判断が遅かった。こいつらは異端者以外にとっても不俱戴天の怪物どもだ。
「が、がー、ガーランド、しくじっちまった...」
タンスの中に隠れていたアルフがやられた...
「後ろだガーランド!」
「よせ、そいつはビーストフュージョンを行っている!防ぎきれない!」
また判断が遅かった。奴らも魔法が使えるんだ。自身の強化をする魔法が存在しないわけじゃない。
こいつらは上位種の獣に匹敵する筋力増強の魔法を唱えていたんだ。
その結果はトーマスはあっけなく死なせた。悲鳴の一つも上げられず頭と胴体が引き裂かれて
「魔武使い...」
魔武、魔法によって武道における補助的な系統全般を得意とする者達の総称だ。
「ギシャー!」
雄たけびの後に飛びかかっくる...早すぎて目で追えない
やられる...のか?
「ぐ、ぐあぁぁぁぁ!」
左肩が熱い、そしてひどい痛みも感じる。
意識が朦朧とするさなかにもう一撃が...
「くたばるわけねぇだろぉが!」
噛みつかれていた、そうだ、自分の痛みで回りが見えていなかったが噛みついていたのだ。
こっちには足がある、まだ動く足が!
飛びかかってきた奴には逆に飛びかかってやるまで!
とっさに青くひどい臭いを放つその毛並みにおそらく腰骨と思われる部分に俺は両足を絡めた。奴が動けないように!
「こいつをく...」
ダメだ痛みで魔法に集中できない。
「クランチか?」
確かにそう聞こえた。誰だかは知らない。
何の意味かもわからないが...ただ起き上がる気力を振り絞るのには十分だ!
「振り払われる前に喰らってやる!俺の、人間にも牙はある!」
とっさに首元に俺は上半身を起こし食らいついていた、
人間と同じ赤い血が噴射して組んでいる俺にも伝わるほどの痙攣をしてコボルトは立っていられなくなっていった。
その後のことはすべてテンプル騎士団に報告した。
尋ねたところ俺に声をかけた奴はテンプル騎士団ではひそかに指名手配をしている魔法使いと妙に合致する点が多かった。
筋肉、死霊術、謎の掛け声、淡白な声、顔出しのローブ
奴が世に名の通りつつある
筋肉ネクロマンサーなる異端者だ―――――