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Preachers Bench Curl ~戒めの斃死~

死んでも自分で生き返るかを選べるというとてつもない能力をもって転生した俺は、いつの間にか死の恐怖が薄れてしまった。


当然のことではあるが、死に至るまでの過程に苦痛が無いわけではない。

尋常ではない痛みを伴って死に、そしてその苦痛を再度味わうことを覚悟して生存を選ぶ。


狂気の沙汰にも等しい行為だが、なぜか諦めることはしなかった。


この世界は元居た世界とほとんど変わらないが、魔法という一つの事象で大きく異なっている。


「旦那ぁ!お久ぶりでさぁ!」


この男は一つの魔法以外使用できない異端者の一人。

テンプル騎士団なる連中が制定した規定により、詠唱魔法しか使えない者、無詠唱でも一つしか使用できないもの、そもそも魔法が使えない者は異端者として捉えられる。


無詠唱魔法は非常に強力ではあるが汎用性に欠ける。

詠唱魔法は複合させることができるが、無詠唱魔法ではなぜだかそれを行うことができないらしい。


「今回も旦那にお願いがありやしてねぇ、なぁに、悪い話じゃありやせん。」

「そうか。」

「呪いのせいとはいえ難儀ですなぁ、まあもう慣れっこではありやすけどねぇ。」


用件を聞くと、どうやら異端者を匿う集落にモンスターが住み着いてしまったらしい。


「報酬は?」

「キウイの種、しかも何と10粒でさぁ。」


もう一つのこの世界の特徴である通貨の概念。

現金と呼ばれる代物がなく、育てることで食料となるものが通貨として扱われる。


植物にはあまり詳しくないが、実りの多いと判断される種は高価な代物とされる。

今回のキウイの種であれば、1粒で新車1台買っておつりが出るレベルではある。


現金とは異なり釣銭が出ないため、複数の商品をまとめて購入することで取引が成立する。


「旦那ぁ、考えに耽ってないで、あっしの話を聞いてくだせぇ。」

「なんだ。」

「モンスターの情報ですがねぇ、どうやら異形の者に類する奴らしいですぜぇ。」


ファンタジーRPGで出てくるモンスターも当然いるが、見ただけで通常の精神であれば発狂してもおかしくない存在もいる。


どうやら今回はその類の低級な種族が跋扈しているらしい。


「あっしの調べたところによると、ハーミットらしいですぜぇ、奴らは異形種の中でも陰湿な連中で影の中で蠢くとかなんとかで、その村の陰からもぞもぞと何かが動いているらしいですぜぇ。」


異形種は元居た世界でいうタロットで系統が分かれているらしく、ハーミット、つまるところ隠者に属する種族らしい。


「種族王がいやしたらね、さすがに明け渡すこと検討したんですが、下級の者であれば旦那なら退治できるでしょう?」

「リスクが大きい、俺一人で行く。」

「あー待ってくだせぇ、このカードを持って行ってくださいな。」


奴の能力はカードエンチャント、見たことのある魔法をカードにして第三者が詠唱することで発動ができるといった極めて特殊な魔法。


「こいつはね、サンの連中がハーミット追っ払うときに使ってた魔法でさぁ。」


中身を見ると【ターンダークネス】と書かれていた。

この魔法名を詠唱するだけで発動することができる。


「わかった、では、もう行く。」


手荷物をまとめ、件の集落へと向かった。

ログハウスが3件あり、窓があるがどれも中は異常な暗黒が広がっているのが伺える。


「・・・引き返せぇ・・・引き返せぇ・・・」


ログハウスに近づくと脳に直接何かの声が聞こえた。

心の中では慌てふためいてはいるものの、外面は呪いの影響でいたって冷静だ。


しらみつぶしに調査すべく、1件1件回ることにした。

ログハウスの戸に手をかけると...


「愚かなり・・・愚かなり・・・」


再び脳に警告とも思わしき声が聞こえた。


「ボーンアーマー」

「ネクロマンサー・・・詠唱者・・・異端者・・・哀れなり・・・」


ログハウスの中は光を飲み込むように外の光を遮断した。


「こいつはダメだ・・・我が王の友だ・・・手を引こう・・・」


グリムとの関係があるのか?

真相はわからないが、中に広がっていた暗黒空間は外へ向かって動きだした。

すると中はいたって平凡な家となっていた。


「同類・・・隠者に加われ・・・」

「なぜだ。」

「哀れなり・・・神域に達していない・・・まだ受け入れるな・・・」


一方的に異形の者達は語り合い、勝手に解釈して去っていった。

2件目のログハウスに至ってはドアを開ける前から、暗黒空間は外へと出ていくのがわかった。


3件目は先ほどの者とは異なる考えを持っているのか、出ていく様子が無かった。


「愚者よ・・・来たか・・・お前を取り込む・・・」


暗黒は俺に覆いかぶさるように向かってきた


「ターンダークネス」

「サンの魔法・・・無駄・・・」


止まる様子が見受けられなかったので思い切って拳を突き出してみたが、空を殴っているに過ぎなかった――


「終わりだ・・・もらった・・・」

「エクソシズム」


死霊術からは離れた魔法ではあるが唱えるだけ唱えてみた


「お前はその領域に居ない・・・無駄・・・」


暗黒は俺に覆いかぶさった

痛みは無いが、身体の自由が奪われ、思考も混濁した...


「取り組んだ・・・取り組んだ・・・」


・・・・・・・・・


「死んだか、それでどうする?選べ。」

「さあ選べ。生存か死か。」


あの空間に気が付くと居た


「生存だ。」

「ここでは感情の抑制が無いものの、ずいぶんと我の色に染まったな。斃死に等しいその死生観は好みではない。」


いつもと変わった口調で奴は話しかけてきた


「生存するがいい、だが今回の代償は大きい、声を貰い受けるが異論はないな。」

「ある、最低限に必要なものの一つではある。」

「代償を選ぶ権利はないが、ならば何を差し出すか申してみよ。」


失ってもいいものは少ない、片目でも大きなハンデを背負った、感情も、フラッシュバックも同じだ――


「心を差し出そう。」

「ふはははは、感情の表面はもう貰い受けていたが、内面を差し出すとは恐れ入った。それではそれをいただくとしよう。」


一瞬まどろんだ後に目を開けるとログハウスの中に居た。


「なぜだ・・・あのお方の意に反する死を与えたはずだ・・・」

「無駄だ。ヴェンジェフル!」

「我らに復讐・・・否・・・否・・・」


暗黒空間は魔法を唱えた後に霧散した...

だが、もう心で感じることが何もなく、達成感も何も得ることはできなかった――

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