Full Squat ~全力回避~
私に筋トレを指導するあの男が今日は妙なことを言い出したわ
「今日はテンプル騎士団が合法としているとある場所へ向かう。」
「わ、私も行くの?」
「そうだ、お前はまだ牙を持っていない、俺が教えたのは基礎だけだ。」
そういうと彼に連れられて荷馬車に潜り込んで人里離れた山の中にたどり着いた
荷馬車からこっそりと抜け出すとそこには...
「お、兄さん久方ぶりに魔武闘技場参加ですかい?」
魔武、魔法によって武道における補助的な系統全般を得意とする人たちの大会?
「いや、今日は見学だ。連れがいずれ参加する。」
「えぇ!?そんな、私は戦いなんて...」
困惑する私をよそ眼に男は淡々と話す
「いいか、お前はまだ実戦経験が無い。ここは詠唱魔法のみで戦うという実戦経験をつむうえではこの上なく適した場所だ。」
男の話によると、ここでの戦いは結界魔法によって作られたドーム状の闘技場で戦闘不能になるまで戦うらしい
「安心しなお嬢さ...いや、これは立派な戦士の体格だ。失礼、結界魔法の解除から結界外に吹っ飛ぶとケガなんて嘘みてぇに治っちまう。死ぬこともねぇから安心しな。」
死んだとしても術式解除で蘇生されるという全く不可思議な場所でした
「説明するより見るほうが手っ取り早い。ついてこい。」
男に手を引っ張られて観客席と呼ばれる場所に案内された
「今回の挑戦カードわぁ!!!!アソツ選手VSジャガル選手ぅぅぅぅ!」
むさくるしいくバカでかい声で選手入場を言い終わった矢先、私の目に飛び込んできたのはこの世のものとは思えない存在でした
「俺はここで2位までの成績しか残すことはできなかった...とてつもない猛者が居る。よく見ておけ。」
「何となく参加してたことは察しがつきましたけど、あなた2位でしたので、1位は一体どなたなのかしら?」
男が指をさした先に居たのは私が仰天したあの【アソツ】と呼ばれる選手でした
「ええええええええええええ!?!?あれ平面よね、こう、なんて言ったらいいのかしら、比喩とかじゃなくて棒じゃない。あの黒くて棒状の身体のあの選手に!?」
「あれは棒族と呼ばれる立派な種族だ、昔は棒人間だと思っていたが、素晴らしい選手であるに違いはない。」
ここでの戦闘は魔武と呼ばれる手法且つ詠唱魔法でしか戦闘ができない、一般的に打撃の威力を増す拳であれば【ストライク】蹴り技【ソバット】などが一般的で、憑依魔法であれば部分的に獣の力を宿したりすることもできる、それをいちいち詠唱して戦うなんて手の内をさらしながら戦うのと違うんじゃなくて?
「お前はまだこの詠唱魔法の神髄を理解していない。始まるぞ、よく見てろ」
あの不可思議なアソツと呼ばれる選手の対戦相手はワービースト族と呼ばれる半獣
「でも、これじゃあ体格差もあってかなり厳しいのでは?」
合図とも呼べるベルの音が鳴ったとたんにジャガル選手が一気に間を詰めた
「もらったぜチャンプ!」
「詠唱もなく、己が肉体だけでワシに勝とうとは...舐められたものよ。」
持ち前のポテンシャルを生かしてジャガルが距離を詰める
「ストライク」
「おっと、ファストステップ!」
早い、一瞬の出来事でした...
アソツ選手の拳よりも早くジャガル選手が高速で移動
「は、早いわ」
「そうだ、あの刹那の一瞬で詠唱判断を行う、それも実戦では必要な要素だが...」
彼が言いきる前にジャガル選手が次の手を打っていた
「ソバット!」
一瞬で離れ、また一瞬で元の距離へ戻り繰り出されたソバットは見事にアソツ選手をとらえていた
「メタルストライク!」
「ぐぎゃぁっ!!!」
悲鳴を上げたのはジャガル選手でした
「あれだ、詠唱魔法のみ許された複合魔法だ、今アソツ選手がやったのは自身を鉄にする魔法とストライクを合わせたメタルストライク、工夫次第でかなりのバリエーションが広がる。」
初めて見た、私も魔法適性が無く、彼による特殊な方法で初級魔法全般は使用できるようになったけど、それでも詠唱どまり...
「いいか、この大会ではああいった複合魔法をいかにうまく繰り出すかというイマジネーションと咄嗟の判断力がものをいう世界だ。むろん、ここで培った技術はどれも実戦で役立つ。」
ふと目線をそらしていた、選手を改めてみるとジャガル選手はあの反撃でうずくまっていた。
「ライトニングソバット!」
アソツ選手の蹴りがジャガル選手に当たると、感電して動かなくなっていた
それと同時にまた再びベルが鳴り、何か一瞬空間がゆがんだように見えたのち、元気な姿のジャガル選手がそこに居た
「理解したか。明日明後日見学をしたのち、お前が参加するんだ。」
「ちょ、何勝手に決めてるの?」
「嫌ならそれでもかまわない」
ああ、そうだったこの人はそういう人だったわ
「はぁ~わかりました...ですがもう少し情報が欲しいわ。」
「スクワットだ!今すぐ!」
男が突然そういうと、習った姿勢で瞬時に体制を低くしていた
「ふぉっふぉっふぉ、さすがじゃな、久方ぶりに貴様の姿が見えてたもんでちと試してしまったわい。息災で何よりじゃ。」
「問題ない。」
飛び込んできたのはあの棒状の選手でした
「は、初めまして私...」
「何説明は不要じゃて、おぬしが来たということはこ奴を鍛錬せいということじゃろう?」
「そうだ。」
私の知らないところで勝手に話が進んでいく...
それでも奴隷として扱われていた時のような物扱いではないから、どこか悪い気はしなかった
「どういうことなんです?きちんと説明していただきたわ!」
とはいえ納得できないこともありまして...感情は破裂しました...
「指名手配された、あの集落には居られない。お前は無詠唱魔法も使える、ここに残れ。」
ひどく一方的な申し出でした、納得できないけど、この人のことだからきっと何かあるんだと思うほどには同じ時間を過ごしてきた...
「ふぉっふぉっふぉ、任せておくのじゃ!」
そうして私の第二のトレーニングの幕を開けたのでした




