【第零話】裏の世界の正義の味方
「母さん、今日の晩飯は何?」
俺は母に問いかける。こちらを見て少し微笑み作業を続けながら母は言った。
「今日はハンバーグよ」
ハンバーグを作るだなんて珍しい。いつもは簡単で美味しいものを作るのに、やたらと手間と技術が必要となるハンバーグを作ろうだなんて、ヤッパリ珍しい。何か良いことがあったのだろうか? 何にせよきっと美味しいはずなので楽しみだ。
「そろそろ出来上がるから、待ってて」
「はーい」
いつも自分の部屋の中にこもりイヤホンで曲を聞いたりしてるので、出来たことをわざわざ二階に行くのがめんどくさいのだ。
やる気のない返事を返しソファーに座る。
テレビの電源を入れ、暇潰しにテレビと向き合う。画面に流れているのは、ニュース番組。まぁ、この時間帯的にニュース番組しかやっていないし、もしバラエティーをやっていたとしてもこの短時間で見る気にはならないし、アニメに至っては深夜ものばっかり見るので、正直親の前で見るのは少し戸惑うのがいくらかある。
よって、ニュースが一番適役だった。
『それでは、今日のニュースです』
いつもの安定の始まり方。
『今日未明、岡山県倉敷市の住宅街で血まみれで倒れている男性が発見され、病院へ搬送されましたが死亡が確認されました。なお、体には複数の刺し傷があり、警察は岡山県倉敷市で起きている連続殺人と見て捜査を進めているそうです』
あぁ、また死人がでたか。ため息を一つつく。
連続殺人事件。まだ、詳細がはっきりとしていないためちゃんとした名前がついていないが、殺し方が似ているため同一犯の可能性が高いと言われている事件。ただ、死亡した人との共通点が少なく謎が大き事件だとも言える。唯一の共通点と言えば岡山県倉敷市内だけで起きている事件だと言うことだけ。
今、俺が住んでいる場所は、そこだ。殺人事件がおき続けているここだ。全くやめて欲しいものだ。この事件のせいで昼間の道も静まり返り、一種のゴーストタウンと化している。
「最近、物騒な世の中になったわね」
そう、母が言うが、どうせ一日に一人は人の手によって死人が出ている。今も昔も対して変わってなどいない。ただそれが近くで起こっただけのこと。
「そうだね」と、一言返し再びテレビと向き合う。
まぁ、犯人が捕まっていない今は、出来るだけ家の中にいるようにはしている。
ガチャッ
玄関で扉が開く音がした。父が帰って来のだ。いつも父は晩飯直前になると帰って来る。どういう訳かわからないが、そこまで気にすることはない。
母は父を向かえに玄関へ行く。
『それでは続いてのニュースです』
そんな中、俺はテレビを見続ける。
「キャァァァァ!!!!」
玄関の方から突如悲鳴が聞こえた。すぐに母の声だと理解した。
何かあったと察した俺は、急いで玄関へ向かおうとした。正確には考えるよりも先に体が動いていたんだ。
部屋を出ようとして、扉を開けたその時だった。目の前にふと大きなシルエットが浮かぶ。人だということはすぐにわかった。だが先に目が言ったのは顔ではなく、手元だった。
その手には赤い血のついた、鋭利なナイフが握られていた。血まみれになった手からは常に血が滴り落ち、小さな水溜まりを作る。
その、刃幅から見るとサバイバルナイフぐらいと仮定できる。
咄嗟に俺は後ろに後退りしたが、自らの足に足を絡めて壮大に尻餅をつく。痛いなんて感じなかった、何よりその人の後ろの光景が目に入ったから。
そこには首を切られ血だらけになった母の姿があった。床が真っ赤に染まり、誰が見ても助からないときっと思うほどの、出血量。当然母は助かるはずなどなかった。
瞬間的に頭に浮かんだのは、先程ニュースでやっていた連続殺人犯の事件についてだ。先程まで見ていた画面が脳内で連写的に写される。
この時俺はや理解した。こいつが殺人犯だと。
俺は必死に後ろへ下がる。そして当然背は壁に当たりそれ以上下がれなくなる。殺される前のごくありふれた光景。そして、大体の場合は死を迎える。
もう、死ぬんだ。だってまだ10歳だぜ。まだ、童貞なのに人生がこれからって時なのに...... ここで終わるのか、俺の人生。
目の前に立つ人。そいつはこちらを見て軽く微笑んだ。だが、その目は笑ってなどいなかった。まるでゴミを見るような目だ。
死んだらどうなるのかな、どこかの作品の様に異世界に転生して人生を楽しくいきれるのかな。それともその先は何もない無なのか。
なんにせよもう、死は訪れるんだ。
そいつは血まみれのナイフを大きくゆっくり振り上げた。
やるんだったらさっさとやってくれよ。
俺は目をつむる。死ぬことの恐怖に対して、自らについた傷跡を見たくなくて。
そして暖かい液体が体中にかかる。すぐに血だと理解する。
あれ? 痛くない、それより何も感じない。
おかしい。それとも死ぬほどの傷は痛みを感じないのか? 恐る恐るゆっくりと目を開けた。
そこにやつはいた。首から血を吹き出しながら、ナイフを振り上げた状態で静止していた。
「え?」
状況を飲み込めず出た言葉はその一言だけだった。
徐々に血は収まり、そいつはナイフを床に落としその場に倒れた。
何で? そう自分に問おうとしたがその前にもうひとつの人影が目の前にあることに気付いた。
ゆっくりと、上を見上げる。
白髪の男性がこちらを見ていた。
「大丈夫か? 少年」
え? 誰だこの人。それより俺は救われたのか?
「ごめん、君の両親は助けられなかった」
俺はその男性をただ見上げている。
「ちょうど近くを通りかかった時に、女性の悲鳴が聞こえて」
俺はただその男性を見ていた。救われたんだ、俺。
男性は、悩んだように頭をかき口を開く。
「少年、君の名前は?」
そこでやっと俺はある程度状況の判断ができ、口を開いた。
「犬神銀です」
「そうか、私はマフィアに所属している藤原拓美だ。もし、君にいく宛が無いのなら喜んで銀君を迎え入れよう」
そういってゆっくりと彼は手を差し伸ばし、微笑んだ。
これが彼との出会いだった。
少し書きためているので、二時間後に次がだせれると思います