一日遅れのプレゼント
―――
「優衣あんた、昨日はちゃんと将輝にチョコ渡せたの? 」
二月十五日。詰まる所、バレンタインデーの翌日。月曜日。
終業のチャイムが鳴り終わるとすぐに、親友の優花に問い詰められる。
「えっ……あっ…うん…… 」
なんとか話題を逸らせないかと目を逸らすが、彼女は真っ直ぐに私を見続ける。
「……はぁ。将輝、結構モテるんだから、本当に誰かに取られちゃうわよ? 」
私がバレンタインチョコを将輝に渡せなかったという事は、彼女の中ではもう既に確定事項のようだ。
いや、まあ実際渡せていないんだけど。
「渡すつもりだったんだよ? 渡すつもりだったんだけどね…… 」
「一週間も前の喧嘩をいつまで引きずってるのよ。仲直りする良いチャンスじゃない」
そう。私は一週間前に将輝と喧嘩した。家は隣で昔から一緒にいることも多いので、喧嘩をすると気まずさが半端じゃない。ただでさえ同じクラスなのに、生活のリズムが近いことも相まって、学校以外で顔を合わせることが運命的なくらい多いのだ。
「うーん……そうなんだけど……」
「今日の将輝、なんか元気なかったわよ。チョコだって、作ってあるんでしょ? 」
喧嘩のきっかけも些細なことだった。風邪を引いていた将輝のために私が作った料理を、不味い不味いと繰り返すから、カッと来てしまったのだ。
私は頻繁に料理をする方ではない。それでもたまに将輝に手料理を振る舞うと、いつもは美味い美味いと言って食べていた癖に。
あぁ、思い出したらまた腹立たしくなってきた!
「まあ、作ってはあるんだけどね 」
「じゃあ今日、一日遅れにはなっちゃうけど、ちゃんと渡して仲直りしな。絶対ね 。仲直りするまで私はあんたとは話さないから」
「えっ、ちょっと!」
優花はそう言い放つと、私の返事は聞かずにそそくさと帰っていってしまった。
―――
掃除を終えて帰宅すると、私服に着替えて冷蔵庫へと向かう。
将輝は運動神経は抜群なのに、なんでか私と同じで帰宅部であるから、今家に行けばきっともう帰っているだろう。
チョコを冷蔵庫から出すと、見栄えが良いことを最終チェックして綺麗に包装する。
「よし、完璧! 」
我ながら最高の出来栄えだ。あまりに美味しそうで、つまみたくなるくらいだ。
こんな所で味見はしないという私のポリシーは揺らいだりしないが。
チョコを持って家を出ると、将輝の家まで徒歩十秒で辿り着き、玄関のベルを鳴らす。
「はーい」
そう言いながら玄関を開けて出てきたのは、将輝だ。
「なっ……なんだよ 」
やはり気まずさは将輝も感じているようで、あからさまに態度から見て取れる。
「チョコ。昨日渡しそびれたから 」
出来るだけ落ち着いた口調を心掛けて、私はチョコを差し出す。
「お、おう。サンキュ 」
将輝はそう言ってチョコを受け取ると、ドアを閉めて家の中へ戻ろうとした。
「………何? 」
閉めようとしたドアに足を突っ込んで無理やり塞いだ私に、将輝が怪訝そうな視線を向けてくる。
「今、ここで食べて 」
「なんで? 」
「いいから 」
四の五の言わせずにそう急かすと、将輝は黙ってラッピングを解き、チョコを口に放り込んだ。
「……うん。美味い 」
ごくりとチョコを飲み込むと、将輝がそう言う。
「そう、良かった 」
私はそれだけ言うと、満足して自分の家へと帰った。
翌日、将輝は原因不明の体調不良とやらで学校を休んだ。